イマジナリー・ザ・リッパー

 ギルドに話を通し、少しの間アパートでクローディアを預かることにした。

 クローディアの母は無事解放され、ギルド精鋭の狙撃部隊を貸りることができた。俺たちのパーティーの名がそこそこ知れていたから成し得たことだ。


「すまないな、クローディア。屋敷に比べたら窮屈で不便だとは思うけど、ちょっと我慢してくれ」


「うん」


「お腹空いただろ。チェリーコード、料理は頼んだぞ」


「オッケー。クローディアは何が好き?」


「クリームスープ」


「お嬢様なのに欲がないのね。ちょっと待ってて、すぐ作るから」


 キッチンに入るチェリーコード。

 最初はとても美味しいと言えるものは料理できなかったが、俺が練習台になった甲斐もあって最近はなかなか上達してきた。

 ソファーで料理を待っている間、クローディアはなんだか楽しそうだった。何をしているわけでもないのに、両足をぶらつかせてご機嫌のようだった。


「どうかした?」


「ううん。パパとママはいつも仕事で一人だから、お兄ちゃんたちと一緒にいると嬉しくって」


「そうか。一人は寂しいもんな」


「うん」


 クローディアの中に潜むザ・リッパーは、イマジナリーフレンドに似たようなものなのかもしれない。ザ・リッパーが寂しさから生まれた人格だとすると、なんだかやるせないような気持ちにもなる。

 だが、昨夜見たザ・リッパーの容姿は明らかにクローディアとは異なっていた。金髪、碧眼こそ同じだったが、あれは彼女が成長したような姿だった。それも、悪い方向に。

 クローディアが孤独なまま成長した姿――それがザ・リッパーなのかもしれない。


「ねぇ、お兄ちゃん」


「なんだ?」


「多分、今夜もザ・リッパーが出るよ。予感がするの」


「そうか」


「もしどうにもできなかったら、その時は――」


「俺を信じろ。なんとかしてみせる」

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