第14話 バトル開始!

 対峙する黒龍の騎士フォルカスと漆黒の騎士リュウヤ。


 フォルカスの鎧は艶があるメタリック系の黒色で、龍の鱗を重ねてあるかのような造形をしている。そして手に持つのは細身の刀身を持つ片手剣だ。刃渡りは1.2m程。それに対し、リュウヤの鎧は艶の無い漆黒。そしてその両手には刃渡り2mの大剣が握られている。


 そんな大剣がまともに振れるはずがない。さあ打ち込んでみろ。


 そんな意思表示なのか、フォルカスは両手を広げて自身の体を無防備に晒した。間髪を入れずリュウヤが上段に打ち込む。

 あの大剣を、常人では構える事すら困難な大剣をまるで竹竿を振るかのように軽々と振るうリュウヤだが、フォルカスもまたその重い一撃を左腕の盾で受け止める。


 その刹那、黒い稲妻が周囲に弾ける。

 眩い黒き閃光は周囲の視界を奪う。そして、次の瞬間には双頭の大蛇アズダハーが巨大化した狐の獣人ブレイバに襲い掛かる。二つの巨大な顎をかわしたブレイバにフォルカスの剣が撃ち込まれる。

 見事な連携だが、その巨体に似合わない俊敏さでフォルカスの攻撃をかわしたブレイバだった。


「ほほう。やりますな。貴方の魔導生命体は」

「まだまだ序の口。これから本領を発揮しますよ」


 アリ・ハリラーの言葉に平然と答えるリラ・シュヴァルべ。

 しかし、彼女は眉間にしわを寄せていた。それは状況が芳しくないことを物語っているのだろうか。


 アリ・ハリラーはちらりとリュウヤを見つめる。その目配せに頷くリュウヤ。彼はその大剣を振り、一条の光芒を放つ。

 その光芒はフォルカスの盾へと命中し、その盾と鎧に大きな穴を穿った。


「フォルカス!」

「頑張って!!」


 後方に下がっていたフィーレとグスタフが声援を送る。

 しかし、フォルカスは左手の盾を落としてからゆっくりと仰向けに倒れてしまった。


「嫌だ! 負けないで!」

「立て! フォルカス!!」


 フィーレとグスタフの悲痛な声援もフォルカスには届かない。倒れた魔導生命体はピクリとも動かなかった。


 そのフォルカスに止めを刺すべく大剣を振ろうとするリュウヤに体当たりをする大蛇のアズダハー。しかし、その左首に獣人のブレイバが噛みつく。リュウヤが大剣を振り、アズダハーの右首を切り落とした。


 黒いタール状の液体を振りまいて痙攣している双頭の大蛇。ブレイバはその鋭い爪をアズダハーの胸、心臓へと突き刺した。そしてアズダハーは絶命したかのように動かなくなる。


「ふはははは。勝負は私の勝ちですな。さあ魔石を差し出すのです。約束ですよ」

「まだです。まだ終わっていません」

「負け惜しみですか? みっともないですよ。リラ・シュヴァルべ」


 アリ・ハリラーがうそぶく。

 ニヤニヤと笑いながらリラ・シュヴァルべの方へと歩いていくアリ・ハリラーだが、リラは右手を前に出して彼の動きを制した。


「おや? どうしましたか? 私に襲われるとでも思っているのでしょうか? まあ、貴方のような美しいご婦人には興味津々ではありますが、今は魔石の方が大事。さあ、魔石を差し出すのです。さもなくば、この周辺を火の海にして差し上げますよ。ふははははは!」


 大口を開け高笑いするアリ・ハリラーだが、一筋の煌めく光条がその眼前をよぎった。


「あ……ナニコレ??」


 その光条はエクセリオン一号の脚部に突き刺さった。それは鈍く光る十字手裏剣。15㎝ほどの刃が四本ある大型の手裏剣だった。


 そしてアリ・ハリラーの頬にうっすらと赤い線が走る。

 わずかばかりのごく浅い切り傷だが、その傷口からはつつと血がにじんできた。


「誰だ! こんな危ない事する奴は!! 僕の大事な顔に傷がついちゃったじゃないか!! ちょっと間違えたら頭に刺さって死んじゃうんだぞ!!」


 パニックになって叫ぶアリ・ハリラーを横目に、リラ・シュヴァルべは森の方角を向いて手を振る。


「お待ちしておりました」


 その声に応えるように金色の人影が森から飛び出てきた。

 それは黄金の光に包まれた金髪の少女、ララ室長だった。


「申し訳ない。自走したので時間がかかった」


 はあはあと肩で息をしているララ。その体を包む黄金の光は徐々に消えていく。そして、銀色の子狐も遅れて飛び出してきた。


「はあはあ、もう、ついていくだけで精いっぱいです。ここ、どこなんですか? はあはあ」

「たった300kmで音を上げるな、馬鹿者!」

「300㎞……そんなに走ったの……もう死ぬ」


 銀色の子狐、フェイスは激しい呼吸を繰り返しながらその場にへたり込んだ。


 その様子を仰天して見つめているのはアリ・ハリラー。


「何故あなたがここにいるのですか? ララ室長。貴方は吉原の事務所にいたはず……アルヴァーレの魔女っ娘達もありはり堂に引っかかっていたのに」

「何を呆けている。私が本気になれば100mは三秒だ」

「三秒……それにしては計算が合わないぞ。100mが三秒なら時速に直すと約120㎞。300㎞を走破するには二時間半かかる……」


 首をかしげながらスマホをいじくって計算しているアリ・ハリラーだが、リラ・シュヴェルベは苦笑しながらその姿を見つめていた。


「馬鹿ね。ララ室長の必殺技、加速装置を知らないの? 実質的に光速を超える大技なんだから」

「加速装置の話は聞いたことがあるが、それはだと思っていた。そのような装置が開発されたという話も聞いたことがないし、サイボーグでもない生身の体がそんな事が可能だとも思えないのだ」

「馬鹿ね」

「うるさい。ララ室長が到着したから何か変化するわけではない。先ほどの賭けは私の勝ちだ。貴女の魔導生命体は敗れた。さあ魔石を出しなさい」


 尚も魔石を要求するアリ・ハリラーだが、リラ・シュヴァルべは意にも介さずパチンと指を鳴らした。


 すると、地面から黒い微粒子が噴き出してきてフォルカスとアズダハーの周囲へと集まっていく。その微粒子はフォルカスの盾と鎧を元通りに修復し、アズダハーの破損した肉体をも修復していく。


 かくて、フォルカスとアズダハーは完全に復活して起立した。


「だから言ったでしょう。まだ終わっていないと。フォルカスとアズダハーは、私の魔力が続く限り死すことはないのです」


 怪しく微笑むリラ・シュヴァルべだった。

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