いつも見るユメ

橘トヲル



 屋上に冷たい風が吹き荒れる。


「伏せて」


 冷たい空気そのもののような声が耳に届いて、はっとして行人は体を起こす。

 目に入ってきたのはついさっきまで行人が背中で抑えていた屋上の扉を粉砕し、踏みつけにした化け物だ。黒い靄が集まってできたような体をしている。この学校の屋上まで追い込んだ黒い化け物が3体。

 シルエットこそ人間に似ているが、脚は短く腕は極端に太く長い。

 その化け物の頭上から白い少女の姿が見えた。

 白い少女へと行人は視線を移した。

 さらさらと舞う白い長髪。

 化け物を見下ろす視線は強い意志を孕み怜悧な印象を受ける。

 大人びて見えるが、襟元に付いた学年章は同じ3年だ。だがこんな目立つ少女見たことはなかった。

 声を思い出して、隣に転がっていた幼馴染を抱えて床に伏せる。


「はっ!」


 短い声と共に、さらに強く冷たい風が屋上を駆け抜けていく。

 恐る恐る顔を上げると黒い影が固まっていた。

 否。

 体の真ん中から上下にズレて崩れ落ちる。

 3体とも、だ。実体を持たなそうに見えた黒い影だが、切り口は白く凍り付いていた。その体がサラサラと空気に融けていく。

 少女の右手に握られているのは、振り抜かれた状態の銀槍だった。冷たい風は、そこから吹いてきている。

 ふわり、と首に巻かれたマフラーを靡かせて少女が振り返る。


「危ないところだったわね」

「あ、あんたは?」


 現実離れした光景に頭が付いてこないが、必死に頭を働かせようとする。

 助けてくれたからと言って味方とは限らない。

 3階立て校舎の屋上からどう逃げるかは、考えたくなかったが。

 腕の中の幼馴染の少女――悠里をしっかりと抱きながら尋ねる。扉を吹き飛ばされた時の衝撃で、悠里はぐったりとしたまま目を開かない。普段は二つに結っている髪も片方がほどけてしまっている。


「そんなに警戒しなくていい。私の名前はフィン。政府直属の組織の人間。いわば公務員」

「俺は行人、こっちは悠里……助けてくれたことには礼を言うけど、組織ってなんだよ」


 明らかに胡散臭い自己紹介にむしろ警戒を強める行人。

 その姿にフィンと名乗った少女は若干悲しそうな顔をして続けた。


「あなたは悪夢性過眠症候群と言うものを知っている?」

「……一応は」


 それは昨今流行っている病の名前だ。

 多くは若い人たちの間で起こるという。

 曰く、普通に眠ったはずなのに目が覚めない。調べると、脳波は夢を見た状態をずっと続けている。

 眠った人間は、何をしようともまったく目が覚めず、ある日急に死んでしまう。


「そう、それで合っている。あなたは今、まさしくその状態」

「はぁ!? 何言ってるんだよ。夢ったって、ここはいつもの学校だし」

「今日は何月何日?」


 食って掛かる行人に、ただただ冷静にフィンは尋ね返す。


「今日? えっと、今日は……あれ?」


 ごく普通に聞かれただけなのに、思い出すことが出来ない。

 確かもうすぐ夏休みで、その前に修学旅行があった。

 いや、もう行ったのだったか?

 いつも一緒の悠里がはしゃいでいた姿は思い出せるのだが……。

 混乱する行人を前に、フィンは話を続ける。


「さっきの黒夢……黒い影のことを思い出しなさい。あんなものが現実にいると思う?」

「そ、それは」


 畳みかけるようにフィンは指さす。


「空を見て」


 空を指さされて見上げれば、空の色がおかしい。

 ついさっきまで茜色と夜の闇がグラデーションを描いていたはずの空は、見たこともない玉虫色に染まっている。


「あなたがこの世界の真実に気が付いたから崩壊が始まった」

「崩壊!?」

「もし、この世界が崩壊するまでに校舎の外に出られなければ、あなたはこの夢と一緒に最悪死ぬ」

「死って……」

「現実感がわかないか。まぁ当然、夢なんだから」


 そう言って肩を竦めるフィン。

 一瞬浮かべた笑みが、どうやら今のセリフが冗談だったと感じさせる。


「でも、安心して」


 けれどすぐに真剣な顔に戻る。


「だから私が来た。あなたを助けるために」

「俺を、助けるために?」

「そう。だから、一緒に来なさい」


 そう言って手を差し伸べるフィン。

 目の前に伸ばされた手をまじまじと見つめて、おそるおそる手を伸ばす。

 手を取るべきか、葛藤していた行人だったが、その迷っている間にフィンが掴んでくる。

 細い腕の見た目に反して強い力だった。

 あの大きな銀槍を軽々と振るっているのだから、当然ではあるのかもしれない。

 強い力で座り込んだままの行人だけでなく抱えていた悠里ごと引き寄せられ立ち上がる。

 その時に顔がかなり近くまで寄ったのだが、なぜだろうか。

 ふと懐かしい、そんな気がしたのだ。


「さぁ、行くわ」

「ちょ、ちょっと待ってくれ! また悠里が!」


 腕の中の悠里を見ると、まだ意識が朦朧としているようだった。


「……放っておきなさい。この世界はあなたの夢なのよ。当然その子もあなたの夢の中の登場人物でしかない」

「悠里が、夢……?」


 とても信じられなかった。

 腕の中にある感触はいつも一緒にいる悠里そのものだ。

 この世界が夢だということを理解しながらも、腕の中の現実感が混ざり合って頭が混乱する。


「……とは言え、すぐには受け入れられないでしょうね。少しだけ待つ。その間にその子を起こして。時間はないわ」

「分かった。……悠里、しっかりしろ」


 フィンに冷たい声で言われて、行人は慌てて悠里を起こそうと声を掛ける。

 するとその視線がようやく行人の顔で焦点を合わせた。

 生まれた時から一緒の幼馴染の顔は高校生の割には童顔で、よく小学生に間違われる。

 子どものころから変わらない、ふにゃっとした笑顔を行人に向けた。


「あ……ゆーくん、おはよ」

「おはようじゃねえよ。歩けるか?」

「ん、なんとか、行けるよー。あれ、空どうしちゃったの?」


 悠里が今気が付いたように空を見上げて疑問の声を上げる。


「……心配するな。ちょっと天気が悪いだけだ。それより早く学校を出るぞ。そっちの人――フィンが学校を出るまでさっきみたいなヤツから守ってくれるってさ」

「うわぁー、真っ白な人だねぇ。わたしは悠里だよ、よろしくね?」

「……」


 真っ白な髪に目を見張りながらもゆっくりとした声であいさつする悠里に、けれどフィンは険しい表情で口を引き結ぶだけだった。

 彼女にとって悠里は夢の住人でしかないのだろう。

 例え夢の中だとしても行人は悠里があの黒夢とやらにバラバラにされたりするのは見たくなかった。この夢を脱出するまで自分で守ることを密かに決意した。


「あ、髪ほどけちゃった……ゆーくん、結んでくれる?」

「仕方ないな」


 手早くほどけた髪を結びなおしてやる。

 隣の家に住む悠里の世話をするのは幼い頃からの習慣だ。

 だから行人にとってはいつもの事だったのだが……。


「……」

「な、何だよ?」

「いいえ、別に」


 フィンからの視線が恐ろしく冷たい。

 とんでもなく不機嫌な様子だった。


「さぁ、行きましょう」


 髪を結び直したのを見て、フィンは下の階へと降りる屋上室へと足を向ける。


「なぁ、ここが夢ならフェンスを越えて飛び降りた方が早くないか?」

「別にやっても構わないけど、体がミンチになるわ」

「え、でもここって夢なんじゃ」

「さっき、転がったときに痛かったでしょう? あなたがその子を夢だと認識できないように、痛みも夢だと認識できなければダメージを負うに決まっているでしょう。でも死を認識することもできないからそれで死ぬこともないけど」

「それってよりえぐくないか?」


 死ぬほどの痛みを受けながら死ねないってそれはもう死ぬ以上の苦しみなんじゃ、と言う言葉はフィンの正論で閉ざされた。


「だから校舎の中を突破する。さっきの黒夢がうようよしているから、死にたくなければ私から離れないで」

「……分かったよ」


 三人は慎重な足取りで階段へと向かっていった。


   ◇


 屋上から3階へと降り、そのまま2階へと降りようとした一行だったが、そこでフィンが待ったをかける。


「どうしたんだ?」

「西階段へ行きましょう」


 そう言って、フィンがずんずん歩いて先頭に立ち3階のフロアへと出てしまう。

 この校舎は東西にまっすぐ長い廊下を持ち、突き当りにはそれぞれ特別教室と上下階へと続く階段がある。つまり各フロアへと続く階段は東西端と真ん中の三か所にある。

 そしてその間に教室が存在している。

 この3階は行人たちが所属する3年生の教室が並んでいた。

 東の一階はそのまま昇降口につながっている。真ん中の階段を使わないでも東の階段に行くことになるだろうと思っていた行人は慌てて隣に並びながら訊ねた。


「西? どうして?」

「……なんとなく、西がいいと思っただけ」


 そう言うと、白いマフラーを靡かせながら歩き出す。

 行ってしまうならば仕方ない。行人もそれに続き、悠里の手を引っ張って歩き出した。

 静かな廊下を歩きながら、自分の教室の扉の窓を覗き込んでみると、教室の中はなぜがクラスメイト達がそろって授業を受けている。

 時間は既に放課後のはず――そこまで考えてここが夢だということを思い出した。


「うーん、開かないよぉ! どうしちゃったのかなぁ。扉壊れちゃった?」


 全体重を掛けながら扉を開けようとする悠里だったが、扉はびくともしない。

 言われて手を掛ければ確かに扉は開かない。


「皆ー、おーい!」


 悠里がドアに付けられた窓越しに声を掛けるが誰も反応しない。


「その扉は開かないわ。早くこっちへ来てちょうだい」


 3階の端っこ。屋上へつながる扉は真ん中の階段だけなのでここの階段は下りだけだ。

 ふと、後ろを振り返ってみれば通ってきた廊下がそこにはある。

 生徒は誰一人としていないのが不気味だが、それ以外はいつも通りの廊下。

 異常なのは目の前に立つ真っ白な少女と彼女が持つ長い槍の存在だけだ。

 ちらりと頭の隅を「本当に信じていいのか?」と言う思いが掠める。

 ここは、確かに現実ではなさそうだ。

 だが、フィンが話す内容が本当かどうかを確かめる術はない。


「ゆーくん? どーしたの?」


 悠里が考え込んで動きを止める行人を下から覗き込んでいた。

 心配そうにする悠里に「何でもない」と言って手を引く。

 だが、なぜか悠里は歩かず立ち止まってしまい行人の方がつんのめってしまう。


「お、おいどうした?」

「ねぇゆーくん、あの人、変じゃない?」


 小さな声で、先を歩くフィンに聞こえないように話す。


「な、何でだよ」

「だって、校舎を出るだけなら東の階段に向かうのが一番近いじゃない?」

「それは……」


 確かにその通りだ。

 自分も同じことを考えたのだから。

 信じるしかない、そう思った心が揺らぐ。


「ねぇ、このまま階段降りちゃおうよ」


 すぐ後ろの中央階段へと手を引っ張って来る悠里。


「二人だけで、行こ?」


 ね? と首をこてんと倒しながら笑顔の、いつも通りの悠里が言う。


「……分かった。でも慎重にな」


 手に感じる悠里の感触は本物だ。

 しっかりと握って、前を歩くフィンに気づかれないよう静かに廊下を戻る。

 階段を下りる直前、振り返らないフィンの背中に若干の罪悪感を覚える。

 だが手の中の感触を思い返して階段に足を掛けた。

 悠里と並んで階段を下りる。

 折り返す踊り場の先には音楽室の扉があった。

 それを無視して踊り場から2階を見下ろすと、その様相は上とはまるで違っていた。


「なんで水浸しなんだ?」


 2階はなぜか床一面が水浸しで、どこからともなく流れた水が下の階段へ向かって溢れている。


「わかんないよ。でも、このまま下に降りちゃえばすぐ出られるよ?」

「……そうだな」


 見下ろした空間の異常さは棚に上げて、まずは校舎から出ることを優先して考える。

 踊り場から2階へ向かって降りた行人と悠里。

 だがその途端、背後で大きな破砕音が起こり、衝撃が背中を押す。


「っが!?」


 階段を転げ落ちる。

 上も下もわからなくなるが、階段はそんなに長くなかった。すぐに2階の床に転がり落ちた。ばしゃりと床を流れる水に落ちて気持ち悪い。

 水滴を滴らせながら頭を上げると、音楽室の扉から何かが現れている。

 巨大な黒い影の腕が音楽室から覗き入口の上下左右を掴んでいる。

 いや掴んでいるのではなく、その体を這いだそうとしているのだ。

 続いて現れたのっぺりとした黒い体。

 視線が合った瞬間、そいつが飛び跳ねる。


「悠里!」


 慌てて隣にいた悠里を抱えて避ける。

 ズン、と音を立ててそいつも2階の床に着地した。


「なっ!?」


 それは先に見た黒夢とは異なる形状だった。

 8つの腕、そして大きさも階段の幅くらいある。かなり大型だ。

 逃げるしかない。

 そう思って飛び降りたそいつの側にある1階への階段を見て、行人は絶望した。

 階段が、水に沈んでいる。

 しかも水面の下は複雑に絡み合った椅子と机によって塞がっていた。


「何だよ、これ……!」


 目の前の黒夢が大きな腕を振り上げてなお、行人は絶望に身動きが取れなかった。


「離れなさい」


 澄んだ声が、空から降って来る。

 見れば銀槍を振り上げフィンが階段を飛び降りたところだ。

 呆然とその姿を眺めていると、かろうじて反応した黒夢が太い腕で銀槍を防ぐ。腕にぶつかった銀槍が火花を上げた。


「だからここは使いたくなかったのに」


 フィンが舌打ちしながら槍を強引に振り払う。

 銀閃がひと瞬きの間に数度往復し、腕を一本粉砕した。

 反動を利用して、空中で一回転し行人たちの側に降り立つフィン。

 粉砕された腕は粉々になって消え去る。その様は人型の黒夢と同じだったが、未だ戦意は衰えないようだ。


「一気にけりをつける!」


 銀槍を大きな音を立てて床に突き立てるフィン。

 すると床の上を白い霜が覆い尽くしていく。

 それはあっという間に2階のフロアを塗り替え、壁や天井だけではなく床を流れる水をも凍りつかせていった。行人たちの口から洩れる吐息も白く凍った。

 もちろん黒夢の体にも霜は這い上がっていくが、それをものともせずにフィンへと襲い掛かろうとする。


「もう遅い」


 周囲の霜を割り裂いて巨大な氷柱が噛み合わされた咢の如く黒夢に襲い掛かる。

 床、天井、壁すべてから同時だった。

 黒夢は避けることが出来ずに閉じ合わされた氷の刃によって消え去った。

 氷は無数の破片となって、光を散らしながら辺りに散らばっていく。

 脅威がなくなったことでほっとする行人。

 だが、目の前で立つフィンが銀槍を支えにしながらも膝から崩れ落ちる。


「フィン!」


 慌てて駆け寄る行人をフィンが手で制す。


「大丈夫。この程度問題ない」

「で、でも」


 未だ肩で息をする姿からはとてもそんな余裕は窺えない。


「一度どこかで休もう」

「……そうね」


 提案に、少し思案する風な間をあけながらもフィンは頷いた。

 そのことに安堵を覚えながらも立ち上がるのに肩を貸そうと近づいた行人だったが。


―――ドスッ


 背後から、強い衝撃が襲う。


「え?」


 見下ろせば、自分の腹から青白い氷の大きな破片が突き出ている。


「な、にを」


 声を震わせながら、なぜか動かない頭をぎこちなく背後に向ける。

 痛い。

 そこにいたのは髪を二つに結った少女。

 痛い痛い。


「あれー? まだ死なないの?」


 にっこりとした笑顔で笑う悠里がそこにいた。

 手の中には、先ほどフィンが作り出した氷の破片が握られ、行人の背中に突き立てられていた。

 痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い―――!!!


「うわあああああああああああ」

「あんまり叫ばないでほしーなー。うるさいから―――さっ!?」


 ひゅん、と風切り音がして、急に体にかかっていた力が抜けて床に膝から崩れ落ちる。


「落ち着きなさい。ここはあなたの夢の世界。それは現実の怪我じゃない」


 痛みをこらえながら見上げれば、槍を構えて悠里との間に立ちふさがるフィンの姿があった。


「ふぃ、フィン」

「そんな怪我、現実で受けたら即死よ」

「で、でも痛みが」

「血は出ている?」


 そう言われて見れば血は一切出ていない。

 冷たい氷の感触と、恐ろしい痛みはあったが。


「ゆっくり呼吸をして、今自分がどこにいるのかをはっきりと認識しなさい」


 そう言われて呼吸を繰り返すと、次第に痛みが治まっていく。


「あーあ。なにしちゃってるのかなー。せっかく殺せそうだったのに」

「そう何度も同じ手は食わないわよ」

「あら、やっぱりあなた、そうなのー?」


 何の話をしているのかわからなかったが、悠里は何かを理解したという風に手を合わせる。


「フィン、この状況は一体何なんだよ」

「見ての通り、あれは敵よ。彼女はあなたの夢じゃない。あなたの夢の外から来た存在――夢に寄生する寄生虫。黒夢と同じ存在。肉体的に宿主を壊そうとする黒夢とは違って、精神的に宿主を壊そうとする―――白夢」


 その言葉を聞いて、目の前に立つ悠里の口が見たこともない愉悦を孕んだ三日月形につり上がる。


「うんー。そうだよー。でも、それだけじゃないよね?」

「……どういう意味だ?」

「それは、そっちの白い人に聞いた方がいいんじゃないかな?」


 フィンを見れば、その口元が不機嫌に引き結ばれている。


「何だ、何を隠してるんだよ」

「隠してはいないわ。話す必要がなかっただけ」

「それを判断するのは、ゆーくんじゃない?」

「黙れっ! お前がゆーくんと呼ぶなっ!」


 初めて見せる感情的な叫び。

 そして、名前を呼ばれた瞬間に直感した。


「お前……」


 耳に馴染んだ呼び名。


「悠里、なのか……?」


 白く長い髪。

 握る槍と同じ冷たい印象の容貌。

 どれをとっても行人の知る悠里の姿ではなかった。

 だが、


「……そう。私は確かに悠里」


 どくん、と心臓が跳ねる。


「なんで、そんな」

「簡単なことだよ。ねぇ、あなた―――今この夢何回目なの?」


 にたり、と再び笑みを深めて悠里―――白夢が問いかける。


「どういう、ことだよ」

「この世界はゆーくんが死ぬごとにリセットされているの。それはこの世界に入り込んであなたの夢に同化したわたし達も同じなの。でもー、特別な方法で入り込んだそっちの白い人は違うんじゃないかなぁ?」


 フィンが静かに口を開く。


「152回目よ」

「な、ひゃく?」


 自分の耳に届いた言葉を一瞬理解できなかった。


「その度にあなたは守ると言った言葉を違えたのね」

「大半はお前のせい」

「知らないよ? それをやったのは前のわたしだもん」


 わたしのせいじゃないわ、と心外そうな顔をする白夢。


「何で、そこまで……」

「当然でしょう」


 白い少女が振り返る。

 その目を見て、初めて行人ははっきりと理解した。


「ゆーくんを守るってずっと約束してきたもの」


 こいつが、間違いなく悠里なのだと。

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