悲しい瞳

 クローディアが寝息を立て、チェリーコードも隣でうとうとしている。


「ザ・リッパーは――クロードは殺しでしか満たされない。リバースにもその節があったけど、やつにはちゃんと目的があった。クロードには目的がないんだ」


「目的もなく人間を殺すなんて、純粋なバーサーカーみたいね」


「……そうだな。目的がない分厄介だ。あの様子じゃ止められないかもしれない」


「殺すの?」


 はっとした。

 もしザ・リッパーを消せなかったら、その時は――

 初めて殺しをやった時のことを思い出した。

 一人の犯罪者を殺すか、犯罪者が大勢の人間を殺すのを許すか。

 同じだ。命があの時と同じ天秤にかけられている。

 あの時、俺は大勢の人間の命を守ることを選び、一人の人間を殺した。でも、罪のないクローディアを殺すなんて、俺にはとてもできない。それに――

 クロードの瞳の奥に暗いものを見た気がする。


「悲しい瞳だった。本当の悪者ならあんな悲しみを瞳に宿せない。俺には殺せないよ」


 俺の肩とチェリーコードの肩が触れ合う。


「バースは優しいのね」


「俺が? 俺だって数え切れないほどの人間を殺してきた」


「確かに、誰かにとっては悪者かもしれないけど、それ以上にたくさんの命を救ってきたじゃない。少なくとも、私はバースのことを優しい人だと思ってるわ」


「……そうか」


 チェリーコードがそう思ってくれているならそれでいい。それだけで俺が優しい人間だという証明になる。

 そういえば、チェリーコードも出会った時は悲しい瞳をしていた。俺に救えるなら、クロードも――

 まどろみに誘われるまま、俺は眠りに落ちた。

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