第28話 睦月
目の前から雪花がいなくなってどれくらいたったかはわからないけど、辺りはもう暗くなっていた。もう、この場所に戻って来てくれることはないのだろう。この場所にいても仕方がないので適当に歩き出す。
どこを歩いても恋人達と派手な音楽ばかりで目障りな上、耳障りなためそれをさけるように進んでいたら学校の前についていた。
クリスマスの学校は時間のせいもあってか、職員室にも明かりはなく、真っ暗で人気がなくなり、いつもと違って静まり返って無音が支配する場所に変わっていた。
とくに何も考えずに校舎を見上げ、そのまま背を向けてまた目的もなく歩きだそうとすると背中から知った声が聞こえた
「ゆうちゃん?」
「…先生か」
おそらく、以前冬休み中も仕事があるとか言ってたからそれが終わって出てきたのだろう。視線だけ送り、そのまま立ち去ろうとすると睦月は駆け足で寄ってきて俺の手を掴んだ。
「ちょ、ちょっと!なんでそのまま行っちゃうのよ!……ってゆうちゃんその顔どうしたの!?手もこんなにガサガサで冷たくなってるし!」
うるさいな
「なんでもない」
「なんでもないじゃないでしょ!そんな…そんな辛そうな顔して!ちょっとこっち来なさい!あたしんち、学校の近くに借りてるからすぐだから」
近くに借りてるのはきっと、昔から朝弱いからなんだろうな。そんなことより、今は誰ともいたくないんだ。余計な事はしないでくれ。
「いや、いい」
「じゃあ、どこかいくところあるの?多分だけど…家にも帰りたくないんでしょ?」
「それは…」
「いいからお姉ちゃんの言うこと聞いてついて来なさい!」
「…っ」
両手を掴まれ睦月の大きな目でじっと見つめられる。俺が目をそらしても追いかけてきて決してそらすことなく。小さい頃から俺に何か伝えて来るときはこの目をするもんだから逆らうことを躊躇してしまうし、こうなった睦月は絶対に引かないのもわかっていた。
「わかった。わかったからもう手を離してくれ」
「ふふん、わかればよろしい。じゃちょっと買い物して帰るよ」
そう言って俺の腕に抱きついてきて歩きはじめた。このロリ巨乳先生は厚着してるのに柔らかいものが腕にあたる。
「
「だーめ、離したらまたどっか行きそうだし。それに何か言われたら従姉妹です。って言えば大丈夫!それに学校じゃ敬語なのに、ゆうちゃん口調が昔に戻ったね。嬉しいなぁ」
「学校の外は別だろ。敬語とかも疲れるし」
「あたしは別に学校でもいつも通りでいいけど?」
「TPOだよ」
そんな事を話してるとスーパーに着く。話してると思い出さなくなるから少し楽になった気がする。睦月には少し感謝だな。
「はいはい。あっ、スーパー着いたね。ちゃちゃっと買い物して帰ろう!何か食べたいのある?」
「なんでもいい」
「なら適当に時間つぶしてて見繕って買ってくるから」
「わかった」
言って雑誌コーナーに向かう。睦月はカートにカゴを乗せて歩いていく。適当に雑誌を見てもクリスマス特集ばかりで、クリスマスデートやら告白の仕方やら今の俺には見たくないものばかり。こーゆーとこにある本は俺の好きなマンガやラノベは置いてないので手持ちぶさたになってしまう。飽きてきたので、睦月を探しに歩いていると見たことあるクラスの集団が前から歩いてきた。その中には紗雪の姿もあった。気づかれる前に視界からはずれるように逃げてスーパーから出ていくまで様子を伺いながら逃げ続ける。集団が出て行く姿を見送り、ほうっと息をはく。
「ゆうちゃん……中村さんと何かあったの?」
後ろから声がして振り向くとカートを押したままの睦月の姿があった。
「いや、紗雪とはなにも…」
「紗雪ちゃんとは?妹さんのほうと何かあったの?」
「あっいや……」
「ふ~~ん。ま、いいけどね。ほら、会計したら行くよ?荷物もってね?」
「あぁ、わかった」
会計を済まし、何を買ったのか知らないがビニール袋3つ分にもなった荷物を持ち特に会話もなく睦月の後ろをついていく。
しばらく歩いてると、少しおしゃれな薄い水色の壁紙の二階建てのアパートについた。上下五部屋ずつの全部で10部屋。
「205があたしの部屋だから」
そう言って外階段を上がって二階に上がっていくと二階の奥の部屋につき、睦月がカギを取り出して開ける。
「さ、どうぞ入って?」
「おじゃまします…」
中に入ると1DKの間取りで割りと広めの部屋だった。洗濯物も干したままで水色や紫、ピンクの下着とかが目に入る。
「あんまりじろじろみないでね?ってどこ見てんの………きゃあっ!ちょっと!普通下着とか見たら目をそらすでしょー!もう!ちょっと玄関で待ってて!」
そう言ってバタバタと部屋に入り洗濯物を取ってしまっていく。
「いいよー!部屋に入ってきてー!」
言われて部屋に入ると薄ピンクと白で統一された可愛らしい部屋だった。
「睦月姉、相変わらず少女趣味なのな」
「別にいいじゃない?可愛いんだもの。それより時間も時間だしご飯にしよう!今暖めたりして準備するからお風呂シャワー入って来ちゃって。ゆうちゃん全身冷たくなってるから。タオルは脱衣室の棚にあるし、後これ。さっき買ってきたスウェット。サイズは大きめの買ってきたから多分入るとおもうから」
そう言われてスマホを見ると19時20分の表示。昼過ぎに雪花に会ってからもう大半の記憶が無いが、こんな時間になっていた。
そいえば昼も食べてなかったな。
シャワーから出て用意してもらったスウェットに着替えて用意された座椅子の上に腰掛けると、長方形のガラステーブル上にところ狭しとスーパーの惣菜が並んでゆく。
唐揚げに生春巻き、あんかけ焼きそばにチーズフライ。俺の好物ばかりが並べられていく。
「サイズ大丈夫だったみたいだね。でもちょっと大きかったかな?これ全部ゆうちゃんの好きなのでしょ?とりあえずいっぱい食べてお腹だけでも満足しよ?」
そう言われるとさっきまで全然すいてなかった腹が減ってくる。惣菜の匂いが食欲を刺激して、思わず目の前の唐揚げに手が伸びた。
「あ、うまい…」
「よかったぁ、ちゃんと食べれたね。顔色悪かったから食欲ないのかと思ってたんだぁ。ホントは手作りとかがいーんだろうけどね」
「いや、そんなことないよ。睦月姉ありがと」
そう言いつつ料理にどんどん箸を伸ばす。生春巻きを取ろうとするが上手く掴めなかった。視界が滲んでいく。体も暖まり、食べて腹も少し膨れると、ホッとしてしまったせいか、涙が出てきて止まらなかった。嗚咽とかもなく、ただ涙だけが目から溢れて流れていく。それでも箸を止めずに食べ進めていく。
「ゆうちゃん……」
睦月はそれだけ言って後は何も言わず、俺が食べ終わるのを待っててくれた。
「ごちそうさまでした」
「はい、お粗末さまでした。コーヒー飲む?」
頷くとしばらくして目の前にコーヒーが置かれた。
「食べたばかりだから少し休んでてね。あたしも仕事だったし、シャワー浴びてくるから」
そう言って浴室の扉の向こうに消えていった。
俺、何してんだろーな。絶対成功すると思って気合い入れて告白してフラれて従姉妹に拾われて飯まで貰って…。脱力っていうのか、何をするのにも自主性を持って動けてない。
睦月がシャワーから出てきたら出ていこう。今日は母さんも雪路さんもいないし、家には帰りたくないから適当にネカフェにでも行くか…。
と、そこで俺のスマホが振動する。着信先は奈々だった。切れるまで待つ。すると、またすぐかかってくる。
「電話出ないの?」
顔をあげると少し湿った髪でピンクのモコモコナイトウェアに包まれた睦月がいた。
「あっ…いや…」
いいよどんでいると睦月が俺のスマホを取って電源を切った。そのまま俺の隣に腰を下ろす。肩が触れるか触れないかの距離。
「これでもう電話きてもわからないよ」
そなままスマホをテーブルの上に置いた。それをバックに入れ、着替えて出ていこうと腰を上げようとすると手を掴まれて引き留められる。
「ねぇゆうちゃん…なにが、あったの?聞かせて?おねがい。今のゆうちゃん一人にできないし見てられないよ…。今出ていってもきっとお家には帰らないでしょ?」
見透かされていた。そのまま座り、考えたあと少しずつ話し始めた。多分、聞いて欲しかったのかもしれない。同情して欲しかったのだろう。気付けば嘘の告白から今日フラれた事までのすべて睦月姉に話していた。
全て話し終わり沈黙の時間になる。それまで何も言わずに話を聞いていた睦月が立ち上がると俺のほうを向いて膝の上にまたがるように座ってきた。
顔と顔の距離が近い。
そしてそのまま口を開いた。
「ゆうちゃん…あたしはすぐそばにいるよ?こんなに近くにいる」
「なっ!」
顔を真っ赤にしながらそのまま俺の手を自ら取り、自分の手で包む。
「……ほら、ゆうちゃんが触れてるようにあたしは今ここにいるし、どこにも行かないよ?」
「む、むつきねぇ?」
「だから…ね?今ここにいてゆうちゃんのそばを離れる事のないあたしを感じて?」
睦月が倒れかかってくる。肌と肌が触れ温もりと安心感が包む。
睦月の顔が近づいてきたかと思うと唇に柔らかな感触と睦月の舌が口内に侵入してくる。
「ふむっ……ん、ちゅ…れろっ、ちゅっ…」
「ゆうちゃん……好き……大好き……」
プチあとがき
いつも応援ありがとうございます!
下の方にあります、レビューのところの星で称えるって所で評価して頂けますと泣いて喜びます。
今後とも応援おねがいいたします。
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