オースティンと憂鬱
何十人ものチンピラを掃除してようやくギルドに辿り着いた。
受付で話を通すと、少しして長身痩躯のスーツ姿の男が俺たちの前に現れた。
「初めまして。私はここの支部長を務めております、オースティンです。バース様とチェリーコード様ですね、お待ちしておりました」
「どうも。ここに来るまでの道中で大体の状況はわかりました。これはなかなか大変そうだ」
「ええ。ですが、トップランカーのお二方にかかれば解決いただけるかと。まあ、立ち話もなんですので、私の部屋に移動しましょう」
錆びかけたエレベーターに三人で乗ると、揺れが足の裏から伝わってきた。途中で止まるのではないかと少し冷や冷やした。
しかし、俺の心配は杞憂に終わり、無事目的の部屋まで運ばれた。
オースティンの部屋はまるで図書館のようだった。連なった書架にはファイルが整然と詰められており、その奥に更地のようなデスクが見えた。
「ここにはサラビアロの人間の資料がファイリングされています。主には犯罪歴のある人間の資料ですが、対処できる力がなければ意味をなしません」
「実力のある犯罪者ならギルドに取り込めばいいんじゃ?」
「それがそうもいかないのですよ。ギルドは連中に敵視されていますから」
「どうしてですか?」
「ギルドは弱者を救えませんからね。実力ある者はギルドに入り、報酬を得て裕福になれる。ですが、実力なき弱者は路地裏で闇討ちのようなことをしたり乞食のようなことをしたりしなければ生きていけない」
「なるほど」
「そこでお二方に掃除を依頼したのです。ある程度の水準まで治安を戻さなければ手のつけようがありませんからね」
「その後の策は何か考えてあるんですか?」
「策というほどのものではありませんが、犯罪者が減れば残りの犯罪者を駆除する依頼を弱者にも与えることができます。杜撰な策で申しわけありません。ですが、現状では犯罪者を減らすことがこのスラムを打開する唯一の方法なのです」
「わかりました。それで、まずは何から手をつければ?」
オースティンは書架から一冊のファイルを抜き、デスクの上に広げた。
「これはサラビアロの裏社会を牛耳っているギャングの資料です。ボス、幹部から下っ端までほとんどの情報が入っています。このギャングを壊滅させることができれば一歩前進といったところですね。ただ――」
「ただ?」
「ギャングが壊滅したらギルドと戦争になることは間違いないでしょう。いかに混沌を抑えられるかがお二方の手にかかっています」
「プレッシャー……」
「ふふっ、それだけ期待しているということです。どんなトップランカーにお願いしても解決には至りませんでしたから、私も半ば諦めていたのですよ」
「ご期待に沿えるよう努力します……」
憂鬱だ。いくらトップランカーでもこれは多勢に無勢。
俺は頭を使うのが得意じゃない。元より頭はよくなかったが、この世界に来てから脳筋になってしまった。
まあ、考えても仕方がない。犯罪者共を蹴散らせばいいだけの話だ。
開き直り甚だしく、俺はギルドを立ち去った。
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