それでも私は君を想う
Ryo-k
出会
私立桜華学園。都内の喧騒から外れた山間に位置するその学校は、20世紀のイギリスの建物を参考にして立てられており、創立100年を超える由緒ある女子高。
膨大な敷地面積の中に幼稚舎から大学までが併設されており、古くは名門貴族や財閥の令嬢が、現在も有名企業の令嬢が通っている現代とは隔離された箱庭かのようである。
「ごきげんよう」
同級生との挨拶を交わし下校しているのは七瀬沙耶。
桜花学園の高等部の生徒のほとんどは中等部からの内部受験で進学してくるものがほとんど。その中で彼女は珍しく、外部からの一般受験を経て入学してきた高校1年生の生徒。
まだ入学して1月しかたっておらず、友人の少ない彼女は一人で、正門までの道を歩いていた。
高等部の校舎から正門までの道のりは徒歩10分以上はかかることからも、この学園の広さがうかがえる。
すると、彼女の目の前を一人の生徒が通り過ぎていく。
通り過ぎた生徒は、沙耶でも知っている人物だった。
その人は、佐伯玲奈。容姿端麗、文武両道、実家は世界有数の大企業にしてこの学園の生徒会長を務める彼女は、全校生徒の憧れの的でこの学園で知らぬ人はいないと言われるほどの存在。
沙耶は、目の前に現れた玲奈の姿に見惚れて、しばし呆然とする。玲奈は、沙耶に気付かずに、正門までを繋いでいる桜並木の間の茂みを抜けて、奥へと歩いていった。沙耶はそのことが気になり、自然と後を追って茂みの中を歩いていった。
玲奈を追いかけるようにして歩いていった沙耶の目の前の茂みが開ける。
目の前には玲奈の姿が。慌てて近くの木の裏に隠れる沙耶。沙耶の目の前には、玲奈と見知らぬ生徒の姿が……
制服の帯の色から2年生と思われる生徒と玲奈は向かい合っている……二人の距離がどこか近い……
いけないと思いつつも沙耶は玲奈たちから目が離せなかった。玲奈と女生徒の二人の顔がだんだんと近くなっていき……そして。
二人の唇がひとつに重なる。
翌日。沙耶は昨日の玲奈の事を友人である、相川結衣に話す。
結衣と沙耶の出会いは、沙耶がまだ入学したばかりのころ。
知り合いが誰もいなく、一人でいたところを、隣の席になった結衣が話しかけてきたことがきっかけ。
桜華学園は、その学校に通う生徒のほとんどは、幼少期から自宅での令嬢としての教養、社交界での作法等の教育を受けているため、おしとやかな性格の生徒が多い。
その中で結衣は言ってしまえばかなり大雑把な性格。
結衣の実家は、大手の貿易商を営んでいる。彼女の両親は、放任主義な性格のため、結衣のやりたいことを好きなだけやらせる教育方針の用で、自由に育っていた。そのため、彼女は学校のほとんどの人と知り合いになっている。
結衣は、沙耶にとって一番の友達だ。
「え!それマジ!?」
結衣の突然の大声に声に周りの生徒が思わず反応し、二人の方を見る。
「結衣ちゃん。声が大きいよ」
「ごめんごめん。で、それほんと?」
「うん、昨日偶然ね」
「まじかー。私も見たかったなー」
「もう、結衣ちゃんはいつもいつも……」
「当然でしょ。そんな面白いこと」
結衣は何か面白いことがあるとすぐに首を突っ込みたがる。
そのため、いろいろなことを知っている。学園の生徒も、結衣が首を突っ込むことは暗黙の了解となっている。
「ねえ。結衣ちゃん?女の子同士ってさ……よくあるの?」
沙耶は高等部からの編入組のため知らない事であったが、桜華学園に通う生徒の中には、卒業と同時に結婚する生徒もいる。
これから先の自由を縛られるとでもいうのだろうか、この学園にいる間に、自由に恋愛をしたいと思う生徒は多い。しかし、男性との出会いは親戚を除くとほとんどいないのが現状。
それなら女の子と……そう思う生徒は多い。
結果、女性同士で付き合っている生徒はかなりの数になり、異性と付き合っている方が珍しいとさえいえる。
実は、高校からの編入の中には、そのことを知っていて入学する生徒もいたりする。
「特に玲奈様はいろんな娘と付き合ってるみたい。まあ、どれも長続きしないみたいなんだけどね。1日で別れた娘もいるって話だし……」
と話をしていると、クラスメイトの話声が一瞬やんだかと思うと、すぐにざわざわとした雰囲気に変わっている。教室に入ってくるのは話題にしていた佐伯玲奈その人。
彼女を見た生徒は、女神を見ているかのようにその美貌に心を奪われ、彼女を見て失神してしまう生徒も出ていた。それくらい、彼女は周りを惹きつける魅力がある。
しかし、ここで疑問がひとつ。3年生である彼女がなぜ、この教室に来たのだろうか。彼女にはここに来る理由はないはずだ。
ゆったりとした足取りで教室に入ってきた生徒は、やがてある生徒の前で立ち止まる。
「……七瀬沙耶さんね?」
沙耶の目の前で。
玲奈は沙耶に用があった。
何故……沙耶と玲奈は今日初めてこうして話をした。玲奈は沙耶をじっと瞳を見る。玲奈に見つめられた沙耶はその透き通るようなその輝きに惹きつけられて体が思うように動かなかった。
それは、玲奈が教室を出るまでの時間……一瞬の出来事のはずが、とても長く感じられた。沙耶は、自分が言葉を発したかどうかすらもわからなかった。
ただ1つ分かったことがある。
「放課後、生徒会室まで来てもらえる?話があるから」
昨日見ていたことに、気付いていたんだろう……彼女は。
放課後。生徒会室に恐る恐る入る沙耶。
中には玲奈一人だけ。玲奈は窓辺に寄りかかり、窓から外の景色を見ている。夕焼けに照らされたその姿を見た沙耶は、思わずドキッとしてしまう。
二人に間に流れる沈黙……。
「あの……話って」
玲奈は、その声に反応し視線を沙耶の方に向けると、沙耶に向けて微笑みかける。
女神を思わせるかのような聖母のような笑みに沙耶は自然と息を飲み込む。
玲奈はそんな沙耶の反応を楽しむかのようにゆっくりと沙耶に近づいていく。
沙耶は、玲奈の瞳を見た時から、体が硬くなって思うように動いてくれない。そんな中でも、玲奈から距離を取ろうと、後ずさりしようとしている。
「そんなにおびえなくても、別に何もしないわ。少し聞きたいことがあるだけよ」
「聞きたいこと?」
「昨日……見てたでしょ」
気付いてた……
沙耶は、その言葉を聞いた後に、何か言わなくちゃ……そう思うのに、言葉が出ない。
それと同時にあることを思い出す。そう、昨日の玲奈の事を……
そのことを思い出した沙耶は、自身の心臓の鼓動が自然と早くなって、より一層思考がまとまるのを阻害していく。
玲奈はその姿を見ると、まるで、いたずらを思いついた子供のような無邪気な表情に変わる。そのことにもちろん沙耶は気づいていない。
二人の距離が近付いて、そして……
「可愛い……」
そういうと、玲奈は沙耶の唇に……キスをする。
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