231.鍛冶職人への依頼

 程なくしてランベールたちから鍛冶工房を作って欲しいという要望を受けたものの、当面の間は後回しにさせてもらった。


 なにせ五十人分の住居を用意しなきゃいけないのだ。構築ビルドのスキルがあるとはいえ時間がかかる。


 そもそも鉱石がなければ何も作れないということもあり、ふたりとも一度は納得してくれたんだけど……。


 妖精鉱石が大量に保管されていると知った途端、目の色を変え、鼻息を荒くしながら声を上げた。


「信じられん……。こんなに良質な妖精鉱石を放置したままとは……。なぁ、リオたん?」

「そうだね! 鍛冶職人がいなかったし仕方ないとは思うけど、ちょっとありえないよねえ、ランたん?」


 光にかざしたり、あるいは鉱石そのものをかじってみたりと独特の鑑定方法で品質を確かめ、ふたりは言葉を交わしている。


「工房があれば、すぐにでもタスク殿にふさわしい武具を作って差し上げるのだが」

「剣、槍、斧……。遠慮せずに言ってください! ランたんはどれを作っても超一流ですので!」

「おいおい、リオたん、そんなに褒めるなよぉ〜」

「だってぇ、ランたんの腕前、知ってもらいたいじゃんかぁ」


 全身をくねらせていちゃつき始めるマッチョがふたり。三度目の光景ともなると慣れてしまうから不思議だ。


 しっかし、武具ねえ? 戦闘なんざからっきしだし、作ってもらったところで宝の持ち腐れだと思うんだよね。


「それよりか、鍋や包丁を作ってほしいね。しっくりくる調理器具がなくてさ」


 そう応じた途端、ダークエルフの大男ふたりは目を丸くして、まじまじとオレを眺めやる。


「鍋、包丁……?」

「フライパンでもいいけどねえ」

「妖精鉱石で調理器具……」


 程なくしてどちらともなく目線をあわせたランベールとリオネルは、爆笑しつつ、互いの背中をバシバシと叩きあい、涙混じりに口を開いた。


「ふはははっ! こいつは傑作だっ! 妖精鉱石で鍋を作ってほしいなどと頼まれた鍛冶職人は、古今東西、我々以外おるまいてっ!」

「ひーっ……! お腹痛いお腹イタイっ……! しかも領主さん、大真面目なんだもんっ! 妖精鉱石で包丁とかさぁ……!」


 ……あ。そういえば、ハヤトさんが愛用していた武器も妖精鉱石製だっけ? 災厄王と暗黒龍との戦いで使ったってやつ。


 超貴重な鉱石で調理器具を作るとか、冒涜に近いものがあるんだろうなあ。クラフトゲーでいうところの、ダイヤモンド鉱石を使ってクワを作るみたいな感じ?


「いやいや、なかなかに愉快な要望を聞かせていただいた」


 ようやく笑いを収めたランベールは重低音の声を響かせて呟くと、その依頼、喜んでお受けしようと言葉を続ける。


「なかなかに面白いではないか。武器より調理器具を欲する領主など聞いたこともないが、争いを好む領主より、よほど好感が持てる。なあ、リオたん?」

「うん! 楽しみだね、ランたん!」


 目を細めて応じたリオネルは、視線をこちらへ向け、オレの全身を興味深げに眺めやった。


「しっかし、変な人だってことはイヴァンから聞いてたけど、まさかここまで変だとは思ってもなかったよ」

「……あいつ、そんなこと言ってたのか」

「悪い意味じゃないんですよ? いい意味で変だって」


 いい意味の変っていうのはどういうことだろうか? 今度、イヴァンにじっくり問い詰めてやろうと考えていると、ふたりは楽しげに口を開いた。


「工房ができてからの話になるがな。完成品を楽しみに待っていてもらおう。なあ、リオたん?」

「一世一代の大仕事だね、ランたん! 力を合わせて頑張ろう!」


 そんなレベルの仕事になるの? マジで?


 ……いや、まあ、頼んだのはオレなんで口は挟みませんけどね? もしかするととんでもないこと依頼しちゃったのかなあと、ちょっとだけ後悔。


 アルフレッドから、こんなことに妖精鉱石を使うなって怒られそうな気もするけど……。完成するまでは黙っておこう。


***


 新たな移住者たちの住居作りが始まった。


 子供のいる家庭は従来の住宅地近く、商いを目的にやってきた人たちには市場近くにと、用途に見合った土地を選びつつの建築作業だ。


 それに加えてもうひとつ、学校に隣接してアスレチック施設を作ることにした。


 ジャングルジム、ブランコ、雲梯の他に、砂場や木のボールで埋め尽くされたプールなど……。


 子供たちが楽しめるだろう設備を盛りだくさんに用意する。


 共通する遊び場があれば、知らない子同士でも仲良くなりやすいと考えて構築ビルドし始めた施設は、ランベールとリオネルのふたりも作業に加わってくれた。


「工房ができるまでは手持ち無沙汰ですからな」

「子供たちの喜ぶ顔が見られるなら、ボクたちも嬉しいですし!」


 積極的に手伝うふたりのダークエルフには、次第に子供たちも懐き始め、作業の合間合間で遊び相手になっている姿を見かけるようになる。


「ふたりとも子供好きなの?」


 アスレチックの組立作業中、何気なく尋ねたオレへ、ふたりの鍛冶職人は少し困ったような顔を浮かべてみせた。


「うん。まあ、そうだな……。望んだところで、我々は子を持てないし」

「だから、その分、他所様の子供を大切にしようって決めているんです」


 そうか……。悪いことを聞いてしまった。


「例えばだけど、国に養子制度はないのか?」

「あることはあるが、金銭に余裕のある夫婦のみに許される制度だからな」


 うーん。同性のパートナー同士だろうと、問題がなければ養子を迎えてもいいとは思うけど……。ここらへんは判断が難しいよなあ。


 うちの領地でも今後検討しなきゃいけないかもなとか、そんなことを考えながら、とにもかくにもアスレチック施設は完成した。


 子供たちが遊ぶ前の安全性の確認にはアイラが立候補し、目を輝かせながらジャングルジムに上り、全力でブランコを楽しんでいる。


「ぬふふふふ! タスクよっ! これは実に楽しいな! よくぞ作ってくれた!」


 安全性の確認という任務を忘れ、キャッキャとはしゃぐ猫人族の妻は、程なくして子供たちを呼び寄せ、一緒に遊び始める。


 ……アイラのために作ったわけではないんだけど、楽しそうだし、まあいいか。


 さてさて、こちらは住居作りへ戻るとしますかね。終わったら鍛冶工房も準備しないければ。


 そんなこんなで引き続き資材などを用意していた矢先のこと。


 どこから話を聞きつけたのか、警察組織に入りたいという人物が名乗りを上げたのだった。

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