第6話
途中、道をそれたところで聖域のテントを使って休憩をする。
貴族でもこれほどの性能のテントはそうそう持っておらず、デンセイはとんでもない人物を敵に回そうとしていたなと、改めて実感していた。
「ユウマさん、すごいですね! こんなすごいテントを持っているだなんて!」
見た目以上に広々としたテントに感動したアイシャは、テントの中を興味深そうに見て回っている。
「ははっ、そう言ってくれるなら出したかいがあったよ。それで、デンセイはアイシャをつれて逃げるあてはあるのか?」
ただ逃亡しているだけでは、デンセイのことを知っている兵士が口封じに追いかけてくる可能性がある。そのための心配だった。
「目的の村から馬車を乗り継いで親戚が住んでいる街に向かおうと思っている。そこならこの国からだいぶ離れているから大丈夫なはずだ」
「なら、よかった。アイシャが健やかに育てるようにしてやってくれ」
ユウマが心配しているのユウマを売り渡そうとしたデンセイではなく、助けたアイシャのほうだった。彼女の存在がなければ、あのまま放置していた。
「俺は次の村で適当に服を手に入れたら、大きな街に向かってみるよ……俺のことは誰にも話すなよ? 能力のこともだ」
アイシャに見えない角度でユウマが睨みつけると、デンセイは口元をヒクヒクさせて頷いた。
朝方になって、再び三人は出発する。
さすがにアイシャは眠りについたままであるため、ユウマが背負って移動することとなった。
その日の夕方には村に到着することができたが、
「さて、村に到着だ……大丈夫か?」
休憩はしたものの、そこからずっと走りっぱなしで村に到着した三人。
デンセイはぜーぜーと息をきらして、汗びっしょりで下を向いている。
「ユ、ユウマさん、あなた、一体何者、なん、だ? ……ぜーぜー」
下を向いたまま、なんとかデンセイが声をかける。
ここまで同じ距離を走ってきて、しかもユウマは背中にアイシャを背負っている。
にも拘わらず、ユウマは額に少し汗をかいている程度で、呼吸もすぐに落ち着いていた。
「なんだろ? 確かに……運動部でもなかったのにこんなに体力があるなんて……」
ユウマは走れるから走っていたが、疲れがほとんどないことに今頃になって疑問を持った。
「ま、いっか。召喚された恩恵ってことにしておこう。それより、道中色々と話を聞かせてくれて助かった。アイシャのことをちゃんと見てやれよ」
ユウマは背中で眠ったままのアイシャをデンセイに渡す。
ここからは馴れ合わず、それぞれの目的に向かって行動する。
「ユウマさん! ありがとうございました!」
目覚めたアイシャはユウマが別の道を行くとデンセイから説明を受けたため、聞こえるように大きな声でユウマに礼の言葉を投げかけた。
ユウマはあえて振り返らず、右手を軽くあげてそのまま進んでいった。
「とりあえず、服をなんとかしないとだな……」
学生服でいるのはこの国では目立つため、素性を怪しまれる格好だけはどうしても避けたかった。
「どこか、店はないものか……」
金ならあるため、買い物に不安はなかったが一般的な村に雑貨屋や服屋があるのかがわからないためユウマはとりあえず村の中をふらふらと歩いていく。
「はい、いらっしゃい! お兄さん旅の人だね? よかったら何か買っていかないかい?」
五分ほど歩いたところで、声をかけられた。どうやら旅人を相手にした商店のようであり、店頭に様々なものが並んでいる。
「おぉ、これはちょうどよかった。俺にあった服と、簡単な食べ物があると嬉しいんだけど」
「ふーむ、服ならそっちに置いてあるから見てくれるかな。簡単な食べ物っていうと、果物はいくらかあるけど……料理になると、宿で頼むといいかもしれないな」
店員の説明を受けながらユウマは店内のものを物色していく。
「それじゃ、これと……」
「おぉ、買ってくれるのかい! そいつはうれし……えっ?」
「あと、これと、これと、これもいいな。果物は樽ごともらおうか。それから、そのナイフと、布とマントも何枚か……」
ユウマが次々に品物を手にしていくのを見て、店員は喜びから驚きに変わり、そして本当に金を持っているのかという不安に駆られ始めていた。
「というわけで、これ全部下さい!」
店の奥にあるカウンターの上に、溢れんばかりの品物を置くと笑顔で購入を宣言する。
「え、えっと、ちょ、ちょっと計算するので待ってくれ」
「了解!」
目的の服が手に入り、食料も手に入り、細かい雑貨も手に入るためユウマはホクホク顔でいる。
「えーっと、全部でこれくらいになるだが……」
しばらくすると、店員が計算を終えて小さな紙を見せてくる。
「なるほど……それじゃあ、これだけあれば足りるかな?」
ユウマは制服のポケットに手を突っ込んで、中で金貨を取り出してカウンターにジャラジャラと置いた。
「ひっ! こ、これは、お、王金貨!」
この世界では、銭貨、鉄貨、銅貨、銀貨、金貨、王金貨、白金貨という七種類の貨幣が使われており、そして一般の買い物では大きくても金貨が使われる程度である。
「足らなかったかな? それなら……」
「いやいやいやいや、多い! 多いから! 多すぎるから! いや、一枚で十分! あとはしまってくれ!」
店員はキョロキョロと周りを確認して、誰にも見られていないことを確認するとすぐに一枚の王金貨をしまい、残りをユウマに返却する。
「な、なるほど……それはすまなかった。いや、親に金を持たされて旅をしているもので、金のことにちょっと疎くて」
ユウマは貴族のボンボンの一人旅、という風を装う。
「なるほどな、じゃあ簡単に金のことを教えてやる。これだけ買ってもらったんだからサービスしないとな。ちょっと待ってろ、店を閉めてくる!」
そう言うと店員は表に閉店の看板をかけにいった。
「さて、じゃあその間に収納しておくか”収納……”」
店員が戻ってくるまで、時間にして数十秒。
「はっ?」
先ほどまで山積みになっていた品物の姿が消えてしまったため、店員は再度驚くこととなる。
しかし、ユウマがニコリと笑顔でいるため、それ以上の言葉を飲み込んで貨幣価値についての説明に移っていった。
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