角原孝一の幽霊事件簿

たぁ

俺は角原孝一


 俺の名は角原孝一かくはらこういち

一見どこにでもいるような高校生だ。

特技は周りの雰囲気を敏感に感じること。

例えばマラソン大会の日などを想像してほしい。

辺りはどこもマラソン風景、誰でも独特な雰囲気も感じられるはずだ。

例えばその中から他の人とは違う、今から殺人事件を起こすことを考えている人の感覚を感じることができるようなものだ。

所謂≪異質な≫雰囲気を感じ取る能力に長けている。


 よく言う幽霊とやらもそれと同じようなものだ。

周りと違う感覚をもっているから感じ取れる。

だがどの特殊能力にも限界とかがあるらしい。

 俺の場合は半径30m程で近ければ近いほど正確だ。

その中なら、かなりの確率で異質な存在を見つけることができる。

 相手の嘘も見抜いてしまうので身内はおろか、友達さえ作れないで過ごしてきた。



 …そんな自己紹介を考えながら歩いてると、後ろからチャリンコで轢かれた。

『よっ、かくさん!おはよう!』

人を轢いといて随分なあいさつである。

『毎日毎日いてーよっ! もっとマシなあいさつはできねーのか!』

毎日のように俺に自転車でアタックしては元気のいいあいさつをするヤツ。

中川本樹もときとは今年から同じクラスになった。

彼は俺が言うのもなんだが背も高く陽気で、特に話術に長けていた。

実家がお寺のせいなのか、雰囲気も良いものを持っている。

表裏がない性格で、嘘を感じ取ったことは一度もない。

初めて会ったパターンだ。

そんな人気者が大人しくて目立たない俺を【漢の中の漢】と呼ぶようになったのはいつからだったか。

とにかくそれ以来、こうして朝も学校帰りにも付いてくるようになった。

話しはするが決して目立つのが好きではなかったから当時は困惑したし迷惑だったが、今では親友と呼べるヤツなのかも知れない。


 同じクラスになった時に前後の席だったから、彼は俺に近づいてきた。

他愛のない話だったが、気がつけばいつも行動を共にしているようになった。


 彼と出会うまでの俺はと言うと勉強ばかりしていた。

こんな質だから仕方ないのだが、本ばかり読んでいた。

高校もそれなりのところに行けたが、家から近い、エアコン付きに見事に釣られて3つもランクを下げて今の高校を受けたのは親にも内緒だ。



 今日も授業が終わると直ぐに本樹が声をかける。

それを合図に二人して学校を後にした。

踏み切りに来ると、すぐさま異質な気配を感じる。

視線を反対側に向けると真っ青な顔をした青年が立っている。

どう見ても生きているようには見えない。

相手もこちらに気づいたのか、じっと見据えてきた。

やがて電車が通りすぎ、解放されるとその青年は消えていた。

本樹は異変に気づいたのか、心配そうに聞いてきた。

いつもの事だと事も無げに歩き出す。

なんのことはない。いつもの事なのである。

たまに強烈な雰囲気を纏ったものに出くわすこともある。

そんな時は最近までは怯えて過ごしてきたが、今では本樹の親父さんから貰ったお札で逃げ切っている。


 本樹は寺の息子だが、そっち系の力はからっきしで親である住職さんもやれやれと息をつくばかりだった。

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