週末の始末―THE DEFEAT OF THE WEEKEND―
第一話 処刑の始まり
君の心を救うのは君自身だ。
いつか、神を名乗る男から言われた言葉。
それは、人間の姿をした、人間味のある神だった。
田舎から来たのだろうか、言葉の発音が少しだけ違って聞こえた。
俺は、彼に与えられた力で、『ヒーロー』と呼ばれた男に追われる。
俺は、『怪獣』としての残酷極まりないこの試練を乗り越えられるだろうか。
「うぉぉぉぉぉ」
こんな光景を、どれだけ臨んだだろうか。
いつもやられっぱなしだった俺には、初めてだった。
ビルが建ち並ぶ大都会で、俺は追っていた。
怪獣を。
シャツやズボンからはみ出た部分は、真っ黒い鱗のようなものに覆われており、
顔も何というか不細工でグロテスクな、この世のありとあらゆる嫌悪感を寄せて蓄
えたような醜い怪獣。
始末だ。
週末に。
そう、俺は、日曜の九時から十八時の範囲で、つまり週末だけ『ヒーロー』にな
れる。そういう力を、神を名乗る男から与えられたのだ。
「今日も俺がお前を倒す」
「なんでだよ!」
そう、なんでだよ、だ。
目の前の、人語の話せる『怪獣』は、何の罪も犯していないのに。
でも、見るからに人間離れしたような化け物を、世間は無視してくれるはずがな
い。
面白いのだ。俺にはよく分かる。
俺たち、主に『怪獣』にスマホを向けてシャッターを切る若い人間たちも、傍か
ら見ている中高年も、子供も、退屈な日常に刺激を求めているから、見る。
五年前に与えられた力が、時間差でやって来てくれた。
今は顔も思い出せないあの人を、信じた俺は正解だった。
彼にもらった『説明書』によれば、週末だけ変身してしまう期間は一年。それま
で遊べる、ということだ。
「さあ、覚悟しろ」
俺に追い詰められた怪獣(こいつ)も、きっと同じく、日曜日の九時から十八時だけ
この体質になる。
そして、俺と同じく、この九時間が終わると同時に、神を名乗る男から力を授か
った場所に戻される。
ただ、これを使えば、この怪獣を一瞬にしてどこかへ葬り去ることが出来る。
こいつがどこへ飛ばされようが、俺の力は定刻通り十八時まで続く。これで俺
は、『復讐』だってできる。
今のこの状況は、ゲームだ。
標的を探して速やかに狩るか、標的を探して思う存分に痛めつけて狩るか。
そして、これは処刑だ。
戦闘能力は、俺の方が、あんなノロマよりも圧倒的に上だ。決して、勝負とは言
えない。
「くらえっ!」
「いだぁっ!」
顔面に正拳突き。
ヒーローになると反射神経と瞬間的な素早さが、常人を超える。
対して怪獣は、少し硬くなっている。
他人に顔を殴られることはあっても、殴ることなんて無かった俺は、身体のどこか
から来る震えのようなものを感じた。
それは、高揚感。
「これで終わりだ」
嬉しさが抑えきれず、口角が必要以上に上がりそうになるのを抑える。あくまで俺
は『ヒーロー』なんだ。こんな陰険なところを見られてしまっては世間にがっかり
されるだろう。
俺は、懐から光線銃を取り出す。
あの人からもらった、黒い銃。
俺好みの色に赤く塗装した。中学時代、プラモデルが趣味だと言ったら気持ち悪い
と女子たちから言われ、頼まれたから貸してやった塗装までして大事にしてたプラモ
デルをクラスの馬鹿な男子に破壊されたときは辛かった。
それ以来、塗装もプラモデルも作ることすら止めたのに、どうしても、無骨な黒い
銃を俺色にカスタムせざるを得なかった。
その愛銃で、目の前の醜い怪獣を始末する。
「ぎゃぁぁぁぁ!」
怪獣は、光を浴びながら、倒れてどこかへ消えていく。
「何あいつ。まじ弱いんだけど」
「雑魚過ぎて草」
「見た目もキモいし、弱いし、なんの取り柄があるんだよって感じ」
「ホントかわいそう」
心臓に、何かが突き刺さるように胸が痛かった。
しかしすぐに思い直し、早まった鼓動は次第に緩やかになる。
俺じゃない。
「山木に制裁を加えたいやつ集まれ~」
「いいねえ~」
「俺もやったるぜ!」
「ちょっと男子~、山木君がかわいそうでしょ~?」
「おめえらも見てえだろ、こいつのキモいやられ顔。怪獣みてえになるんだぜ」
「山木まじきめぇ~!」
やられているのは、俺じゃない。
そうだ、今やっつけているのは、俺なんだ。
また、勝った。
あと十一ヵ月。俺はいい思いができる。
最高だ。
誰かを傷つけるって。
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