交渉決裂
胃の違和感に苛まれながら通りを歩いていると、スーツの男に声をかけられた。
男はギャングのメンバーであることを明かし、わざわざ名刺を渡した。そこいらのチンピラ風情とは違うようだ。
「声をかけさせていただいたのはお願いがあってのことです」
「お願い?」
「はい。その娘を返していただけませんか? その娘は私たちの所有物です。所有物を奪われて見過ごすわけにはいきません」
確かに、アレシャンドラはギャングの隠れ家にいた。その理由こそ不明だが、ギャングと関わりがあることは間違いない。ギャングの所有物だという主張もわからないでもない。
アレシャンドラを連れてきたのは、ギャングの内情とボスの居場所を掴むためだ。彼女が記憶を取り戻したら別れるつもりだった。
交渉役をよこしたということは、ギャングはもう俺と争うつもりはないらしい。それなら交渉に応じてアレシャンドラを返すべきだ。
だが、アレシャンドラからは俺と同じ匂いがする。このまま黙ってギャングに明け渡すのは俺の良心が許さない。
とはいえ、だ。俺もこれ以上ギャングと揉めるつもりはない。
ギャングは壊滅状態。オースティンから頼まれていた当初の目的は達成した。アレシャンドラを返すことで戦争が避けられるなら――
とにかく、これは俺に決められることじゃない。ここはアレシャンドラ本人に決めてもらうのが得策だ。
「アレシャンドラ、君は?」
「断然こっち側っしょ。ギャングの所有物とか知らないし」
即答。その答えに安堵した自分がいる。
「約束、忘れた? 記憶が戻るまでは養ってって言ったっしょ」
「はいはい、わかってるよ。じゃあ、そういうことだ。アレシャンドラは俺がしばらく預かる。記憶が戻れば返そう」
ギャングは眉をひそめた。
「それでは手遅れなのですよ。今すぐ返していただけないのでしたらこちらにも考えがあります」
「強奪する気か。まあ、それもいい。こっちも全力で迎え撃たせてもらおう」
「残念ですね。賢明な判断を期待していたのですが」
「仕方ないさ。俺は約束を破れないたちなんでね」
交渉決裂。どうやらギャングとの戦争は避けられないようだ。
まあ、別に構いやしない。元よりギャングを潰すつもりだったし、もう一手間かければ済む話だ。
「根絶やしになっても恨むなよ」
俺は男の顔色がさっと青ざめるのを見逃さなかった。
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