第1話 魔石の売人
「ヴァイス姉さま。こっちです」
「わかったわ。シュシュ」
蝶のような形状のごく薄い氷の羽根。その羽根を羽ばたかせて飛んでいく妖精のシュシュ。そのシュシュを全力で追うヴァイス。
「もう少しゆっくり飛べないかしら」
「ダメ、逃げられてしまいますわ」
更に速度を上げ、飛翔する妖精のシュシュ。
鱗粉ではなく、粉のような雪を撒き散らして飛んでいく妖精を必死で追うヴァイス。紺色のスーツにパンプスを身に着けている彼女は、やはり走り難そうであった。
ヴァイスは青みがかった銀髪をなびかせ、夜の路地を走る。
「見えた」
「あれね」
「はい」
その先には一組の若いカップルがいた。
今、ヴァイスが追っている対象だ。
女の方が躓き倒れた。
「馬鹿。何してるんだ。立てよ」
「ごめんなさい。もう足が動かない」
「捕まったら後が無いんだよ」
「あなた一人で逃げて!」
「馬鹿言うな!」
男が女の手を引き立たせようとする。
しかし、女は立つことができない。
まだ若い。
十代と思しき女が息を切らせてその場にうずくまる。
シュシュはそのカップルを飛び越えて路地の向こう側へと飛ぶ。退路を塞いだ格好になる。
ヴァイスはゆっくりとそのカップルに近寄っていく。
「来るな。来るんじゃねえ!」
男はしきりに叫んでいるが、女は座る事さえ困難な様子でその場に崩れ落ちた。
男が握っている女の手白い手は段々と黒ずんでいく。
それに気づいた男は女の手を離した。
「何だこりゃ!?」
男の手のひらには黒く変色した女の皮膚が張り付いていた。
「ヨーコ! どうしたんだ!!」
「カイト……私……もう……」
その一言を残して女……ヨーコは動かなくなった。
彼女の体は一気に黒く変色し、そしてその姿が崩れていった。急速に腐敗している。
「ヨーコ。大丈夫か!?」
ヨーコを抱きかかえようとした男……カイトの頭をヴァイスが蹴り飛ばした。
カイトはヨーコから離れた位置に飛ばされ気絶した。
「馬鹿。死にたいの」
冷たく言い放つヴァイスだった。
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