第36話
「あっ、ユウマさん。おかえりなさい」
笑顔でユウマを迎えるリリアーナ。
その隣にはすっかり怯えきっているローブ男の姿があった。体を小さくしていかに目立たないようにできるか必死になっている様子だ。
「ただいま……あー、なるほど」
男の周りの陥没している地面、ニコニコ笑顔のリリアーナ、そんな彼女を泣きそうな表情で見ているローブ男。
それらを見たユウマは状況を理解する。
「なあ、お前。名前はなんていうんだ?」
名前を知らないままでは会話も難儀するため、ユウマが問いかけるがローブ男は言いたくないと言わんばかりにプイッと横を向く。
「あらあら、そういう態度をとるんですか?」
すると、ニコニコ笑ったリリアーナが右の拳を左の手のひらにバシッとぶつけながらひたりひたりとローブ男へと近づいていく。
「……ひっ! マ、マルク、マルクだ!」
男はユウマがいない間にリリアーナによって恐怖を刻まれたらしく、怯えたように身体を固くすると素直に名前を言う。
「へえ、マルクね。それじゃあ、次の質問だ。仲間は何人だ?」
「な、仲間? お、俺は一人だぞ? 一人で洞窟にこもって研究をしているんだ……う、嘘じゃない!」
必死で仲間の情報を隠そうとするマルクだったが、ユウマが重ねて次の質問をする。
「じゃあ、あの隠し部屋にあった食料はお前のもので、あの広げられてた地図もお前が全部書いたってことでいいのか?」
その質問に男はビクリと身体を振るわせて、口を開けたままユウマのことを呆然と見ている。
「ん? あぁ、壁の材質が違ったからすぐにわかったぞ。中に入るのも簡単だった。とりあえず、ゴーレム関係の資料全部、食料、それから地図なんかも全部回収しておいた。テーブルの上にあったカップの数や、今回の作戦の規模を考えると一人とは思えないんだよなあ」
もうわかっているんだぞと、ユウマが男に隠し部屋でのことを告げる。
「あ、あの資料は俺が人生をかけて集めたものなんだぞ!」
「これのことか、別に返してやってもいいけどな。その代わり……な?」
「くっ……わかった、わかったよ!」
ユウマは資料の一枚を取り出してひらひらと男に見せつける。
するとよほど大事なものなのか舌打ち交じりに男は諦めたように口を開く。
「俺たちは全部で五人だ。ゴーレム担当の俺、戦闘担当の二人、呪い担当の一人、そしてまとめ役のやつだ。名前は知らん……ほ、本当だ! あだ名で呼ばれていたんだ! 俺なんかはゴーレム、戦うやつはソードとスピア、呪いのやつはカーズ、まとめ役はリーダーだ!」
途中でリリアーナがこぶしを握ったのを見てしまった男は慌てたように早口で情報を話していく。
「なるほど、剣使いに槍使い、それに呪いは専門のやつがいるのか……そういえば」
ユウマは情報から男たちの姿をイメージしていく。そして、呪いの話をしたところで一つ思い出す。
「これ、これはなんなんだ?」
ユウマが取り出したのは隠し部屋で手に入れた紫色の液体が入った小瓶だった。
「あぁ、それか。よくわからないが、カーズの呪いが込めてあるらしい。飲み続けると身体の中に呪いが侵食するとかなんとか……まあ、それは色が怪しすぎる失敗作らしいけどな」
「なるほど、それはそれで使い道がありそうだな……とりあえずお前は連行する。街に戻るぞ」
「おい! お、俺は行かないぞ!」
街に連行されたら拘束されることは目に見えている。
とあっては、マルクがすんなりついていくのはあり得ないことだった。
「そうですかあ、それじゃあ……」
「がふっ!」
これ以上騒がれると面倒であるため、リリアーナは拳を一撃加えて黙らせた。
「ははっ、その思い切りはいいな。とりあえず口も縛って、手と足を縛って俺が運ぶか」
ユウマは紐を取り出して、更にぎちぎちに縛り上げると担ぎ上げる。
「まあ、気絶していてくれたほうが移動が楽だからいいけどな。さあ、行くぞ」
「はい!」
そうして、二人は街へと戻っていく。
行きとは異なり、荷物が増えたため速度は下がったが、魔物と遭遇することなく街に到着することができた。
しかし、入り口で衛兵に止められる。
「ちょ、ちょっと待ってくれ。 その、ぐるぐる巻きになっているやつはなんなんだ?」
「あー、説明をしたいところだけど……ちょっとギルドマスターのマリアスに連絡をとってもらえるかな?」
「マリアス様に? お前たちは一体……」
マリアスの名前を出したため、余計に衛兵から怪しまれてしまう。
「ん? おーい!」
それに気づいたタイグルが遠くから走ってくる。
「タ、タイグル様!」
どうやらタイグルは一部では有名らしく、ここの衛兵は彼のことを良く知っていた。
「彼らはわしの知り合いじゃ。もちろんマリアスとも知己じゃな。それに、その捕縛されとる男はわしらが調べている件に関係しておる。……じゃろ?」
「あぁ、色々報告があるんだけどいいかな?」
「うむ、わしも色々調べられたから一緒に報告に行こう。通ってよいかの?」
ユウマとタイグルの間で話が進み、衛兵は理解が追いつかず取り残されるが、タイグルが通行許可を求めていることはわかったため、何度も頷いていた。
「うむ、助かる」
そう言ってタイグルは、ユウマたちを伴ってギルドへと向かって行く。
「……あんた、意外と有名なんだな」
「ほっほっほ、まあ昔取った杵柄といったところじゃろうのう」
「でも、来てくれてよかったです。私たちだけだったらあのまま止められていたかもしれません」
「ほっほっほ、もっと褒めていいんじゃよ」
ふたりから感心されたタイグルは気を良くして、笑いながら先を進んでいく。
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