異世界の不審者情報「少女つきまとい」~中年ストーカー王の妄想話(デイドリーム)~

プチデビル

プロローグ

第1話 JCにガチプロポーズする、おっさん国王 「やめて下さい。キモいから」


「そなた、吾輩の嫁になれ! 一生、大切にいたすぞ! どうだ?」


 川辺で。

 綺麗な桜のような花が咲き誇った、白木から。


 ひらひらと。

 まるで映画の1シーンのように、花びらが舞い散る中。


 私は。

 まだ中学生の私は。


 どう見ても……40過ぎのおっさんに、突然声をかけられて。


 突然、プロポーズされた。


 西洋の王様らしい出で立ちで、左右にツンツンと突き出た黒髪。

 どうやって固定しているのかわからないけど。

 キラキラと輝く、黄金色の王冠を乗せた頭で。

 身長158cmの私が、完全に見上げ――――おっさんに見下されている体勢のまま。


 そのおっさんは、片膝を地面につき。

 私の手を取り。

 映画や漫画などで見たことがあるように、プリンセスの片手にキスでもしそうな勢いで、私の白い手を軽く持ち上げて。

 メラメラと燃える目をして、こちらを見上げてくる。


「そなたは美しい。さきほど、初めて見た時から――――吾輩は、恋に落ちた。なんと美しい姿。その艷やかな黒髪。賢そうな面立ち。知性あふれ、可愛らしく筋のとおった目鼻立ち。ほっそりとしていて……筋の通った健康的な体。……このエオルガンデ1の魔法国家『ウィンタムタム』の王の心を射止めるとは。……そなたは誠に、女神よのぉ。吾輩の后となれば、そなたは一生、楽をして贅沢に暮らすことができるのだぞ。これほど美味しい話はなかろう。……その出で立ちからするに、騎士の見習いというところか。『ウィンタムタム』の騎士団の装備ともまた違うようだが……まだ若いうちから関心だのう。……だが王妃となれば、騎士などせずとも、裕福に暮らすこともできる。そなたの父母はご健在か? 婚約を受け入れたら、明日にでも王国の城内にでも住んでいただき、我らの結婚式を見守っていただきたいが……いかがだろうか」


 口早に。

 40すぎの、おっさん国王が。

 少し自慢げに、鼻の下にたくわえたバナナ型の黒い髭を、なでなでしながら。


 金と権力と、親の面倒を見てくれることをエサに。

 私を口説いてくる。


 けど。

 自分の話に酔いしれてきた、バナナ髭と王冠が特徴的なおっさんに。


 私は、きっぱりと言い放つ。


「ごめんなさい。無理。―――――おっさんとなんて、絶対、無いから。キモッ」



◇ ◇ ◇



 白木から花びらが舞い散る中。

 地面には。

 灰のように真っ白な顔色をしている、バナナ髭で……王冠を被った――――おっさん国王が、倒れている。


 彼のことを、私は実は知っている。

 エモスターク王。

 さきほど行われた戴冠式で、王子から王様へと成り代わったばかりの、40代おっさん。


 神々に祝福されし、芳醇な森の大地――――エオルガンデ。

 その中央に君臨し、繁栄を極めている国家「ウィンタムタム」の……王だ。


 王位継承権第1位のくせして、父親である国王に反発。

 国を飛び出して、放浪の旅に出ていたけれど。


 突如、故郷を襲った「敵」の知らせに。

 王子は―――――帰還。


 旅の途中で巻き込まれた、数々の冒険で……身につけてきた魔術を駆使し。

 絶望的な状況の中、敵陣を打破。


 国と、世界を救った英雄として。

 今日。

 さきほどまで。


 王位を継承する戴冠式と、それを祝う宴が開かれていた。


「(『物語』も、ここで終わり。エモスタークが王様になって、戴冠式をして、ハッピーエンド。この先のことは、この後語り継がれる英雄譚にも掲載されていない。だから、もう、終わりなのに)」


 私は、半ばあきれた表情で。

 失恋のショックで地面に倒れてしまっている、40代新国王兼国を救った英雄の……情けない姿を、見下ろしている。


「どうして、ここで……話の最後の場面で、私にプロポーズすんのよ。意味わかんないし。……大体、エモスターク王って……もっと、こう……カッコいいんじゃなかったの? なんで、こう、ダサいし、チャラいのよ。―――――この、ロリコンッ」


 私の知っている物語の主人公、エモスターク王子は。

 年齢はわりといっている方だけど。

 熱くて。かっこよくて。


 旅の途中、世界最強の魔法使いと出会って―――――身につけた、最強の魔術を使い。

 悪い魔物たちを、たった一人で蹴散らし。


 世界や、国や、人々を救った英雄だったはずだ。


 それが。

 物語の部分が終わり……一連の話が終わった後で。

 こんな、中学校3年生――――――まだ15歳の子どもの私を、口説いて。


 金と、権力をチラつかせ。


 結婚を迫るなんて。


「イメージ、がた落ちだし。最悪」


 倒れ込んでいる、エモスターク王の足。

それを、私はブーツで蹴っている。


「『本』の表紙の絵だと、もっとかっこよかったし。……盛ってるでしょ、あんた」


「……な、なんのことかわからんが…………ごめんなさい」


 私のブーツに踏み潰されながら。

 エモスターク王が、とりあえず謝罪する。


 とりあえず。

 突然のプロポーズをキッパリと断ったことで、この話はお終い。

 十分物語を楽しんだ私は、幻滅した「エモスターク王」の姿にがっかりしたまま。


 ここを去ろうと、踵を返した。


 ◇ ◇ ◇


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