03.火と水の確保、そして家作り

 この世界で暮らしていくと決めたからには、やらなければならないことがいくつかあるワケで。


 生きるためには水と食料が必須だし、火を起こさないと暖を取ることも、食料の調理もできない。


 そして家だ。放り出された草原の周囲を見渡すと、左右と後方は森で囲まれている。前方にはうっすら海が見えるのだが、結構な距離の場所にあるようで潮の匂いはない。強烈な海風が吹いてくることはなさそうである。


 食料や水の調達を考えれば、自然の恵み豊かな森の中を拠点にするべきなんだろうけど……。危険回避のスキルが使えない上、急に熊やイノシシ、毒蛇とか出てこられても怖いしな。もっといえば、ゲームと同様、モンスターの類が現れた瞬間、ジ・エンドである。


 幸いなことに、今いる草原は点在する樹木や、大きめの岩などを撤去すれば開けた土地になりそうだし、とりあえず、ここに当面の住居を構える事に決めて、早速準備に取りかかることにした……んだけど。


 よくよく考えれば、部屋着のまま放り出されたわけで、短パンとTシャツ、裸足のままの状態でサバイバルというのも酷だな、と。

 せめて足裏を守るために、先程の木材で靴を作ることにしたのだった。


再構築リビルド。そんでもって構築ビルドっと」


 木材を小さくしてから貼り合わせ、簡易的な木の靴を作ってみる。妙に角張って、履き心地は悪いけど、この際、贅沢は言わない。ケガをしないだけでもありがたいものだ。

 やれやれ、こんなことなら普段から部屋の中でもスリッパぐらい履いておくんだったなあ。


 というわけで、靴を装着してから早速、伐採作業に入る。……とはいっても、斧は無く、オレ自身の手刀で木を切り倒していくのだが、同じ作業を何本も繰り返したところで、違和感は消えず。


 同様に、草原に転がっている岩も壊して加工しようと思ったんだけど……。木と違って、手刀を打ち付けるのにはなかなか勇気がいるモノで。


 いや、だってそうだろ? 手刀で加工できるものはもしかしたら木だけの可能性もあるわけじゃないか。思いっきり手を打ち付けた瞬間、硬い岩が割れることも無く、手を痛めるだけの結果に終わったら悲しすぎる。


 ……そんなわけで、躊躇いながら、五割程度の力で岩に手刀を打ち付けてみる。臆病者だと笑いたければ笑うがいいさっ。怖い物は怖いのだっ。


 まあ、結局、ありがたいことに、五割程度の力でも、 カーンッ! という、小気味いい音を立てながら、少しずつ岩にヒビは入っていってだね、木の伐採と同じように、何回も同じ事を繰り返したら見事に割れたんですけどね。いやはや、どうなることかと思ったけど、良かった良かった。


 ……で。草原にあった樹木と岩をガシガシ加工していって、ある程度、草原が拓けた頃には、結構な数の素材が揃ったワケだ。


 木材、樹脂、木の枝、木の皮はもちろん、木を倒したことで果実もいくつか手に入ったし。破壊した岩はレンガのような長方形の形に再構築リビルドしてある。


 ここで発見したことがひとつ。再構築した素材は、重さを感じないのだ。角材のような大きなものでも、鳥の羽のようにヒョイと持ち上げることができる。


 これなら住居作りも簡単にできそうだぞと、一安心しようとした矢先、用意した素材の量を見てハッとなった。


「家を作るには、木材が足りないよな、コレ……」


 木材同士を組み合わせていくのは構築ビルドの能力を使うからいいとして、目の前にあるものを全て使ってみても、一メートル四方の部屋が出来上がるのが関の山じゃないだろうか?


「流石に膝を抱えながら寝るってのはちょっとなあ……」


 だからといって、野宿は回避したい。どんな野生動物がいるかわからないのだ。後方をチラッと眺め見ると、鬱蒼とした森が目に映る。


「森に入って、伐採するしかないか……」


 明らかに人の手が入っていない森というのが、遠くから見てもわかるほどで、どう考えてもいろんな生物がいるんだろうなあって感じなのだが……。


 とはいえ、木材を確保するのと同時に水場を探さなければならず、背に腹は代えられない。地面を掘って湧き水を探そうと思ったが、慣れない素材集めでかなり時間を浪費したらしい。頭上の二つの太陽はゆっくりと傾きはじめ、日没まで余裕はなさそうだ。


 覚悟を決め、万全を期すために火を用意することにする。危険な動物がいても、火には近づかないだろうからな。


***


 火起こし器は『ラボ』のゲーム中でも作れる原始的な道具だ。


 小さな木材と木の枝があれば構築できる。そんなわけであっさり作ったまでは良かったんだが、致命的な問題がひとつ。


「……現実リアルでこの道具、使ったこと無いんだよなあ」


 穴の開いた木の板に、棒を差し込み、摩擦熱を起こすことで火種を作るという、極めてシンプルな道具なのだが。あいにくこちらは現代に生きるサラリーマンだったのだ。そんな道具を使ったことが無い。


 とはいえ、やらなければ生きる術は無く。ああでもない、こうでもないと、木の棒をこすり合わせて格闘すること三十分以上。


 途中で心が折れそうになったり、手の皮が剥けたんじゃないかという痛みにも堪えて、ようやく小さな火種を作ることに成功! おっかなびっくりしつつも、慎重に火種を大きくし、薪へくべることができたのだった。


 いやあ、思わずガッツポーズしたよね、ホント。嬉しいったらなかったもんな。普段、何気なく使っているガスコンロのありがたさがわかるよ、ホント。文明は偉大だね。


 さてさて、たき火は加工した石で囲み、風で消えたり、森へ延焼しないよう注意する。ここは草原なのだ。山火事になったら、逃げ場所はない。


 火元が安定したのを確認し、木材の先に樹脂を塗った即席たいまつをひとつ用意してから森へ向かう。


 まだ明るい時間だが、森の中は暗く、視界が悪い。たいまつを用意しておいて正解だったようだ。

 とりあえず、草原近くの樹木から切っていき、極力危険を回避する。加工した素材は重みを感じないので、まとめて持って行ってもいいし、面倒だったら、放り投げたっていい。とりあえず数を揃えなければならない。


 同時に水場探しだが、幸運なことに、あっけなく見つけることができた。草原から森に入って五十メートルもない距離に、直径八メートル程度の池を発見したのだ。


「おお、ラッキーなんじゃないか、これ!」


 しかも透明度が高い。よく見ると、何カ所か水面に波紋が広がっているのがわかる。どうやら湧き水らしい。助かった!


 早速、木材を組み合わせて構築し、桶を作って湧き水を確保する。正直、喉が渇いてすぐにでも飲みたいところなんだけど、森の中にあるということは、恐らく動物たちの水場にもなっているだろう。生水だと、寄生虫や細菌などが怖い。


 加工した石がまだ残っているので、石鍋を構築してから煮沸し、それから飲むことにする。うーむ、完全なサバイバルだな、こりゃ。


 何はともあれ、水は確保した。木材も揃ったし、あとは住居を組み立てれば一安心なのだが、伐採している間に空はすっかり夕暮れになってしまっている。


「ヤバイっ! 夜までに家を作らないと!!」


 ゲーム中と同じなら、夜は魔獣やモンスターなどが活発になるはず!


 焦ったオレは、急いで一夜を安心して過ごせる場所を作ろうと、急いで火元近くまで素材を運び、食事もとらず、デザイン性もこだわりも捨て、一心不乱に家作りへ取りかかる。こんな場所で野宿はゴメンだ!


 そんなこんなで脇目も振らず、黙々と再構築と構築を繰り返し、苦労の末、住居が完成したのだが……。


 そこにできたのは、長方形の木造小屋に木製のドアが付いただけのもので、どこからどう見ても豆腐の形にしか見えないような、センスのかけらも無い、酷く質素なものだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る