第13話
とりあえずユウマの能力も持っている物も規格外ということでリリアーナは納得することにした。
「いや、納得してないですけど、持っているものは仕方ないですよね……」
驚きすぎて、これ以上驚くのも疲れたとリリアーナは切り上げてた。
「にしても、こんな森の中で一人で何をしていたんだ?」
街へと戻る道すがら、ユウマが質問をする。自身も一人だったが、薬草採集という初歩的な目的があったためである。
「私もギルドで依頼を受けて来たんです。臨時で組んだ人たちと四人で来たんですけど、クリムゾンベアに……」
「やられたのか……」
悲しげな表情とともに肩を落とすリリアーナに、ユウマも沈痛な面持ちになる。
「い、いえ、その、みんな逃げてしまいました……」
「あー……」
全てを察したユウマは同情の視線を送る。自らも召喚した王たちに裏切られた身であるため、彼女の辛さを理解できていた。
「でも、あの方たちはきっと無事だと思うのでよかったです」
「そう、思えるのか……」
リリアーナは自身を見捨てていったパーティメンバーのことを悪く言わず、無事であろうことを喜んでいる。
その思いにユウマは感心していた。
「うーん、さすがに怒ってはいますよ? でも、死んじゃえ! とまではさすがにおもえないです。私は一人で行動していることが多かったのですが、そんな私をパーティに誘ってくれたので憎めないんですよ」
泣き笑いの表情になるリリアーナを見てユウマは首を傾げていた。
「さっきの戦いぶりをみた感じリリアーナの動きはよかった。あんな強そうな魔物の攻撃を避けきっていた。あれだけの力があるなら色々なパーティに誘われてもおかしくないだろ?」
「あー、まあそうなんですけど……その、えっと……」
ユウマの質問に対して、リリアーナはどうにも答えづらそうな様子で視線を泳がせている。
「……そういえば、さっきのクリムゾンベアとの戦いの時に魔法使わなかったような……?」
魔法が得意なエルフであれば、魔法でクリムゾンベアを撃退することもできたんじゃないか? と、ユウマはあの時のリリアーナを思い出している。
「その、実は、魔法はあんまり得意じゃなかったり……」
「そうなんだ。得意じゃない、か。どれくらいなら使えるんだ?」
ユウマの追加質問に、リリアーナは汗だくになり、視線も先ほど以上に泳いでいる。
「そ、そそそ、そんな、自分の実力をおいそれと教えるわけにはいきませんよ!」
リリアーナは途中から、これはいい言い訳が思いついたと饒舌になるが、ユウマは既にわかっていた。
「あぁ――魔法……使えないのか」
この一言を受けてリリアーナはビクリと身体を震わせる。
「その服装、いかにも魔法使いっぽいけど、それっぽいだけで見かけ倒しなんだな?」
ずばずばと的確なユウマの追い打ちの指摘で、リリアーナは肩を落とす。
「そう、なんです……私、エルフなのに魔法はからっきしなんです。最初の五十年は必死に魔法の練習をしたんですけど、全くダメでした。そのあとの百年は先ほども話したように魔法の研究を色々してきたんです。そうすれば、私が魔法を使えない理由もわかってくるかなって……」
帽子で顔を隠すように悲し気な表情をしたリリアーナはトボトボと歩く。
結果、未だに魔法が使えないという現実が目の前に立ちはだかっていた。
「なるほど。でも、さっきの身のこなしを見る限り、戦う手段は持っているんだろ? だったら、魔法にこだわらなくてもいいんじゃないか? ほら、エルフっていったら魔法以外に弓の腕前が……」
なんとか励ませたらというユウマの言葉に、力なく笑ったリリアーナは首を横に振っている。
「弓も苦手なのか……」
困ったような顔のユウマの言葉に、リリアーナは今度はコクリと頷く。
「で、でも、ほら他に得意なこととかあるだろ? なんでもいいさ。俺だって収納魔法しか使えないし……」
「……るのが」
「えっ?」
小さな声で、しかもうつむき加減だったため、聞き取れなかったユウマが聞き返す。
「殴るのが得意なんです!」
ガバっと顔をあげて大きな声で宣言したリリアーナの顔は恥ずかしさからか、真っ赤になっていた。
「殴りエルフか……」
「そう、ですよね。おかしいですよね……」
「――面白いな、それ!」
「ふえっ!?」
思ってもみないユウマの反応に目をぱちくりとしばたかせたリリアーナは変な声を出す。
「いや、だってさ殴るんだよね? こう、バチーン! とぶっ飛ばす! 爽快じゃないか!」
「えっ、はい……こ、こんな感じです」
ユウマが楽しそうに語るため、つられるようにリリアーナは拳を握りしめてパンチを繰り出す。
本人は軽く打ち出したつもりだったが、ひゅっと鋭く風を切り裂く音がユウマの耳に届いていた。
「……えっ? それ、かなりの威力だよね? そうだ、ちょっとこれ殴ってもらえるかな? ”展開、鎧”」
思っていた以上の威力にびっくりしたユウマは城に飾ってあった鎧を取り出す。
観賞用とはいえ、強度はかなりのものであり少し殴ったくらいでへこむものではない。
「またこんなものをあっさりと……って突っ込んでも仕方ないですね。わかりました、さすがに素手では手を痛めてしまうので武器を装備しますね」
もうつっ込むのをあきらめたリリアーナは背負っていたリュックから取り出したのは手に装備する手甲だった。
「ほー、いわゆるナックル系の装備か……」
よくわかっていないが、ユウマはそれっぽいことを口にする。
地球でやったゲームで格闘系の職業のキャラがそんな装備をしていた記憶が薄っすらと残っていた。
「そう言うんですかね? ふらっと立ち寄ったお店でいい感じだったので買ってみたんです。うっすらとピンクなところが可愛いかなって」
ナックルを装着しながら、それを可愛いというリリアーナを見てユウマはとりあえず頷いて返す。
「よくわからないが、とりあえず全力でぶちかましてくれ。別に壊れてもなんの問題もないやつだ」
「わかりました、少し離れていて下さい」
「了解」
鎧を適当にセッティングしたあと、ユウマは数歩離れた場所でリリアーナの試し打ちを見学する。
「いきます……すー、はー」
気合を入れるようにリリアーナは目を瞑って一度深呼吸をする。
「せいやぁっ!」
真剣な空気が漂う中響いたリリアーナの声は気合がこもっているというよりは、可愛らしさのある声で繰り出される拳。
しかし、そのかわいらしさとは裏腹に、響き渡るのはドゴンという強烈な音。
「……あ、はい……」
それなりの強度があるはずの鎧の胸のあたりが大きくへこみ、十メートルほど吹き飛ばされたのを見て、頬を引くつかせたユウマはそう一言だけ口にした。
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