ショートホラー「片目」

棗りかこ

ショートホラー「片目」(1話完結)


淳也は、ふとした事故で片目になった…。

その日から、不思議なものが、見え出すようになった。

飛行機の墜落…。

電車の事故…。

何故か、悲惨な惨事ばかりが、予知夢のように、目にフラッシュのように、浮かんでくる。

うああああ。

淳也には堪えがたいような、痛みも走った。


淳也くん、大丈夫?

友人の加奈が、覗きこんでいた。

顔色悪いよ。

それに、なんだか、汗もかいてるし。


見たんだよ。

淳也は言った。

また、見た。


加奈は、スマホの電源を入れた。


何にも言ってないよ。


加奈の怪訝そうな声が響く。

だが、体の節々が、猛烈に痛んだ。

幻ではない。

その確信が、ひしひしと押し寄せる。


体が痛いんだ。

見ると、青あざが、体中に出来ている。


何これ?

加奈は、気味悪そうに、後ずさった。


さっきまで、無かったよ…こんなの。


だから、見たんだよ。


加奈は、淳也に、病院へ行こうと言った。


TAXI…。


加奈は、手を上げて、タクシーを呼んでいる。

待って!

淳也は、その手を、無理やり下ろした。

タクシーは、止まったのに…。

加奈は、タクシーに謝った。


うあああああああ。


加奈の後で、淳也の声が響いた。

どうしたの、淳也くん?


淳也は、地べたを転がりながら、七転八倒している。


救急車!

加奈は、スマホをいじって、救急車を呼んだ。


東京中央病院まで、よろしくお願いします。

なんか、突然苦しみ出して…。


救急隊員は、頷くと、

加奈を残して、後部のドアを閉めた。


大丈夫かなあ?

淳也くん…。


加奈は、淳也のことを想いながら、

スマホに電源を入れた。


LINEで、友達の、メッセージが入っている。


淳也、死んだよ。テレビ見て。


加奈が、驚いて、テレビのスイッチを入れた時、

アナウンサーが、

沈痛な面持ちで、原稿を読み上げているところだった。


今日、昼過ぎ、

救急車の正面衝突事故で、男性が亡くなりました。


救急車の事故の映像が、大写しになる。


乗っていたのは、

井上淳也さん、二十歳。

病院まで、救急搬送の途中でした。


加奈が驚いている間に、

ニュースは次の話題になった。


今日は、京浜線の事故から、3年です…。

遺族は、事故現場で、慰霊祭を行いました。


加奈には、

そのニュースは、聞こえていなかった。


淳也の、片目の顔だけが、

心の中に、浮かんでいた。


片目…。



―完―

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ショートホラー「片目」 棗りかこ @natumerikako

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