第7話
金に関する説明をひと通り受けたユウマは店の奥を借りて着替えをする。いわゆるこの世界の青年、つまりユウマと同じ年齢の男性が身に着けるような服を選択している。
「”収納、制服” ”展開、服”」
来ている制服一式を収納すると同時に、身体に合わせて服を展開することで早着替えに成功した。
「ありがとうございました」
「はやっ!」
奥に入って十秒程度で着替えを終えて戻ってきたユウマに、店員は驚いて思わず大きな声を出してしまう。
「着替えるの得意なんだよ。色々と世話になった。また立ち寄ることがあったら色々と買わせてもらうよ。ありがとう」
「いや、こっちこそたくさん買ってもらって助かった。また寄ってくれ。あんたの旅路に幸あれ」
二人は笑顔で別れの挨拶をかわし、ユウマは宿に向かって行く。
雑貨屋の店員に教えてもらった宿に宿泊し、教えてもらった通りに弁当を四十人前作ってもらい、翌朝からいよいよ大きな街に向かって旅立つことにする。
乗り合いの馬車に揺られて、一路目指すは旅人の都『ストリピタル』。
このあたりではユウマが召喚された王都に続く規模の街であり、旅人の都というように多くの人が出入りするため、ユウマのような異邦人が紛れ込んでも生活しやすい街である。
乗り合いの馬車で二週間ほどの場所にあるため、長距離の旅の準備をしている者だけが馬車を活用することができる。
最初のうちはユウマが軽装であるため反対をされたが、雑貨屋で買っておいたカバンがマジックバッグであるとの方便から、乗車が認められることとなった。
長旅になるため、途中には数か所の宿泊ポイントが用意されている。
そこでは、御者が用意した最低限の食事が提供される。
「……ゴクリ」
「……うまそう」
「いいなあ……」
そんな中にあって、ユウマだけは自分で用意した食事を食べていた。
「うんうん、温かくて美味い!」
作ってもらった弁当をできたてのまま収納したため、今も温かいまま食べることができている。
湯気が立ち上る料理を見た他の客たちは、それを羨望の眼差しで見ていた。
休憩の際も各自が馬車の中であったり、地面に一枚布を敷いたりして休んでいるのを横目に、ユウマは聖域のテントを取り出してゆっくりと休憩をとっている。
そんな彼を見て、全員がただものではないと認識していた。
ただ、ユウマも自分だけが良ければいいという風ではなく、大量に買った果物を分けることで他の客や御者からの不興を買うことを避けていた。
予定の二週間が過ぎた頃には無事に旅人の都『ストリピタル』へと到着することとなった。
「いやあ、お前さんのおかげで有意義な旅ができた。ありがとう!」
「どこかで会ったらちゃんと礼をしないとですね!」
「楽しい旅でした! ありがとうございます!」
結局、ユウマは収納していた色々を放出してみんなが楽しく旅をできるようにした。そのことによって、今回一緒だった客たちから尊敬の眼差しを受けていた。
「いや、俺も色々と話を聞けて楽しかった。またどこかで会ったらよろしく」
ユウマは笑顔で彼らに声をかけると、街の散策へと向かう。
「もちろんだ!」
「その時はご馳走させて下さい!」
「お兄ちゃん好きー!」
最後の言葉にだけ一瞬ピクリと反応したユウマだったが、気持ちはこの都を楽しむことに移っているため足を止めずに街の中へと向かって行く。
「道中で聞いた話だと、この世界にはギルドがいくつかあって、そこで仕事を斡旋してもらうこともあるらしいけど……」
戦いや雑務や採集などなんでもありの何でも屋が冒険者ギルド。
薬作りや研究をメインにしているのが錬金術ギルド。
魔法の研究を行う魔法ギルドなどなどが有名なところである。
ユウマが使えるのは収納魔法だが、魔法の研究を行うには変わっており、薬を作る技術もない――となれば、雑務がある冒険者ギルドに所属するのが一番だと考えていた。
「金はあるけど、自分で稼いだ金じゃないと怪しまれるからな……」
城で手に入れた金は当座の資金としては見込んでいるものの、こちらの世界で自立した生活をお送るためには自分の手で稼ぐ方法を見出さなければいけないとユウマは決めていた。
「住みやすければこの街で家を持つのもいいけど……まあ、まずは見て回ろう」
ブラブラと、街並みを眺めながら道沿いに並んでいる店を眺めていく。
当たり前のことだったが、大量買いした村の雑貨店よりも品ぞろえが良く、いわゆるファンタジーの世界といった様子でワクワクするようなものが並んでいる。
「いかんいかん、色々買い物したい気持ちは抑えないと。まずは生活基盤を安定させること。次にこの世界のことを知ること。それから、この世界を楽しまないと!」
読書家のユウマは現代を舞台にした話やミステリー作品なども読むが、最も好きなのはファンタジーもの作品だった。
そのファンタジーの舞台に自分が立っていることを考えると、それだけでワクワクする気持ちがあふれてくる。
そんな思いを抑えながら道行く人々に目をやって、内心でテンションが上がっている。
アイシャたちもそうだったが、ユウマと同じ見た目の人族、犬や猫のようななじみのある動物ベースの獣人、トカゲタイプの獣人、背中に羽が生えている種族もいる。
城でも、この街までの馬車でも珍しいタイプの種族はいなかったため、ユウマは目を輝かせている。
道行く人の中で、高そうな武器・防具を身に着けている集団にふと目がとまり、彼らが行く先を視線で追いかけてみる。
すると、大きな建物の中へと入っていった。よく見てみると、他にも武装した人々がその建物を出入りしている。
入り口からゆっくり視線をあげていくと、大きな看板がかけられている。
剣と槍がクロスして、その後ろに大きな盾が描かれている。その下には冒険者ギルドと、この世界の文字で書かれていた。
「物語の定番……冒険者ギルドか。なんか……ワクワクしてきた!」
緩む頬を抑えながらユウマはギルドへと足を踏み入れる。
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