第16話

「ねえねえ和馬くん。あれからウロボロスの鍵は取れたんだけど、その先のボスが倒せなくて」


 光莉先輩がゲームをやっているのを知ってからは、洗い場越しにデビルハザードの会話ができる。ゲームは人を繋ぐからな。友達にもなれるし、恋だって発展する……かもしれない。


「でっかいヘビのゾンビが出てくるんだけど、すぐに弾が切れちゃって勝てないの」


 光莉先輩、それ「ヘビ」じゃなくて「ワニ」っす。


「あいつは普通に倒すのは難しいですよ。通常プレイだと火力も足りないし、グレネードランチャーでも倒せないす」


「ええ~、そうなんだ。私、何十回もやってたよぉ」


 何十回って……すごいな。でもこのヘニョっとした困り顔がまた可愛いんだ。


「そこは通路にあるガス管を壊すとガス漏れが起こるから、そこにハンドガンで引火してやれば楽に倒せます」


 俺は洗い場の銀台をゲームの通路に見立てて「ここが扉で、ここからワニが出てくるんで」とワニの目印にトングを置いて「ここにガス管があるんで」とガス管の目印にコップを置いて、


「ここから撃てばワニが吹っ飛びます」


 と言ってトングをひっくり返し、ワニを倒すシュミレーションを見せた。


「うんうん」


 と熱心に聞く光莉先輩。ホール側から洗い場越しに顔を寄せてくるから、シャンプーのいい匂いが……って、


 バコーン!


「いてぇ!?」


 俺の頭にグレネード級のヘッドショットが炸裂した。


「洗い場で遊んでるんじゃねえ!」


 と……冨澤さん。フライパンで殴るのは違うゲームっす。あと、その熊みたいな腕で殴られたら俺、オーバーキルっす。


「ったく、お前らまたゲームの話かよ。和馬は仕方ないけど光莉ちゃんまで」


 俺は格闘ゲームでいう「ピヨった」状態でフラついていると、


「あれー。面白いですよ、ゲーム。一人でやるのもいいですけど、マリヲカートとか対戦すると燃えるんですから」


「マリヲカートって、いつも和馬が自慢してくるアレか? なんだよ、光莉ちゃんも同じのやってるのか」


「はい! 私はまだ始めたばっかりで100㏄クラスですけど。和馬くんは150㏄だっけ?」


 ようやく「ピヨった」状態から抜け出した俺は、ヘコんだコック帽の上から頭を押さえる。うわっ、タンコブできてるし。


「俺は最上位の200㏄クラスっす」


「すごーい!」


 光莉先輩は驚きとキラメキを浮かべながら両手を胸の前で合わせた。ふふ……マリヲレーサーにとって200㏄は憧れのクラスですからね。


「ったく、ついていけないって」


 ゲームそのものに興味がない冨澤さんには伝わらないが。


「あ、お客さんが来た。いらっしゃいませ、ご案内しま~す」


 光莉先輩はパタパタとホールに駆けて行った。


 それにしても、一生懸命に働く光莉先輩は輝いてるなぁ。きっとゲームも一生懸命なんだろうな。いつか一緒にマリヲカートをやる日が来たりして。


 俺は皿洗いに手を動かしながら、頭の中で想像してみる。


 隣でコントローラーを持って、キラキラした笑顔でプレイする美少女。俺のキャラ、ビビンパと競うのはきっと主人公キャラのマリヲだ。二人は接戦を繰り広げるが、最後のストレートで俺のビビンパが走り抜けて――


「最後の最後に負けちゃったね」


 って言う、ほたるの顔が。


 ……あれ、なぜほたるなんだ?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る