第12話都市ディーメルの戦い
都市ディーメル近郊の戦場の後方。フロレンツはルルを説得している。
「ルルちゃん。今度こそは言うこと聞いて!
この前は戦場についてきても、たまたま大丈夫だったかもしれないけど、今回は分からないんだからね!」
フロレンツはルルが竜と分かっても、過保護ぶりは変わらなかった。
だが、説得しているのが場所がまずい。
今回の都市ディーメルの戦場は、奇襲ではなく正面から攻めるのだ。
目の前には敵兵が列をなし、こちらも騎士たちが並び今にも戦いが始まりそうな状態だ。
フロレンツは道中ずっとルルに言って聞かせてたのだが、ルルは全く引く気配がなく、そのままついてきたのであった。
「フロレンツ隊長、いい加減にして下さい。作戦を自ら崩してどうするんですか?」
フロレンツは今回の戦でも前線を行く予定だったのだが、まだ後方にいたのだ。
『フロレンツ、私は大丈夫だから。フロレンツなんかより強いんだからね!』
「そんなこと言っても——僕は心配だよ……。今からでもいいから引き返して!」
竜とフロレンツの駆け引きが行われている中、周囲の若い騎士たちが話している。
「隊長の竜、益々でかくなってるよな。久しぶりにでかい姿見たけど、成長してるよ」
「それよりも気になるのは、隊長が竜の言葉を理解しているところだ……」
「テイムしたから、お互いの信頼度が上がったりすると言葉が通じるとかなのかな?」
「双炎の竜騎士か……。隊長が益々孤高の存在になっていく」
「そこ、うるさい。フロレンツ隊長もそろそろ腹を括って、前線へ行ってください! というよりも、行きますよ!」
フロレンツはレオニーに馬の尻を蹴られ、強制的に前線へと向かわされる。
*
「レオニー、あんまりだよ。ルルちゃんまだこんなに小さいんだよ? 怪我でもしたらどうするのさ?」
レオニーはルルを見つめると、ルルに告げた。
「ルルちゃん。いいですか。危ないと思ったら飛んで逃げて下さい!」
「ガウ!」
ルルの元気な声を同意と見て、レオニーはニコッとした。
すると、フロレンツは急に馬から引き離され、上空へと浮遊する。
「——うわっ!」
フロレンツの声は戦場へと響き、騎士たちが空を見上げた。
ルルはグルグルと自由に飛び回り、フロレンツは必死にルルに捕まる。
「ねえ、これってさあ。皆にはちゃんと竜に乗ってるように見えてるんだよね……」
そう、フロレンツにはルルのことが幼女にしか見えていない。
何度目をこすっても、自分がルルに肩車されて、何故か浮いているのだ。
「ねえ、ルルちゃん僕にも本当の姿見せてよ。じゃないとおじさん心が羞恥で潰れそう」
『いやー!』
フロレンツは仲間の軍勢をルル、竜に乗って前線へと立った。
「向こうの大将、竜に乗ってますぜ隊長!」
「あれが、双炎の竜騎士か!」
仲間たちから聞いたであろう。新しい呼び名があちらこちらで飛び交い、相手の士気は戦う前から落ちた。
「それじゃあ先制攻撃といきますか」
*
フロレンツは空から火の魔法を放った。
魔法を使える事がバレているなら、始めから力を使った方が相手の士気を下げるには効果的だ。
フロレンツははじめから火力全開だ。フロレンツの火魔法に合わせて竜もブレスを吐く。
上空から火の雨が降り、敵兵の前線の人数を減らす。
「弓隊、油を!」
弓を持つ騎士たちは、油を染み込ませた布を矢に巻いたものを射抜いていく。
相手方の前線は一気に火の海だ。
「隊長! これは最終手段ではなかったのですか? 相手の被害を最小限に留めるために、魔法を使わず相対していくとの作戦だったはずです」
「あー、そんな事も言っていたね。けど、はじめに力を見せた方が、こっちの人員に被害はあまり出ないだろう?」
飛ぶルルの下にレオニーの乗る馬が追いつき、作戦についての質問が来たが、フロレンツは敵兵の被害のことなど考えていなかった。
自軍に対して有利に進むことだけを考えた。
フロレンツの考えた通り、相手の兵たちは隊形を崩し、皆後方へと逃げていく。
「竜だ。竜とあの火魔法じゃ殺られる!」
「お前ら、陣形を崩すなー! 魔法兵は鎮火だ!」
魔法兵が歩み出て、水魔法を降らせ、火を消して行く。
「我が騎士達よ。前へ! 相手の士気は落ちた。今が攻め時だ!」
フロレンツの声に騎士たちが、前へ歩み出て剣を交わしはじめる。
フロレンツはルルから飛び降り、剣を構えると、次々と敵兵の命を散らしていった。
背中を見せて逃げ出すフロレンツたちにも、フロレンツは手を緩めなかった。
「あのさあ、騎士が背中を見せるとはあまりかっこよくないんじゃないかなー」
逃げ回っていく兵士たちに斬りつける。
「隊長、どうしたんですか? 今までは去っていく者は見逃していたでしょう?」
「レオニー、それじゃダメなんだよ。逃げ出した人間がまた牙を剥くかもしれないだろ?」
レオニーの言葉を聞かずに、次々と剣と魔法で敵兵を殺していった。
「隊長……」
レオニーの剣の動きが鈍り、よそ見をしている所で、敵兵に斬りかかられる。
すんでのところで剣を構え直したが、体勢を崩され転んだ。
「レオニー!」
フロレンツの声に反応したのは、ルルだ。
空から辺りにブレスを吐いていたのだが、レオニーに向けて一直線に下降する。
レオニーに降りかかる剣を腕で掴むと、バリッと剣をへし折った。
「ルルちゃん?」
『貸し一つ』
レオニーに言葉は通じなかったが、ルルはレオニーに切り掛かっていた男を掴んで、上空に連れて行くと、上空から落とした。
男の悲鳴が聞こえ、皆が空を見たときには、男の命は散っていた。
*
「竜だ。竜からやれー! 魔法兵と弓隊一斉攻撃だ!」
竜に怯えた敵軍が後方部隊へと指示を出すと、竜に向かって集中砲火だ。弓だけでなく、水魔法や大砲まで飛び出して来ている。
「ルル!」
フロレンツは後方部隊に火魔法を降らせた後、ルルに向かって戦地をかき分け走り出し、ルルの背中へと飛び乗った。
「こんなルルに集中砲火とか、断じて許せん! まずは大砲潰すよ! ルルちゃん僕に合わせて魔法を放って!」
ルルは頷くと、フロレンツと合わせて火魔法を放った。
「
敵大砲を破壊し、その周囲にも大きな被害を出した。
「ええい! お前ら何をやっている。魔法兵! 高い賃金貰っているんだから動け!」
「は、はい」
敵の大将と思われるフロレンツが、魔法兵に喝を入れる。
理不尽な大将の物言いに、フロレンツは怒るがその怒りを炎の力へと変えた。
「
大将を火ダルマにするために放った魔法は、敵兵により相殺された。
相殺された魔法が降ってきた方向を見れば、氷竜に乗った1人の青年がいた。
*
「おじさん、暴れてくれるじゃない!」
見知らぬ青年にフロレンツがはおじさん呼ばわりされて、憤慨する。
「まだ、おじさんっていう歳でもないけれどもね! 君はその竜をテイムしているのか?」
「テイムしてなければ、竜が乗せてくれるわけないでしよ! おじさん初心者?」
『フロレンツの事バカにしないで!』
ルルが火を放てば、相手の竜によって相殺される。
『あら、ハンス。この子まだ子供よ? 最近テイムしたんじゃないかしら?』
「やっぱりそうか。ゲゼルマイアーの双炎の竜騎士なんてぽっと出の名前だもんね」
『また、バカにして!』
再び火魔法を放とうとするルルをフロレンツは止める。
「ダメだよ。ルルちゃん。魔法の無駄遣いだよ」
優しく頭を撫でてやり、ルルをなんとか宥めた。
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