第4話


 移動の途中で、ユウマは気になるものを見つけると次々に収納していく。


 足元に転がっている石であったり、木の実であったり、キノコであったり、様々なものが収納魔法によって次々と回収されていた。



「ふわあ……お、お兄さんすごいですね。それって、魔法ですか?」


 その様を見たアイシャが、興味津々な様子で質問してくる。



「ん? あぁ、そうだよ。俺は強い攻撃魔法も、剣術も使えないんだけど、これだけは得意なんだ。”展開、花”」


 ユウマは途中で収納していた花を取り出してアイシャに手渡す。



「すごいすごい! 魔法みたいですっ!」


「いや、魔法なんだけどね。まあ、俺はこの収納魔法しか使えないんだよ。そのおかげで色々と助かってはいるけどね」


 ユウマはもちろんこの能力のすごさを理解しているが、それをあえて彼女たちに話す危険を冒すことはせず、簡単な説明とどめる。



「ははあ、それが収納魔法ですか。マジックバッグだと盗まれてしまえばそれまでですから、魔法で収納しておけるというのは便利ですなあ」


 アイシャの父は収納魔法のことを知識としては知っており、その有用性を口にする。



「まあ、そんなところだろうな……なんにせよ、俺はこの魔法のおかげで助かっているんだよ。”収納、石”。とまあ、こんなふうにね」


 転がっていた石が一瞬で消えたことに、改めて二人は驚いていた。



「やっぱりすごいです!」


 そこから家に到着するまでの間、アイシャの希望で何度も物の出し入れを見せて楽しませることとなった。




「ささ、狭いところですがゆっくりしていって下さい」


「入って下さい!」


「それじゃ、お邪魔します」


 二人に促されるままユウマは家の中へと入る。



 声をかけずに家に入ったところから、二人で暮らしているのだろうとユウマは予想していた。



「そろそろ夕食の時間になりますので、是非召し上がって下さい。えっと……そういえば自己紹介がまだでしたね。私の名前はデンセイと言います」


「私はアイシャです!」


 二人が名乗ったのを見てユウマも姿勢を正す。



「俺の名前はしん……いや、ユウマだ。よろしく」


 苗字から言おうとしたユウマだったが、思い直して名前だけ口にした。



「お礼になるかわかりませんが、夕食を是非ごちそうさせて下さい」


「腕によりをかけてつくりますね!」


 料理の担当はアイシャであるらしく、袖をまくると台所へと移動していった。



「ささ、こちらでくつろいで下さい。私は裏で薪を割ってきます」


 ユウマはこの世界での一般家庭とはどんなものなのか、それを探るため椅子に腰かけながら家の中を見渡していた。



(家具は全て木製、まあ当然か。灯りは……魔道具か。この規模の家でも魔道具は購入できるんだな。あの父親のデンセイの手にはタコができていたけど、武器は持っていなかったな)



 ユウマが色々なことを考えていると、裏からは薪を割る音が、台所からは包丁で何かを切っている音が聞こえてくる。


 当たり前の環境音だったが、それらはどこか心地よい音で目を瞑った状態で思考状態にあったユウマは、いつの間にか眠りに落ちてしまう。




「……ん? あぁ、寝てたのか……ってなんじゃこりゃ!」


 ユウマが目を覚ますと、後ろ手に縛られており動きがとれないようになっていた。



「目を覚ましたか……」


 そう呟いたのはデンセイだった。



「は? いやいや、これは一体なんの真似だよ。俺はアイシャの命の恩人だから、礼をしたいんじゃなかったのか?」


 眠りに落ちる前と今で全く違う状況にユウマは困惑していた。



「あぁ、娘を助けてくれたのは感謝している。だが、いくつか確認したことがあってな……これはなんて書いてあるんだ?」


 デンセイからは人の好さは消え失せ、口調も変わっていた。そして、ユウマの学生証を手にして質問してくる。



「それは……俺の国の言葉で俺の名前が書いてある。って、そんなのはどうでもいいから返してくれ!」


 ユウマが声を荒げると、デンセイは睨みつけてくる。



「大きな声を出すな……アイシャが目を覚ますだろ。この持ち物、その服装、収納魔法なんていう物語でしか聞いたことのない魔法。城に召喚された勇者だな?」


 ユウマの素性を推測したデンセイは手にした鉈の先端をユウマに向けている。



「……そこまで知っているのに白を切るのも難しいか。そのとおりだ、俺は城のお姫様の召喚魔法で呼び出された勇者の一人だ。その中でも、収納魔法しか使うことのできない落ちこぼれ。それも殺される予定だったな」


 その説明を聞いてもデンセイは反応を見せず顔色も変わらない。



「あぁ、なるほど。当然の判断だな。能力のない者をそのまま活かして無駄な金を使わないのは賢明な考えだからな……そして、そんなやつの中には城から抜け出る者もいる。お前のようにな」


「なるほど、こんな森の中に住んでいるのは逃げ出したやつを捕えるためか。アイシャはこのことを知っているのか?」


 その質問はデンセイの怒りに触れたらしく、ユウマの頬をバシンと叩く。



「あの子は何も知らない。知る必要もない。あの子はただ平和に過ごしてくれればいい」


「なるほど、それはよかった。まさか、あんな少女にまで騙されてたとなったら、ショックだったからね。あの笑顔が演技じゃなくてよかったよ」


 頬の痛みを感じながらもユウマは余裕の表情でユウマはそう言って返した。



「うるさい!」


 こちらの仕事、つまり逃亡者を捕える仕事とアイシャは切り離しているため、デンセイは彼女のことを持ちだされると苛立ってしまう。



 そのため、再びユウマのことをひっぱたこうとして振りかぶった。


 しかし、その手はユウマを捉えることなく空を切る。



「いやあ、話につき合ってくれて助かった。あと、結構痛いから二度叩かれるのは勘弁だ」


 ユウマは話の間に収納魔法を発動させていた。



 口にしなくても心で念じることでも魔法を発動できることがわかったのは、本日の収穫である。



「この、さっきの魔法か! 大人しくしていればよかったのに……逃げるからこうなるんだ!」


 今度は鉈が振り上げられて、ユウマの頭めがけて振り下ろされる。



「あぶなっ!」


 ユウマはなんとかデンセイの手を掴んで、鉈を回避する。



「ぐっ、このっ、離せ!」


「悪いけど、そういうわけには”収納、鉈”」


 空いているほうの手で鉈に触れると、そのまま収納魔法で取り上げる。



「”展開、鉈”」


 そして、距離をとると自らの手に鉈をもって、その先端をデンセイに向け返した。



「これで、形勢逆転、かな?」


 ニヤリと笑うユウマに対して、デンセイは歯を噛みしめながらユウマを睨みつけていた。



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