第54話「城のみんな」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「むぅ……」
どうやら気を失っていたらしい。
園は立ち上がると、傍(かたわ)らに落ちていた自分の槍を拾い上げる。
「不覚なのじゃ……戦闘中に気絶するなど」
最後に覚えているのは、凄まじい光の奔流が城門目がけて直撃したこと。
咄嗟に身を守ったつもりだったが、どうやら吹き飛ばされてしまったようだ。
(……しかし、なぜ、わらわは生きておるのじゃ……? 敵はこの機を逃さず一気に攻め寄せてくるはず……)
そこで、園は――破壊された城門の前方の平原で、白馬に乗った刀兵衛が次々と敵を斬り倒していく姿を見た。
「……そうか! 来てくれたのじゃな、刀兵衛っ……!」
元いた世界での最後の戦いでは、刀兵衛は園の命を受けて城を出て、ひたすら前進し続けた。城に籠った園は、譜代の家臣たちとともに敵軍と闘い、最後は衆寡敵せず自ら火を放って城とともに運命を共にしたのだ。
だが、この世界では――刀兵衛は、来てくれた。
危機に陥ったルリアル城に駆けつけて、自分たちの命を救ってくれたのだ。
あのとき、自分は刀兵衛に「ひたすら前に進め」などと格好つけて言うべきではなかった。「ずっとそばにいてくれ」、「わらわと城を守ってくれ」と言うべきだったのだ。
胸が熱くなった。
苦しくなった。
男勝りの豪放磊落な女武将として生きてきたが、やっぱり、ひとりの女子(をなご)として刀兵衛のことが、たまらなく好きだと気づいた。
「……園さまっ! 大丈夫ですかっ!?」
そこで、城からリアリが走ってきて呼びかけてきた。
その後ろには、救護役の女たちもいる。
「あ、ああ、大丈夫じゃ……」
と強がってみたものの全身に鈍痛が走り、魔法攻撃の余波なのか痺れまで残っている。
「いま、回復しますからっ!」
リアリは園に手を当てて、回復魔法を行使してくれた。
淡い光が全身を包むとともに、心地よい温かさに包まれていく。
「お、おお……! さすがじゃな。すごい回復力なのじゃ!」
魔法のおかげで、嘘のように先ほどの痛みや痺れがなくなっていった。
さっきまでの身体なら戦闘は難しかったが、これならもう一戦できそうだ。
リアリに続いて、救護係の女たちも倒れている兵士たちに薬草を塗ったり包帯を巻いたり治療をしていく。重傷者には、リアリも回復魔法を使って、癒していった。
あの強烈な魔法攻撃によって城門と城壁こそ破壊されて多数の負傷者は出たが、さいわい、死者は出ていないようだった。
「……す、すみません、みなさん……わたくしの……くっ……力が至らないばかりに……」
やがて、城内から侍女に肩を貸されてリリア姫がやってきた。
青白い顔色をしたリリアは悔恨の表情を浮かべている。
「姉さまっ! 大丈夫ですかっ!?」
憔悴しきった姉にリアリは駆け寄り、回復魔法を行使しようとする。
「……大丈夫です……魔力は、みんなに使ってください……」
「で、でも、姉さまっ、あれだけの魔法を防ぎ続けたんですからっ」
「……これぐらい、刀兵衛さまの鍛錬に比べれば……へっちゃらですからっ」
ことさらに砕けた口調で言って、リリアは無理に笑みを浮かべた。
しかし、額には汗が滲んでいる。
「リリア姫が頑張ってくれたからこそ、死者が出ずに済んでいるのじゃ。わらわたちにはあんな魔法を防ぐ手立てはないからのう」
「そうです、姉さま! あんな攻城魔法の直撃を受けていたたら城もろともわたしたちも全滅してますっ! あっ、怪我してるじゃないですかっ! 腕から血が出てますっ!」
「……敵の魔法の威力が強すぎて吹き飛ばされてしまって……でも、へっちゃらです……」
「へっちゃらじゃないです! ほら、姉さま! じっとしててくださいっ! いま治療しますからっ!」
「は、はいっ……」
怒られてしゅんとなったリリアに、リアリは回復魔法を行使していく。
そんな姉妹のやりとりを、兵士や女たちが優しげな表情で見守っていた。
もちろん、園もそのひとりだ。
(よい城じゃな)
城主の姫も、それを支える妹と家臣たちも、そして、領民も――。
自分の槍がこの城のみんなを少しでも守れたことを、園は誇らしく思えた。
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