05.海辺の探索、畑作り
海へ足を運ぶのは、食料を入手する以外にも目的がある。
浜辺に漂着物があるかどうかを確かめる、というのがそれだ。もしこの世界が『ラボ』のゲームと同じなら、他にも住んでいる人がいるはずだし、もしかするとオレと同じような境遇のプレイヤーだっているかもしれない。
他の所で暮らしている人たちが廃棄した生活用品が、波に乗って流れ着いているかもしれない。あるいは船から落ちたものが漂着している可能性だってある。
異世界での新生活も、いつまでも一人きりというのはなかなかに厳しい。かつて見た海外のサバイバル番組も、一番の敵は孤独感だと言っていたしな。
それに、自給自足を目指すとはいえ、限界もある。他に人がいるなら、交流や物々交換などを通じて生活を続ける上で役立つような物を入手できるだろう。
淡い期待を胸に秘め、背の高い雑草が生い茂り、樹木や岩石が点在する平地を歩くこと三十分強。道なき道はいつまで続くのか、と、いい加減ウンザリしているところに、ようやく白い砂浜を視界へ捉えることができた。
どうやら住居を構えた場所は高台になっていたらしい。なだらかな坂道を下っていくと、
波音が徐々に大きくなっていく。潮風が強くなり、太陽に照らされた、一面のコバルトブルーがオレを待ち構えていた。
***
「うおー!! すっげー!!」
白い砂浜、そしてどこまでも美しく、透き通った海! リゾート地を彷彿とさせる風景は思わず感動を覚える。
粒子の細かい砂地を、キュッキュッと踏みしめながら辺りを見渡す。周りを断崖絶壁に囲まれ、湾曲した形状の入り江になっているようだ。
昨日一日過ごしていた体感で、比較的、穏やかな気候だなと思っていたこともあり、予想通りというか、南国特有の植物、ヤシの木などを見つけることはできない。うーん、そりゃそうか。
「それでも、多少は異世界特有のトンデモ設定を期待したんだけどなあ……」
ま、重要なのは漂着物の方なので、とりあえずそちらを探すため、砂浜の端から端までいったりきたりすることに。
その結果、何と小さな鉄鍋を発見! 砂浜へ流れ着いた海藻に絡まっている漂着物を見つけた時は、思わず駆け出しちゃったもんね。いまも、嬉しさのあまり、優勝トロフィーを掲げているんじゃないかって勢いで、鉄鍋を天に掲げちゃってるし。
これぞ、この世界に文明と人がいるという証! さらに喜ばしいことに、穴が開いている様子はなく、綺麗に洗えば十分使えそうだ。うんうん、幸先がいいぞぉ、これは!
日を置いて、何度か足を運べば、他の物が流れ着くことだってあるだろう。近いうちにまた探索をしなければと考えながら、オレはもう一つの目的である食料の入手に取りかかった。
「できれば魚を手に入れたいところ……なんだけど」
あいにく釣り竿はなく、さらに言えば、糸も針もない。手っ取り早く探せるのはやはり貝類だろう。
そんなわけで、子供の頃にやった潮干狩り以来となる貝の採取をやってみることに。あわよくばカニとかも欲しいけど、高望みはしない。
波が流れ着く砂浜の辺りを、ざっくざくと掘ってみる。手応えはすぐにあり、固い感触が手に伝わったので、それを掴み取って海水で表面を洗い流す。
姿を見せたのは白地に茶色の線が何本も入った、幅七センチぐらいの大きな貝で、その見た目は、元いた世界で言うところのホンビノスガイに似ている物だった。
ちょっとした大きな石ぐらいの厚みもある。この分なら、中にある身の部分も食べ応えがありそうだ。
しかも、この入り江に人の手が入っていないからなのか、天敵がいないからなのかはわからないが、この貝が面白いように見つかるのである。
今後のことを考えつつ、三十個程度の貝を集め、用意しておいた木の桶へ海水ごと入れておく。もう一つの木の桶には海水だけを入れておき、こちらは塩の精製用として使うことに。
思わぬ収穫にホクホクしながら来た道を戻っていくのだが、海水と貝が入った木桶のずっしりとした重さはなかなかに厳しく。
「か、身体なまってんな……。デスクワークばっかりだったし、仕方ないけど……」
途中途中休みながら、結局、一時間近くをかけて、家に到着したのだった。行きはよいよい、帰りはつらいと、昔の人は良くいったもんだなあ……。
***
採ってきた貝類は、そのまま木桶の中で砂を吐かせることにする。すぐに食べたいところだけど、少しでも美味しくいただきたい。もう一つの木桶に入れている海水の一部は、石鍋へ入れて強火にかけておく。水分が無くなれば、自然と塩ができているハズだ。
その間、オレは道具作りへ取りかかることにした。まずは四種類、畑を作るためのクワ、それに斧とスコップ、ツルハシを、木材と石材で
道具を作ろうと思ったのは、海へ行く途中、背の高い雑草がジャマだったので払いのけようと、手に持った木桶を振るったことがきっかけだった。
折れ曲がると思った雑草は、手刀で切った時と同じように、スパッという音を立て、綺麗に消滅したのだ。
なるほど、手に持ったものを経由しても、手刀で素材を集める効果は消えないらしい。
「ということは、手で直接、樹木や岩石を打ち付ける必要はないんじゃないか……?」
……いや、賢明な皆様におかれましては、手で採取できるものを、わざわざ道具を使う必要なんかどこにもないだろうと思われるでしょう。
しかしですね、樹木や岩石へ手を打ち付けるのって、何度やっても結構ドキドキするんスよ、いやマジで。
いきなり手刀の能力が使えなくなったとしたら、樹木や岩石へ手を打ち付けた瞬間、待っているのは大ケガだしね。万が一のことを考えても、道具は用意しておいたほうがいいだろう。
そんなわけで、道具作りへ取りかかったのだが。斧やツルハシの鋭利な部分を、石材でどこまで再現できるかという、多少の不安があるわけで。
どうなるものかと思ったものの、構築の能力は実に優秀だった。木と石という原始的な組み合わせの割に、鉄製にも引けを取らない、売り物のようなしっかりした道具類が完成。
「これで、ヨシ! それじゃ、食料調達のための第一歩といきますかね!」
作り上げた道具の中から、クワを手に外へ出たオレは、家の西側へ小さな畑を作り始めることにした。いやはや、家庭菜園など小学校の授業以来だなあ。
とはいえ、農業を扱うテレビ番組を好きなおかげで知識だけはある。「鉄腕DASH」を見ていて良かった、うん。
早速、地面へクワを一振り。瞬間、サクッという音と共に、地中の土が噴き出すように盛り上がり、一瞬にして一メートル四方が耕された。
うーん、実にありがたい! 慣れない農作業もこれなら一瞬で終わりそうだ。とりあえず、盛り上がった土の中から石などを取り払いつつ、十メートル四方の畑を作り上げる。
畝の中へ茶色の種を埋めて、その上から水を掛けたら作業は終了。食料事情を改善するためにも、ゲームと同じ収穫期間であることを祈るのみだ。
「……というか、実際問題、作物が収穫できるかどうかわからないんだよな」
これで雑草が生えてきたら目も当てられないんだけど。とにかく、いまは食べられるものが出来上がることを信じるしかない。
やれやれ、この世界で生き残るためには、まだまだ苦労が多そうだと、ため息を吐くのと同時に、胃袋が抗議の声を上げていることに気付いた。
貝の砂吐きも終わっていることだろうし、「ミンゴ」も残っている。まずは空腹を満たして、それからこれからの事を考えよう。
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