偽典・女神転生 東京黙示録
ダークな雰囲気、救われないシナリオ、崩壊した東京…と、世界観はとにかく濃い。合う人にはとことんマッチするだろう。
合わない人は無論だが、嫌悪感しか抱かないだろう。
ただ、全体的に不親切である。昔のゲームだが、それを差し引いても不親切すぎる。
まず、アイテムの効果が全然わからない。
傷薬とかドクキエールは名前で察する事が可能だ(ちなみにドクキエールは解毒効果があるが、副作用が存在する)。
だがプチダゴンとかベルゼブゼリーとかは、マイナスアイテムにしか思えない。
ダゴンは悪魔だし、ベルゼブブだって「蠅の王」という悪魔だ。そんなものを口にしたり身体に塗ったりしたら、どうなるか想像もしたくない(ちなみにどちらも回復アイテム)。
ただ、「ブルー・ジル」とか、「アドレナリンC」等、遊び心を感じるものも多く、効果が分からないというのも、「探っていく楽しみがある」と言い換える事が出来る。マイナスアイテムというか、そういったギャグアイテムのようなものが多いため、アイテムの種類が本当に多い。回復系アイテムだけで何十種類と存在する。
アイテムの説明不足はまだ可愛いほうだ。更なる問題がある。ワールドマップである。
このゲームは崩壊した東京を旅する事で、多くのエピソードと触れ合う事になるのだが、本当に東京を模した地形で作られており、更に、今風に言えばスキップトラベルの類は一切存在しない。そういった魔法すら無いのだ。
唯一存在するのがシリーズ恒例となった転送施設・ターミナルであり、恐らく本作に存在する数少ない良心なのだろうと思う。
ここで問題なのが、「東京在住でもない限り地理が分からない」という事である。普通RPGで道中のヒントと言えば、「ここから南に行けば○○に行ける。そこに行ってみれば?」といった具合で、次の目的地を教えてもらえるのが常道だが、本作では急に新宿に行けだとか、銀座に行けだとか言われる。
いや、まだそれならいい方だ。次の目的地が全く分からない事がある。
ある問題を解決してやれやれ一件落着、となった後、特に誰も何も言わずゲームが進むときもある。
次の目的地どころか、次の目標すら定かではないのだ。しかもマップは広大な上に、移動にクセがあって難しい。
ワールドマップを直接クリックすることで主人公たちがクリックした地点に対して移動するのだが、すぐ壁に引っかかって右往左往し、敵と無用なエンカウントをしてしまう。
実はメニューでミニマップを右上に表示させる事で、そのミニマップをクリックすることで移動は出来るのだが、とにかくめんどくさい。
ただ、まあ、広大な東京をあても無く彷徨い、崩壊した建物などを眺めるのはとても退廃的雰囲気を楽しめた。もちろん大変で、しかも長い時間かけて無益に彷徨い続けるのは苦痛なのだが、この雰囲気を狙っていたのだとしたら成功しているとも言える。
全体的作風はその昔に流行った、エログロそのものである。
ハーピーとかネコマタとか、一部女性型悪魔は乳首が描き込まれている。
その一方、デカラビアという悪魔は人間らしきものが取り込まれている星型の悪魔であり、その見かけはエグい。
有名なところでは、序盤の「あるイベント」が本当にグロい。耐性の無い人が見たら気分を悪くしてしまうだろう。
そのイベントに限った話ではない。
悪魔と人間の騙し合い、陰謀、勢力争いはドロドロとした戦いの連続である。
そこに高潔なヒーローはおらず、無条件で助けてくれる神なるものもいない。
地上を制圧したい悪魔と、悪魔を快く思わない神、その狭間に立たされて犠牲を強いられる人間。
昨日まで一緒に戦った仲間達も、ふとした瞬間、生命の危機に晒される事がしばしば。
深くは語らないが、ここまでどん底の状態から始まった主人公も中々いないだろう。
育成要素全般に関しては、案外奥深い。
女神転生シリーズで初めての「悪魔が経験値を取得し、レベルアップできる作品」であり、レベルアップに伴って特技・魔法などを習得する事が出来る。
習得するスキルに関しては、悪魔ごとに傾向がある。例えば、「炎系魔法」「戦士系特技」などの系統を覚える、という感じで、「このレベルになれば〇〇の特技を覚える」と一概に言えないのだ。
更に、悪魔も装備品を装備できる。剣や銃、防具などだ。
女性型悪魔は女性装備、獣型悪魔は獣系装備など、装備できる物に制限はあるものの、思い入れのある悪魔に対して強化させることが出来るのだ。
しかし、これは一長一短のシステムだ。
長所は上記の通りで、悪魔を強化させられるということ。
短所は、一言で言えば、めんどくさいのだ。
女神転生は悪魔をパーティに加え、仲魔にした悪魔を合体させて強化させるのが基本の流れだ。
そうなると、人間に装備を与える時とは違って、頻繁にメンバーチェンジが発生することになる。メンバーを変えるたび、装備も変更しなければならなくなる。
畢竟、装備させたくなくなる。
筆者の場合は、だが、殆ど固定で装備させられる剣とか銃だけは装備させるが、防具は無しというパターンが多い。
防具も完全装備させたのはよほど気に入った悪魔が加入した時か、気力のある序盤だけ。あとは飽きる。
これは無論のこと、人それぞれだ。根気がある人か、このシステムにのめり込んだ人であれば、嬉々として悪魔ごとに装備を与えるかもしれない。
ただ、悪魔ごとに装備できる物に違いがあること。
そして、このゲームはアイテムの所持数に制限があること。
この2つが邪魔をして、アイテムの管理には常に頭を悩ませることになる。
しかも装備だけでなく、宝玉や手りゅう弾、弾薬といった常備アイテムが必要になるし、何に使うのかよく分からないアイテムも大量に手に入る。これにより、アイテムの取捨選択が思ったより難しいのだ。
ただ、個人的にはこのシステムなくして偽典・女神転生はありえないとすら思う。
確かに短所はある。だが、ここまで自由に悪魔を強化できる女神転生は(コンシューマでは)他に無い。
急に強い魔法を覚えたり、銃を装備する仲魔。種々様々な物品でごった煮になるアイテム欄。
このカオスこそ、偽典が偽典たる所以であると思う。
断言するが、絶対に今のゲームには無い要素であるし、もう二度と同じようなものは生まれない。
戦闘についても、一癖も二癖もある代物だ。これも有名な話かもしれない。
3Dダンジョンでは、悪魔がうろついている。
その悪魔を直接ターゲッティングし、剣なり魔法なりを選択し、攻撃する事で戦闘が開始される。
ターンというものは存在しておらず、CPUクロック数によって時間を計算し、各キャラクターの行動順が回ってくる。
当然、当時のPCと現在のPCではマシン性能がまったく違う。
そのままでは悪魔が高速行動を行い、よくわからないまま瞬殺されるが、有志によってパッチが作られ、その問題については解決している。
当時のプログラムは時間をカウントする事が出来ず、仕方ない処置であったかもしれないが、それにしても特殊なシステムである。
また、敵悪魔と同じ位置――マップ上でいうところの全く同じ座標――にまで近づくと、移動も出来ないし、銃も使えなくなる。
移動が阻害されるゼロ距離戦闘は不利になる場合が多く、しかも今作は会話成功率がそこまで高くない。
ちなみに、魔法や特技は歴代の女神転生シリーズをプレイしていても、見覚えの無いものが多い。
爆裂を起こすというダムド、敵全体を攻撃するエリコ、MPを奪うマカトランダ…などなど。
効果の分からない事の多いアイテム類と違って、流石にこちらは分かりやすい説明文があるので、そこまで困る事は無いだろう。
ところで、女神転生の戦闘と言えば剣と銃、魔法……の他に、悪魔会話がある。
悪魔会話は、悪魔の言語をCOMPと呼ばれる携帯型コンピュータによって翻訳し、人間との会話を可能としているという設定があるわけだが、今作は会話に限らず、戦闘や探索においてCOMPが活躍する。
各地のターミナルと言われる端末にアクセスすることで、様々なソフトウェアをダウンロードすることで、魔法が使えるようになったり悪魔が無条件でCOMPに入って仲間になったり、様々な恩恵を受けられるのだ。
そして、今作のカオスっぷりを高めているのは、「よく分からない能力値」であると思う。
女神転生シリーズにおいては、強さ・体力・知恵・魔力・速さ・運の6つのパラメータがあり、レベルアップのたび、どの能力を伸ばすかはプレイヤーが決める。
偽典・女神転生においても基本は同じだ。
だが、パラメータといえば
直感・精神力・魔力・知力・加護・強さ・体力・敏捷性・器用さ・魅力
……以上10点となる。
どのパラメータにどういう効果があるのか、非常に分かりづらい。
敏捷性と器用さ、強さと体力は、(ゲーマーであれば)まだわかる。
直感とか精神力、加護、魅力と言われても、高ければどんな恩恵があるのか?
正確に判断できるプレイヤーはごく少ないはずだ。
これを「探っていく楽しみ」と断言できる人は少ないかもしれない。
他にも、「覚醒」というシステムがある。これはイベントの一部であり、簡単に言えば主人公が強化されるイベント……なのだが、ゲームの進め方によって、強化される項目に変化が出る。
これらの意欲的――敢えて悪い言い方をするなら雑多な――システムは、多くの女神転生プレイヤーの知らないものであると思う。
と同時に、一部女神転生愛好家には聞き覚えのあるものであるとも思う。
というのは、これら能力値や覚醒などのシステムは、TRPG女神転生のシステムであるのだ。
その為、TRPG愛好家であり女神転生愛好家であれば、知る機会に恵まれたかもしれない。
残念ながら現在は絶版となっているため、今から内容について知る事は難しい。
これらTRPGのシステムは知らなくても問題ない――と言いたいところだが、もし今作を説明書なしの中古によって入手した場合、能力値の意味が全く分からないことになりかねないため、必要な知識と言える。
ただ、下手な予備知識なしで挑んだ方が、困難が多い分、ゲームから与えられる衝撃という名の思い入れは増すはずだ。
偽典・女神転生というゲームは、とても一言では言い表せない。
それは良きにしろ悪しきにしろ、「語るべき」と思える内容がとても多いからだ。
良作かと聞かれれば、そうとは思えない。
分かりづらい・プレイしづらい・バグが多いから。
駄作かと聞かれれば、そうとも思えない。
徹底的なまでにダークな世界観・独特なシステム群・種類豊富な悪魔。
魅力も多いゲームだ。
ただ、今作は酷評されている事が多い。
やはりバグが多いのは致命的だと指摘されているし、ストーリーに関しても指摘がある。
つまるところ作りこみ不足が目立つ、という事だ。
それらに関しては大いに頷ける。
色眼鏡によってかなり贔屓目をしている筆者でさえも、そういった部分を認めざるを得ない程だ。
しかし、有志によって一時期、リメイクが計画されていたり、レビューなども多い事から、秘めたる魅力が認められている事実もある。
もしなんらかの間違いでプレイ環境が出来たなら、己の感じるままプレイして欲しい。
そこには、想像を超えた混沌が渦巻いているはずだ。
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