第3話
翌朝は、早めに起床して食堂で拝借しておいたパンを食べながら森を進んでいる。
「確か、城にあった地図だとこの先に村があるはずだったな……」
ユウマはそこを最初の目的地として、そこから大きな街へと向かう予定をたてていた。
「キャーッ!」
脳内で地図を思い浮かべながら進んでいくと、進行方向から女性の悲鳴が聞こえてきた。
「――誰か襲われてる!?」
ユウマは思わず声がする方向へと走り始めた。
人助けの精神が特別強いわけではなかったが、助けられるのであれば助けたい――そんな気持ちが心に湧き出ていた。
しばらく走ったところで、猫耳の少女が魔物と思われる何かに襲われている現場に到着する。
小柄で栗色の髪の毛をしている彼女。髪の隙間から生えている猫耳と、赤いスカートから見える尻尾から猫の獣人であることがわかる。
「あっ! た、助けて!」
ユウマの姿を確認した少女は、恐怖におびえ、涙を流しながら彼へと助けを求める。
彼にとって魔物との戦いは初めてだったが、心は落ち着いている。
こちらの世界に転移する際に、女神によって恐怖心や動揺に対しての耐性がつくように心を強化されていたためである。
少女に襲い掛かろうとしているのはゴブリン二体。
緑色の皮膚で尖った耳、子どものような体格で、それぞれ手にこん棒、錆びたナイフを持っている。
「ギャッギャギャ!」
「ギャギャッギャ!」
新しい獲物がやってきたと、ゴブリンたちはニヤリと笑ってユウマに視線を向ける。
「俺に注意が向いたか。とりあえず……”展開、石”」
ユウマは手のひらに石を取り出すとそれをゴブリンに向かって投げる。抵抗しようというのを見て、ゴブリンたちはイラつきを見せた。
「「ギャギャー!」」
ユウマに襲いかかろうと走り出すゴブリンたち。
「こいつらは俺に任せて逃げろ! ”展開、剣”」
少女は頷くとユウマの指示に従って逃亡する。対して、ユウマはゴブリンを倒すために武器を用意する。
ユウマは剣技の指導を受けていない。だからこそ、手に持っている剣で魔物たちを倒せるとは思っていない。
ゆえに、剣を出現させたのはゴブリンたちの頭上。
一本や二本では命中しないと考えて、出現させた総数はニ十本。
これらすべて宝物庫に保管してあったもので、もちろん一つ一つが特別な力を持っているマジックウェポンだった。
「ギャギャッ?」
「ギャーギャ!!」
ゴブリンの一体は、なんだ? と頭上を見上げ、もう一体は大量の剣を見て驚きの声をあげている。
「それじゃ、さよならだ」
剣は一気に落下して、ゴブリンたちに突き刺さり、そのまま絶命させた。
かすりもしなかった剣もあったが、一体につき最低三本は剣が突き刺さっており、勝負は一瞬のうちについた。
「えーっと”収納、剣”」
まずは今回の戦闘で使った剣を収納する。
「次に”収納、魔物”」
ゲームに出てきたゴブリンのような見た目だったが、正式名称がわからないためざっくりとした名称で収納していく。
すると、一覧が現れてメッセージが表示された。
『魔物の解体を行いますか? YES/NO』
「……これって魔物を収納したら自動で解体して素材が回収できるってことかな?」
ユウマが疑問を口にすると、メッセージが数回点滅した。
それがイエスの返事だということが、ユウマには理解できていた。
「すごい便利だ! いや、ほんとすごい便利だ!」
ユウマは驚きのあまり、同じ言葉を二度繰り返してしまう。
それほどまでに、この機能は便利この上なかった。
そして、ユウマの回答はもちろんYESであり、収納されると同時に魔物が解体されていく。
「“一覧”」
どんな形で収納されているのか確認を行う。
すると、それは階層構造でフォルダわけされていた。
「魔物 ― ゴブリン ― 魔石、耳、腰みの、その他……なるほどな」
魔物の名称は見た目のとおりゴブリンであっていた。
そして、各種素材にわけられて収納され、素材として使われない部位はその他として収納されている。
「“展開、ゴブリンの魔石”」
試しに魔石を取り出してみると、小さな丸い緑の石が現れる。
「これがゴブリンの核となる魔石か。弱い魔物だからかもしれないが意外と小さいんだな……」
体内から取り出された核であったが、収納魔法の解体機能は特別製で完全に綺麗な状態になっている。
「にしても、解体機能……恐るべし!」
魔物の中には解体が難しいものもいるが、そんなことは関係なしで解体が行えるのはそれだけでも十分過ぎる能力だった。
ユウマが収納魔法の新たな能力に感動していると、先ほど逃げたはずの少女が戻って来た。
「お、お兄さん、無事ですか?」
少女は大人の男性を伴って、ユウマのもとへと戻ってきていた。
「あれ、逃げたんじゃなかったのか。無事みたいで良かったよ」
走って来た様子を見る限り少女は目立った怪我をしてないように見えたため、ユウマは安堵する。
「確か、ゴブリンが二体いたと聞きましたが……」
男性はキョロキョロと周囲を見渡して、ゴブリンの存在を確認する、がどこにもいないためユウマへと質問を投げかけた。
「あぁ、あいつらなら俺が倒したよ。やり方は秘密ってことで」
まさか、大量の剣を頭上に出現させて串刺しにしたとはいえず、しかもそのゴブリンの遺体は収納してあると、こちらも言えないため全て濁した回答になる。
「ほら、これがゴブリンの核となる魔石だ」
ちょうど手にしていたため、それを二人に見せる。
「……本当、みたいですね。いや、倒したかどうかはどうでもいいですね。なにより、娘のアイシャの命を救ってくれたこと、感謝します」
男性が深々と頭を下げると、アイシャもそれに続く。
よく見てみると、男性からは少女の面影を感じさせ、外見的特徴も猫の獣人であることを現している。木こりのような服装をしており、恐らくこの森で過ごしてきたのだと予想できた。
年齢はユウマよりも十歳は上に見える顔立ちをしている。
「たまたま通りかかっただけなんで、気にしないでくれ」
相手は明らかにユウマよりも年上だが、この世界でただ一人の進藤勇真として生きていくには、どんな相手でも対等に渡り合っていかないと――それが彼が決めていたことだった。
「そうもいきません、娘の命の恩人ともなれば礼を尽くすのが当然のことです。大したもてなしはできませんが、それでもお礼をしたい。是非きて下さい!」
「……わかった。それじゃ、お言葉に甘えようかな」
少女の父が深く頭を下げてくるため、ユウマは仕方ないなと、彼らについていくことを決めた。
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