第12話都市ディーメルの戦い

 都市ディーメル近郊の戦場の後方。フロレンツはルルを説得している。


「ルルちゃん。今度こそは言うこと聞いて!

 この前は戦場についてきても、たまたま大丈夫だったかもしれないけど、今回は分からないんだからね!」


 フロレンツはルルが竜と分かっても、過保護ぶりは変わらなかった。

 だが、説得しているのが場所がまずい。

 今回の都市ディーメルの戦場は、奇襲ではなく正面から攻めるのだ。

 目の前には敵兵が列をなし、こちらも騎士たちが並び今にも戦いが始まりそうな状態だ。

 フロレンツは道中ずっとルルに言って聞かせてたのだが、ルルは全く引く気配がなく、そのままついてきたのであった。


「フロレンツ隊長、いい加減にして下さい。作戦を自ら崩してどうするんですか?」


 フロレンツは今回の戦でも前線を行く予定だったのだが、まだ後方にいたのだ。


『フロレンツ、私は大丈夫だから。フロレンツなんかより強いんだからね!』


「そんなこと言っても——僕は心配だよ……。今からでもいいから引き返して!」


 竜とフロレンツの駆け引きが行われている中、周囲の若い騎士たちが話している。


「隊長の竜、益々でかくなってるよな。久しぶりにでかい姿見たけど、成長してるよ」


「それよりも気になるのは、隊長が竜の言葉を理解しているところだ……」


「テイムしたから、お互いの信頼度が上がったりすると言葉が通じるとかなのかな?」


「双炎の竜騎士か……。隊長が益々孤高の存在になっていく」


「そこ、うるさい。フロレンツ隊長もそろそろ腹を括って、前線へ行ってください! というよりも、行きますよ!」


 フロレンツはレオニーに馬の尻を蹴られ、強制的に前線へと向かわされる。



「レオニー、あんまりだよ。ルルちゃんまだこんなに小さいんだよ? 怪我でもしたらどうするのさ?」


 レオニーはルルを見つめると、ルルに告げた。


「ルルちゃん。いいですか。危ないと思ったら飛んで逃げて下さい!」


「ガウ!」


 ルルの元気な声を同意と見て、レオニーはニコッとした。


 すると、フロレンツは急に馬から引き離され、上空へと浮遊する。


「——うわっ!」


 フロレンツの声は戦場へと響き、騎士たちが空を見上げた。


 ルルはグルグルと自由に飛び回り、フロレンツは必死にルルに捕まる。


「ねえ、これってさあ。皆にはちゃんと竜に乗ってるように見えてるんだよね……」


 そう、フロレンツにはルルのことが幼女にしか見えていない。

 何度目をこすっても、自分がルルに肩車されて、何故か浮いているのだ。


「ねえ、ルルちゃん僕にも本当の姿見せてよ。じゃないとおじさん心が羞恥で潰れそう」


『いやー!』


 フロレンツは仲間の軍勢をルル、竜に乗って前線へと立った。


「向こうの大将、竜に乗ってますぜ隊長!」


「あれが、双炎の竜騎士か!」


 仲間たちから聞いたであろう。新しい呼び名があちらこちらで飛び交い、相手の士気は戦う前から落ちた。


「それじゃあ先制攻撃といきますか」



 フロレンツは空から火の魔法を放った。

 魔法を使える事がバレているなら、始めから力を使った方が相手の士気を下げるには効果的だ。

 フロレンツははじめから火力全開だ。フロレンツの火魔法に合わせて竜もブレスを吐く。

 上空から火の雨が降り、敵兵の前線の人数を減らす。


「弓隊、油を!」


 弓を持つ騎士たちは、油を染み込ませた布を矢に巻いたものを射抜いていく。

 相手方の前線は一気に火の海だ。


「隊長! これは最終手段ではなかったのですか? 相手の被害を最小限に留めるために、魔法を使わず相対していくとの作戦だったはずです」


「あー、そんな事も言っていたね。けど、はじめに力を見せた方が、こっちの人員に被害はあまり出ないだろう?」


 飛ぶルルの下にレオニーの乗る馬が追いつき、作戦についての質問が来たが、フロレンツは敵兵の被害のことなど考えていなかった。

 自軍に対して有利に進むことだけを考えた。

 フロレンツの考えた通り、相手の兵たちは隊形を崩し、皆後方へと逃げていく。


「竜だ。竜とあの火魔法じゃ殺られる!」


「お前ら、陣形を崩すなー! 魔法兵は鎮火だ!」


 魔法兵が歩み出て、水魔法を降らせ、火を消して行く。


「我が騎士達よ。前へ! 相手の士気は落ちた。今が攻め時だ!」


 フロレンツの声に騎士たちが、前へ歩み出て剣を交わしはじめる。

 フロレンツはルルから飛び降り、剣を構えると、次々と敵兵の命を散らしていった。

 背中を見せて逃げ出すフロレンツたちにも、フロレンツは手を緩めなかった。


「あのさあ、騎士が背中を見せるとはあまりかっこよくないんじゃないかなー」


 逃げ回っていく兵士たちに斬りつける。


「隊長、どうしたんですか? 今までは去っていく者は見逃していたでしょう?」


「レオニー、それじゃダメなんだよ。逃げ出した人間がまた牙を剥くかもしれないだろ?」


 レオニーの言葉を聞かずに、次々と剣と魔法で敵兵を殺していった。


「隊長……」


 レオニーの剣の動きが鈍り、よそ見をしている所で、敵兵に斬りかかられる。

 すんでのところで剣を構え直したが、体勢を崩され転んだ。


「レオニー!」


 フロレンツの声に反応したのは、ルルだ。

 空から辺りにブレスを吐いていたのだが、レオニーに向けて一直線に下降する。

 レオニーに降りかかる剣を腕で掴むと、バリッと剣をへし折った。


「ルルちゃん?」


『貸し一つ』


 レオニーに言葉は通じなかったが、ルルはレオニーに切り掛かっていた男を掴んで、上空に連れて行くと、上空から落とした。

 男の悲鳴が聞こえ、皆が空を見たときには、男の命は散っていた。



「竜だ。竜からやれー! 魔法兵と弓隊一斉攻撃だ!」


 竜に怯えた敵軍が後方部隊へと指示を出すと、竜に向かって集中砲火だ。弓だけでなく、水魔法や大砲まで飛び出して来ている。


「ルル!」


 フロレンツは後方部隊に火魔法を降らせた後、ルルに向かって戦地をかき分け走り出し、ルルの背中へと飛び乗った。


「こんなルルに集中砲火とか、断じて許せん! まずは大砲潰すよ! ルルちゃん僕に合わせて魔法を放って!」


 ルルは頷くと、フロレンツと合わせて火魔法を放った。


火嵐ファイアストーム


 敵大砲を破壊し、その周囲にも大きな被害を出した。


「ええい! お前ら何をやっている。魔法兵! 高い賃金貰っているんだから動け!」


「は、はい」


 敵の大将と思われるフロレンツが、魔法兵に喝を入れる。

 理不尽な大将の物言いに、フロレンツは怒るがその怒りを炎の力へと変えた。


焼却インシネレーター


 大将を火ダルマにするために放った魔法は、敵兵により相殺された。

 相殺された魔法が降ってきた方向を見れば、氷竜に乗った1人の青年がいた。



 *

「おじさん、暴れてくれるじゃない!」


 見知らぬ青年にフロレンツがはおじさん呼ばわりされて、憤慨する。


「まだ、おじさんっていう歳でもないけれどもね! 君はその竜をテイムしているのか?」


「テイムしてなければ、竜が乗せてくれるわけないでしよ! おじさん初心者?」


『フロレンツの事バカにしないで!』


 ルルが火を放てば、相手の竜によって相殺される。


『あら、ハンス。この子まだ子供よ? 最近テイムしたんじゃないかしら?』


「やっぱりそうか。ゲゼルマイアーの双炎の竜騎士なんてぽっと出の名前だもんね」


『また、バカにして!』


 再び火魔法を放とうとするルルをフロレンツは止める。


「ダメだよ。ルルちゃん。魔法の無駄遣いだよ」


 優しく頭を撫でてやり、ルルをなんとか宥めた。

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