第15話 リュウヤとハルトムート

「ななな何と! 勝負はついていないのか!!」

「ええそうよ。アリ・ハリラー。ここは引き分けって事にしてあげる。だから、さっさと退散しなさい」

「退散? そんなことができるか! 私は魔石をあきらめない!」


 尚も地団駄を踏むアリ・ハリラーに対しリラ・シュヴァルべが静かに語り始める。


「フォルカスとアズダハーは、まだ本来の力を発揮していないのです。そして今、ララ室長が駆け付けられました。戦力的には我が方が圧倒的に優位。これでもまだ抗いますか?」

「当然だ。私は絶対に引かない。出でよ! ハルトムート!!」


 アリ・ハリラーの一言でエクセリオン3号の操縦席から飛び降りたパイロット。銀色の仮面をつけた黒髪の男、その名はハルトムート・ゼクス。


「貴様を使う時が来るとは思わなかった。思い切りやれ」


 アリ・ハリラーの言葉に仮面の男が頷く。それを合図にエクセリオン級の機動兵器はAIの自動操縦で後方へと退避した。


「さあ見せてやれ。底なしの魔力というものをな!」


 仮面の男が再び頷く。

 そしてその両手に大ぶりな雷球が形成され、周囲に眩い光芒を放った。


 仮面の男がその両腕を振りぬき、二つの雷球がフォルカスとアズダハーに命中してその周囲に広がる。眩く光る雷の球はその体積を広げ魔導生命体をすっぽりと包み込んだ。そして二体の魔導生命体はその動きを止めた。


「どうしたフォルカス、アズダハー。お前たちに雷撃など効かぬはずだ!」


 リラ・シュヴェルベの叫び。

 しかし、二体の魔導生命体はピクリとも動かない。その様子を見てリラ・シュヴェルベがつぶやく。


「まさか、時間を操っているのか?」

「さすがはリラ・シュヴェルベ。ご名答ですよ。あの雷球の中では時間の流れが非常に遅いのです。さあハルトムート・ゼクス。リラ・シュヴァルべとララ室長を捕えなさい!」


 アリ・ハリラーの言葉に応え、再び雷球を放つ仮面の男。

 二つの雷球はリラ・シュヴァルべとララ室長を目掛けて飛翔する。リラ・シュヴァルべは右掌を開いて前方に出し、その雷球を受け止めた。ララに向かった雷球はララのすぐそばにいた銀色の子狐へ命中して広がり、その子狐をその時間遅延空間へと閉じ込めた。しかし、ララはその場から消えていた。


 その場にいた誰もがララの姿を見失っていた。

 しかしその刹那、ララは仮面の男の懐に入り込み正拳を彼のみぞおちへと叩き込んでいた。ハルトムートは森の中へとすっ飛んでいく。


 リラ・シュヴァルべは両手でその雷球を掴んでアリ・ハリラーへと投げつける。狐の獣人ブレイバが咄嗟にアリ・ハリラーを庇ってその雷球をかわし、雷球は森の中へと消えた。そして漆黒の騎士リュウヤは間髪入れずララへとその大剣を振りかざした。


 ララへと振り下ろされた漆黒の大剣。しかし、ララは数センチだけ移動してそれをかわしていた。そしてララがリュウヤに反撃しようとしたその瞬間に漆黒の球体がララを包み込んだ。


 その漆黒の球体は地面へとめり込み、ララも片膝をついてその場にしゃがみ込む。


「急に体が……」

「ふははははあ! ララ室長。如何ですかな? リュウヤの重力斬は」


 狐の獣人ブレイバに抱かれつつ高笑いをするアリ・ハリラー。ララは眉間にしわを寄せアリ・ハリラーを睨んでいる。


「重力……を操る……とは……やる……」

「さあさあ、魔石を差し出すのです。そうすればあなた達の命までは奪わない」

「貴様の……言いなりには……ならない」


 ララは片腕片膝を地面につけ、額に汗を流して耐えている。

 必死の形相をしているララに対してアリ・ハリラーが語りかける。


「おや? その姿勢だと、重力に引かれて胸が大きくなるのでは?? あは! そんな胸は無いと……これは失礼しました(笑)」


 下卑た笑みを浮かべで下品な言葉を投げかけるアリ・ハリラー、そしてそのアリ・ハリラーを睨みつけるララ。ララの瞳はその強い意志を体現したかの如く、光を失ってはいなかった。


 ちょうどその時、リラ・シュヴァルべが銀色の子狐を包んでいる雷球に魔力を注いで破裂させた。眩い閃光が周囲に満ち、その場にいた全員の視界が奪われた。


 ガキン!


 金属を叩く音が響いた。漆黒の騎士、リュウヤの持つ大剣が折れその刀身が宙に舞う。


 リュウヤの目の前には、いつの間にか漆黒の球体から抜け出したララがいた。黄金のオーラに包まれたその姿は女神のように神々しい。そして渾身の力を込めた正拳をその腹部に叩き込んだ。リュウヤの鎧は漆黒の破片をまき散らして砕け、そしてリュウヤは後方へと吹き飛ばされた。アリ・ハリラーを抱えたままの狐の獣人ブレイバはその場を離れようと背を向けるのだが、ララは既にブレイバの正面へと回り込んでいた。


「な……なんと、あの重力斬の結界から抜け出しただと?? 常人ならぺったんこになる……胸じゃないぞ、体がぺったんこになるんだ。で……その、結界から何故??」

「胸胸胸胸胸え……胸がなんだ! 人の胸のサイズなど貴様には関係ない!!」

「怒ったの?」

「当たり前だ! 馬鹿者!!」


 ララはブレイバの股間をすり抜けて後方へと回り、そのふさふさとしたモフモフのしっぽを掴む。


「あへぇ♡」


 狐の獣人はいきなりふにゃふにゃと力が抜け、抱えていたアリ・ハリラーを地面へと降ろしてしまう。


「どうしたブレイバ!」

「いや……しっぽを掴まれると力が抜けるのです……ついでに気持ちがいい♡♡」


 周囲に♡マークをまき散らしてその場にへたり込むブレイバ。その尻をララが蹴飛ばした。狐の獣人ブレイバも森の彼方へとすっ飛んでいった。


「残念だったな。アリ・ハリラー。貴様を逮捕する」


 ララが手錠を出してアリ・ハリラーの右腕を掴んだ。


「ララ室長……何故、重力斬の結界から抜け出せたのだ。貴方の馬鹿力でもあの結界から逃れることは不可能……」

「加速装置は次元を超える。あの程度の重力結界など無いも同じだ」

「なるほど……そういえば前話でリラ・シュヴァルべが説明していた気がする……」


 さすがに諦めたのか、うなだれているアリ・ハリラーだった。

 彼は俯きながらぼそりと呟く。


「ララ室長。一つお願いがある」

「何だ。言ってみろ」

「リラ・シュヴァルべの胸のサイズを教えてくれ」

「(# ゚Д゚) 知るか!!」


 バチン!


 ララにびんたを張られるアリ・ハリラーだった。

 その頬には赤い小さなララの手形がはっきりと浮かび上がっていた。

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