個人的な記念諸々SS集

3話前に本編最終話を追加しています。それを見てから読むのをお勧めします。




16.25 viaggio












お互いの家族への挨拶も終わって、式の準備とか、新居に関する諸々は私が静季さんのマンションに入って、真央ちゃんが私の住んでたアパートに入るということが決まってる。あと、式の後の予定を組んだりしている。


私自身、そこまでお金を使わずに生活していたから貯金は結構あるほうだと思う。そして、静季さんもマンションは既にローンを払い終えたモノ(大家の了承を取り付けてリノベーションもしたのだとか。築年数自体は私のアパートよりも凄かった)で、車の維持費はあるけど、元々無趣味に近い方でそこまで浪費も無い。強いてあげれば2人分の食費とかくらいで、それでも役職持ちの手当てとかも含めて思えば十分すぎた。


そんなわけで、式の規模もそれなりに大きなものになっていった。私は、こじんまりとしててもよかったんだけど、結構気合の入った披露宴をすることになりそう。


うん。式のことは今は放っておいてもいい。問題は式じゃない。式も問題ではあるんだけど、今はそっちじゃない。


「どこか行きたい場所ある? 海外とかもいいかもな」


新婚旅行、というやつだ。


昨今、高校の修学旅行ですら海外が当たり前になっている中、実は私は海外に行ったことが無い。それどころか、小学校の修学旅行は私が馬鹿だった所為で不登校すれすれだったから行ってない。中学はずっとバスやホテルで待機していた。班行動がどうにもできなかった。高校でなら何とか、と思っていたのだけど、私はそんなタイミングで自転車で転倒して骨折、入院する羽目になってしまい、行けなかった。


つまり、私はまだ年齢1ケタの頃に家族旅行に行ったのが最後で、それ以来旅行なんてものをしたことがない、ということだ。


それに、私自身の性格的に遠出をしないので、行きたいところというのが見当もつかないのだ。


「静季さん。私、旅行なんて殆どしたことありません。行きたいとも思ってなかったので、行きたいところも思いつかないんです」


というわけで、素直に自分のこれまでを暴露してみた。


「ああ、修学旅行とか、まともに参加してなかったんだっけ?」


「そうですね。中学は行きはしたんですけど、バスとかホテルの外には出なかったので」


それと、と付け加える。


「私の行きたいところになると、東京の神田の古書店街とかになっちゃいます。あと、京都でコーヒーめぐりとか」


どう考えても新婚旅行のコースじゃない。


「わかった。こっちで勝手に決める、というか提案しようと思ってたところにしようか」


そう言って静季さんはさっきまで持っていた旅行誌を広げて持ってきた。


そこに示されているのはイタリア、だった。


「イタリア、ですか」


「そう。イタリア。俺もそんなに明るくないけど、エスプレッソってイタリアだろ。本、は別にして。海外だから日本とはまるで違うし、それでいてコーヒーも飲める。だったら樹も楽しめると思うんだ。

 流石に、産地の南米とかアフリカとかは治安のことを思うと行こうとは言えないしさ」


言われて思い浮かべる。私の持つイメージは凄く貧困だけど、南欧のどこか明るいイメージとエスプレッソ、あ、ピザとかもいいかな。そんな街を2人で歩く。そんなことを考えるだけで凄く楽しみになってくる辺り、私も現金なものだと思う。


でも、それでいいんだ。だって、私はこの人と結婚するんだから。


「なら、是非行きましょう。私、海外も行ったことないですから、楽しみです」



























17.5 bicicletta













式も旅行も終わって、仕事に戻って暫くのこと。


私はいつもの通勤用の折りたたみ自転車を眺めていた。


イタリア旅行は、本当に楽しかった。だからだろう。私は急にイタリアが好きになって、色々調べだした。


パスタやピザといった一般的なイメージや、ローマの休日なんてベタなもの。そして、きっとこれが一番目覚めてはいけない趣味だったのではないだろうか。


イタリア、というか、ヨーロッパ全般が自転車競技が盛んなのだ。


流石にロードレーサーを欲しいとまでは思わないけど、うん。それでも今の自転車をアップグレードしたいと思ってしまったのだ。


そんなわけで、相談してみることにした。


「静季さん。ちょっと買いたいものがあるんですけど」


因みに、この言葉で以前、エスプレッソマシンを獲得している。どんだけイタリアかぶれになったのだろうか。


「何が欲しいんだ?」


「自転車です」


「買えばいいじゃないか。少し張るけど、そこまで高い買い物じゃないだろ」


ああ、この人、自転車にそこまで興味がないから自転車という大きな括りで言っても通じないんだ。


なので、この前自転車屋さんでもらったカタログを持ってきた。


「所謂ママチャリじゃなくて、こういうクロスバイクが欲しいんです」


「へぇ、これクロスバイクっていうんだ。って、結構いい値段するね」


「だから相談してるんです」


ぱらぱたとカタログのページをめくっていく静季さんの手があるページで止まった。そして、ぱた、閉じて言った。


「買おう。で、俺も買う」


そう言って静季さんは立ち上がった。


あれは間違いなく今から買いに行く気だと思う。


でも、どうして急にそんな気になったんだろう。


気になってカタログを開き、静季さんが開いていたであろうページを開き、納得した。


そして、一気に恥ずかしくなった。


「……静季さん。気が早いです」


クロスバイクに簡単に取り付けられる子供用シートで、アタッチメントさえつけてあれば付け替えるのも簡単という優れものだった。


つまりは、子どもが欲しい、ということだった。


流石に初夜くらいは終えているけど、こういう形でそれが示す現実を突きつけられると……


「樹、買いに行こう」


「は、はい」


でも、恥ずかしくたって拒むことではないから。


きっと、今夜はそういうことになるんだろうなぁ。




























後書


唐突に浮かんだ、というか、私のプライベート部分で友人の結婚式に出席したので結婚がらみのネタと、Pioggiaという名前が私にとっても重要な意味を持つことになりそうなのでその辺の意味の記念を籠めて書いてみました。


きっと、樹はこの夜の所為で本当に子どもができたのだろうと思います。


あと、続編のほうで樹が乗り回しているのはこのときに買ったクロスバイクです。


インドア趣味の癖してこんなものを買うのでアウトドアでインドアをするという家族になっていく桑畑家です。


因みに、前半は旅行、後半は自転車です。内容そのまんまです。あと、樹ほど賛嘆たるものではありませんが、私も海外に行ったことありません。工業系の学校だったので国内の鉄鋼工場とバイクメーカーの工場を見学に行く研修旅行でした。それと、自転車が欲しいのは私の願望です。


クロスバイクなどに取り付けられる子供用のシートですが、どうも北欧などでは極一般的なもので、日本のように取り付けたら最後、外すのが手間なんていうのはほぼない上に、ママチャリにしか取り付けられない仕様もあまりないのだとか。先日、機会があったので現物を見たのと、使っていたノルウェー人にも話を聞く事ができました。


え? 海外行ったことないんじゃないのかって?


勿論です。日本国内です。引越しの手伝いに行った先がノルウェー人宣教師のお宅だっただけです。

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