小暮式聖戦

エリー.ファー

小暮式聖戦

 魔王様が代替わりされてから、もう二年か。

 最初は、驚いたよな。

 そう、そうそうそうなんだよ。

 人間だったしな。

 側近のクレデア様がそのまま魔王になるのだとばかり思っていたからな。

 それに。

 次の魔王様、いや、今の魔王様か。

 この城にずっといたわけではなくて、魔王になるということで初めて城に入って、しかも魔界にも来たことがないという言うじゃないか。

 いやあ。

 不安だったな。

 部下として。

 自分の抱えている部隊の人間にどう説明すればいいのか正直迷ってしまった。人間だし、おそらくは素人だし。

 そしたら。

 人間界の田関商館という所の課長をやっていた、とか。

 あ。そうだ、すまないすまない。

 部長か、部長だな。

 名前は確か、小暮誠一郎で、こちらにに出向になったとかで、そのまま魔王と。

 数十年前だったらあり得ないことだからな、絶対にあってはならないだろう。ただでさえ、城のモンスターたちは血の気の多いものが多い。それを束ねるのは同じように戦闘に参加できるものに限るというのが普通だったからな。

 指示をだして、それがどのようなものかを説明できなければ意味がない。小暮さんは人間の中でも勇者の血族であるとか魔法使いの血族という訳でもなからな。魔法は使えないし、別に物理攻撃力がある訳でもない。

 最初は、どうするのかと思ったものだ。

 小暮さんも、魔王と呼んでも構わないけれど、できれば小暮さんと呼んで欲しいとおっしゃるし。人前に立つ者としての能力を備えているとは全く思えなかった。

 断りきれずに、しょうがなくということもあるだろう。

 そういうことだと思っていた。

 だが、小暮さんは、いや、魔王様は。

 中々骨のある男だ。

 最初のうちこそ戸惑ってはいたが、戦い方がターン制であることと、経験値の概念を直ぐにマスターしてからは、どうすれば戦えるまでのレベルにまで効率的に上げるかを直ぐに編み出した。しかも、それを部下のモンスターたちにもやらせて、気が付けば我が軍は平均レベル八十。魔法を使えないモンスターなど一体もいない、創立以来最強の軍となった。

 全く、想像していなかった。

 小暮さんのあの薄い頭を見る限り、信用するべきか迷っていたというのにな。今や、遠くから小暮さんの頭の光が見えた瞬間には歓声が上がるまでになった。

 昔は、みなさんこんにちは、というような弱々しい喋り方であったのに。

 今では、我が同胞たちよ、というような魔王らしい喋り方にまでなった。

 小暮さんに憧れる者も多いと聞く。本当に、数百年、数千年と安泰だろう。

 小暮さんには伴侶を持ってもらって、幸せになってもらわんと困る。我々にできることはそれくらいだろう。

 そうだ。

 確か、人間界から勇者が来るとか言っていたな。

 迎えうつための準備はある程度進めておく必要があるから、備蓄の確認をするように、と。

 こんなことをしている場合ではないな、まだ先のことだとは思うが、戦いと名の付くものに油断は大敵だ。

 直ぐに倉庫の鍵を持ってきてくれ、中を見に行く。取り出す際の方法を統一しないと、在庫の管理もままならない。

 これも、小暮さんに手順の明確化を進めておくようにと言われていたのだが、な。

 さて。

 忙しくなるぞ。

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