#WhiteRoom;Beta:"濁"
唯月希
@one
頭部が欠損した遺体が発見されたことに端を発し認定された杉並区連続猟奇殺人事件が、犯人逮捕に至った翌日。週末に入った土曜日の昼前だった。
東京都目黒区の
「早速だが、顛末を聞けるかな」
促したのは部屋の主人、杜乃 天加。
そしてそれに応えるのは彼女の背後のテーブルの席に着いている
「はい。まず、殺害に至った経緯ですが、中村はもともと、夫婦であの服飾ブランド経営していました。自分が経営と販売、そのほか流通管理やイベント出店などの事務方のほか、デザインなどの製造部門も一部担当していました。妻が主に商品開発やデザイン、製造を担当していたそうです。この夫婦、周囲からも羨む発言が多く出るほどに仲の良い夫婦だったそうです。
しかし妻が病に倒れ、その算出ペースが落ちていく中でも、ブランドを畳もうとはしませんでした。実は中村夫妻の経営するあのショップは、その界隈では結構な人気があるらしく、ファンもかなり多いということがわかりました。そう簡単に終わらせるわけにいかなかった事情はその辺にもあるようなんですが、山に倒れた後、亡くなるまでも最後まで妻は仕事をやめなかったそうなんです」
「ふむ。ではその妻がモデルか」
「はい。病で亡くした後、何人か近い雰囲気の人間をモデルとして採用していたらしいのですが、結局長く続かず、中村は孤独と事業に出てきた陰りの中で、妻に残されたそれを続けなければいけないというプレッシャーに挟まれて、さらに孤独を強くしていました。
その中で、妻に似ている人間と出会います。
しかし、そうであればあるほど、モデルのような活動に対して賛同が得られず、結局は堂々巡りになっていき、耐えられなくなってしまった中村は最初の犯行に及んだ、ということです」
朝霧は一気に説明を終える。同席していた杜乃の同級生、
「それで、殺害方法はやはりムーンギフトか?」
「はい。彼の力は強化、ではなく身体筋肉機能の調整で、瞬間的に意図した力が出せるというものでした。その結果、瞬間的に物理的な力を発生させることができ、その力で悲鳴も痛みも発生する前に首をねじ切った、と証言しています。実況見分はこれからですが」
「なるほど。概ね正解でしたね。今回も」
そこで初めて感想とばかりに蓮宮が口を開いた。
「はい。さすがですね。ここまで迅速に解決できたのは、本当に杜乃さんの推想のおかげです」
「いやいや。私はそれしかできないのでね。法の執行が可能なわけではない」
「それはこちらの仕事ですから」
と、そこまで話したところで、朝霧の携帯が着信を告げた。
「あ、ちょっと待ってください」
「ああ」
「…昼々蕗?どうしたの」
どうやら、朝霧の所属する警視庁捜査一課猟奇殺人捜査専従班の同僚からの通話着信らしかった。
「…わかった。早めに戻るわ」
朝霧の通話は簡潔だったようで、電話はすぐに終わる。なにやら緊急の様子だった。
「何かあったのかい?」
「任意の通報によって、練馬区のアパートで遺体が見つかりました」
「君の班が動くということは、単純な話ではないな」
「はい。まだ発見時の様子だけですが、遺体の首が吊られていて、手の指10本が切断され、口内に含まれていたそうです。詳しいことはこれから鑑識が入るので、それから」
「それはまた濃厚だな…了解。構えておくよ」
「すみません。立て続けに」
「別に君が起こしている事件じゃないんだから。それより君こそ気をつけないと。こういう事件にばっかり関わってると、平気なつもりでいても精神的に影響はあると思うぞ」
「ありがとうございます。では、急ぎますね」
「ああ」
バタバタと報告だけ終えた朝霧が退出する。
施設のエントランスの解鍵にIDが必要なため蓮宮が同行し、彼が部屋に戻ると、杜乃はシステムと呼んでいる自室の情報端末群で、過去に多様な殺害方法で行われた殺人についてのデータをMeTISと呼ばれるデータベースで検索し始めたところだった。検索中のインジケーターは完了までまだ時間を要することを告げている。
「杜乃は平気なのかい?」
「ああ。それより天加がうるさくてね。情報が届くまで時間もあるし、少し私は休もうかと思うが、いいかな?」
「あ、そうか…そういえばここ2日全然だもんな。構わないよ」
「そうかい。まあ、朝霧くんとの回線がひらけば戻ってしまうが」
「うん。いつも通りね」
「ああ。ではすまんが頼む」
そういうと、杜乃は座っていた椅子に、改めて深く腰掛けて目を瞑った。
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