on the line



 なんだ、ヤローかよ。

 出会い頭の「お見合い」相手を見上げる。ルイよりもはるかにタッパのある男だ。しかも、あの邪気のない顔は、確実に年下だと知らせている。

 そのまなざしで、見つめられる。

 胸の奥の、奥のほうで、なにかを告げる、ちょっとした「動揺」があった。それも振り切るように、去りぎわ、相手を睨みつける。

 しばらく歩いてからはたと気づく。ぴたっと、ルイは立ち止まった。

 あいつは、たしか──。


「そうだ。夕飯のときに観たニュースの……」


 県内のスーパー中学生と紹介されていた。

 ユースにも選ばれている。画面越しではあるけれど、中学生らしからぬプレーの数々に、目が釘づけになった。

 嫉妬もした。

 自分は背が足りず、高校に入って、ポジションの変更を余儀なくされた。

 もう一回、睨みつけてやるかと、ルイは振り返る。

 だが、実際は、目尻の尖りを緩めざるを得なかった。向こうも振り返っていたのだ。

 視線が一つになる。

 向こうの足と口が、こっちへと動き出しそうで、ルイは思わず顔を背けた。

 なんとも言いがたいどきどきがある。おそれ、ふしぎ、気まずさ──と、後悔。

 後悔は、だいぶんあとになってやってきた。

 どこかで、また会うのだろうか。……会えるのだろうか。

 きょうはさて置いて、話しをしてみたい。

 遠くになったはずの横断歩道は、青の点滅がやけに映えていた。わずかな予感を連れ立ち、ルイは、ふたたび帰路へついた。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

エンカウンター もりひろ @morishimahiroi

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ