走れ! 聖王学園サッカー部!

徳田マシミ

第1話

 ゴールネットに、無情にもボールが突き刺さった。


 残り少ない時間帯での、決定的な失点だった。


 揺れるゴールネット。意気消沈のピッチ。


 キャプテンの神北は、膝から崩れ落ちそうになるのを必死に堪えていた。


 副キャプテンの豊島が、手を叩いて下を向く選手たちを懸命に鼓舞していた。


「……まだだ! まだ、終わらねえ! 俺たちの冬は、まだ終わらねえぞ!」


――だが、その声に反して、無情にも時間は過ぎていく。

 

 疲労した足が前進を叶えず、無闇に蹴られたボールがサイドラインを越え、ピッチの外へと転がっていった。


 その瞬間、審判が両手を上げ、高くホイッスルが吹かれる。試合の終了が告げられた。


 最後にボールを蹴ったディフェンダーの土門は天を仰ぎ、大きく息を吐いた。


 電光掲示板に表示されたスコアが、青春の終幕をこれ以上なく伝えていた。


 全国高等学校サッカー選手権大会、地区予選。


 聖王学園サッカー部の戦いが、幕を閉じた。


 ■


 試合後のロッカールームには、聖王学園サッカー部全員の姿があった。


 全員が設けられた椅子に座り、無言のうちに敗戦を味わっていた。


 静けさのなかで、副キャプテンの豊島が言う。


「……オレたち、もっとやれたのかな……! もっと、頑張れたのかな……!」


 坊主頭を掻きながら悔しがる姿に、ほとんどの選手が悲痛な表情を浮かべていた。


 その豊島の後悔に答えたのは、同じく副キャプテンの土門だった。豊島の横で、ひどくうな垂れながら声を漏らす。


「……ああ、やれたかもしれねえ、頑張れたかもしれねえ……くそっ、俺があのとき、しっかりクリアできていれば……!」


 土門は最後にボールに触れた選手だった。そのことを嘆き、自身のミスを悔いている様子だった。


 副キャプテン二人が消沈し、自省の念を繰り返す。


 悲愴な光景に周囲の選手たちも自身の不甲斐ないプレーを回顧し、後悔に浸っているようだった。


 ロッカールームには時おり嗚咽さえ聞こえ、床にうずくまる部員を別の部員が慰めている。


 三年生最後の大会があっけなく終わった。その事実に、聖王学園サッカー部の面々はそれぞれに思いを吐き出していた。


――その時。

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