告白リトライアル!
仲咲香里
アプローチ1『お前、今日から俺の彼女な』vs 後輩男子【参謀会議編】
クラスでも、ぼっちで地味で目立たない私。
ある朝突然、そんな私のファーストキスを奪ったのは、学校一のイケメンだった。
『えっ、あの⁉︎』
言葉を失う私に、
『お前、今日から俺の彼女な』
彼が極上の笑顔を放つ。
***
「嘘だろ、イケメンDK⁉︎ 告白、デート、手繋ぎ、ハグからのレモン味が常識なのに……っ! ぐあっ、これ以上、怖くて読めねぇっ」
「
危うくスマホを放り投げそうになった俺、
「だって、これが王道ってさあっ! ほぼ初対面で、いきなりちゅーして付き合うとかあり得ねーだろっ。恋のステップに倒置法は必要ねぇ。だよな、伊吹ぃ?」
「知らないよ。少女マンガなんて所詮、女子の妄想至上主義で成り立ってるんだから。大和くんの持論とかどうでもいいよね? しかも、裏声で音読って。かなりキモイ」
う……。
伊吹とは、今年で付き合いも丸五年。これが伊吹の通常運転だから、この程度の毒なら耐性はできてる。
「一人でコッソリ熟読よりマシだろ? 俺はただ、な、
そう。このマンガは俺の好きな人、同じクラスの
つまり中川さんは、こういう刺激的な恋がしたいって思ってるわけで。知り合って三ヶ月、未だ俺が片想いのままのは、このせいだったんだ!
「だからモテる割に非リアだって、何で気付かないかなー」
信号待ちの街路樹の下、喧騒に紛れて、伊吹がボソリと呟いた気がした。
「伊吹、何か言った?」
「えー、大和くんてピュアで尊いなあって」
「それ、絶対違うだろ」
全開の作り笑顔で俺を見上げる伊吹に、初夏の木漏れ日が注ぐ。その頰を蒼い風が撫でると、葉の騒めきの合間「天使だ」「控えめに言って女神!」の囁きが上がるのは日々のこと。
でも、伊吹は男だ。
例え俺より十センチ低くて、大きな薄茶の瞳に艶のある小さめの口、白雪肌と変声期を忘れたような高めボイスの持ち主だとしても、伊吹はれっきとした高一男子だ。
「信号変わったし、行くよ、大和くん」
晴れの日の横断歩道。細い肩で、俺を置いて堂々と歩く後ろ姿は、雨の公園で一人泣いていた過去を霞ませる。
俺が中一、伊吹が小六だったあの日。縁と言えば、中学校区が同じだっただけの俺たちの偶然の出会いが、少しでも今日の伊吹に繋がってるんだとしたら。
俺の内にも、眩しい陽が差す。
「待てよぉ。兄ちゃん、寂しいじゃーん」
「兄ちゃんとか呼んだこと無いし。うぜぇぇ」
その見た目から、散々嫌な目に遭って来たらしい伊吹は当時、居場所を失くしてた。今でも全部を話そうとはしないし、俺も敢えて聞く気は無い。
伊吹の中学卒業までの三年半。伊吹の家まで片道三十分の距離を、ほぼ毎日行ってたことを思い出す。
それが今は、中間地点のこの交差点で待ち合わせて、高校に行けるようになったんだ。
「何、ニヤニヤして。今日の大和くん、ホント、キモイ。それ以上、近寄らないで」
「べっつにーぃ?」
「あっそ。それよりさー、大和くん。先週で中川先輩にフラれたの、何回目だっけ」
「はうっ? ……三回目、だけど。でもまだ告ってねーしっ」
「はは、ダサ過ぎてウケる」
「おい、さすがにそれは傷付くわ。謝れよ」
冗談ぽく怒って見せる俺に、今はマスク無しで隣を歩くようになった伊吹が立ち止まった。
「やだ。ありのままでいいって言ってくれたのは、大和くんだよ」
対して真剣に睨んでくる伊吹の、窺うような顔。捨てられた子猫のような目。ふとした瞬間の、消せない過去。
毒舌は、伊吹にとっての自己防衛手段だってことを、俺は知ってる。だから必ず、受け止めて来た。
ポンと伊吹の頭に触れて言う。
「本当は心配してくれてるんだろ? ありのままの伊吹は、友だち思いの優しいやつだもんな。そこは俺、自信持って言える」
「……そういうの、面と向かって言えちゃう大和くん、ホントやだ」
「お、照れる伊吹、貴重ー」
「うるっさいな。手、離してよっ。そ、それでまさか、さっきのマンガのシーン、実践する気なの?」
「ああ。中川さんが求めてるなら、今日の放課後、俺はやる!」
「バカなの?」
「言った側からバカって! そりゃキスは無理だけどさ。夏休みまであと少しだし。ここは親友として快く応援してくれよっ」
「そもそも大和くん、自分が学校一のイケメンだとでも思ってるの? 鏡、見なよ」
「おっ前なぁ、いくら付き合い長いからって、それはディスり過……」
「大和くんは日本一のイケメンなんだから、もっと控えめなアプローチで十分だよ。『俺の彼女な』って、イケボ過ぎ。それで何万人オとす気なの?」
「いや、一人もまだですが……」
伊吹は、たまにデレる。
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