異世界で迎える最初の朝
壁板の隙間から、うっすらと朝日が差し込んでくる。
俺は異世界での最初の朝を迎えた。毛皮の寝具に包まれて、隣では裸のヒトミが寝息を立てている。もちろん俺もすっぽんぽんだ。服なんて着ていなくても、二人分の人肌で暖められた毛皮の中はぬくぬくだし、寝起きの気分も最高だった。
昨夜は結局、睾丸がカラになるほどぶっ続けでやりまくり、お互いに精も根も尽き果てて、ぐったりと眠りについたのだった。ああ、めちゃくちゃ腰が痛え……。
この世界にやってきてよかった。あのトンネルをくぐるとき、どこかに行きたいと願ってよかった――心からそう思った。死ぬほど美人とヤリまくって、同じ布団で迎える朝がこれほどまでに快いものだとは。
そして、これからずっとこの生活が続くのだ。何がどうなって異世界に来てしまったのかは未だにさっぱりわからないが、そんな細かいこたあどうでもいいじゃねえか。神様が俺の日頃の行いをちゃあんと見てくだすってたってことでよ。
それにしても、地位と権力ってのはいいもんだね。昨日の夕方俺を見捨てた女が、その日の晩には大人しく股を開くようになったんだから。
もしもこの集落の救世主である俺の機嫌を損ねてしまったら、ヒトミはこの妙な世界に一人で放り出されてしまう。それが体で解決できるなら安いもんだ、と考えたのだろう。まったくもって賢明な判断だ。
それに、女ってやつは基本的に、とにかく一回突っ込んでしまえばこっちの言うことを聞きやすくなる生き物だ。まあ、海千山千のこの女がそんなに素直に従うとは思っちゃいないが、それでも今後は多少扱いやすくなるだろう。
俺はヒトミの寝顔を眺めながら、やっぱり女は顔と体だよなあ、としみじみ思った。寝る前にメイクを落としたから、さすがにフルメイク状態よりは劣化していたが、それでもかなりの美人の部類に入る。
え? 人間は顔じゃないって?
じゃあさ、お前はブラック企業でこき使われて自殺した女の子がひどいブスだったとしても、世間が同じように悲しんだと思うか?
あるいは、例えば俺が長時間労働の末、勤務中にタクシーで事故って死んでしまったとしよう。それでもあの子みたいにニュースで大々的に取り上げて悲しんでくれるのか?
違うよなあ。うんうん、わかってるんだよ。俺なんかが死んでも誰も悲しまないことぐらいさ。最近では外国人労働者すらなかなか寄り付かなくなった美しい国・日本では、年間千人前後の人間が過労死していると言われているが、そのほとんどはニュースにならないばかりか、何やかんやと理由をつけて、過労死と認定されないケースすらある。人間なんて使い捨て。ディスポーザブル・ヒューマンだ。
件の女の子が死んで悲しんでるふりしてるやつだってさ、男の大半は『あんなかわいい子がどうせ死ぬんだったらその前に一発やっときたかった』とかそういう理由で、勿体ないことしたなあと思ってるだけなんだぜ。そりゃ口ではいくらでも綺麗事を言うだろうけどさ、突き詰めれば結局そこに行きつく。それが現実。
ヒトミの寝顔を見てたらなんかまたムラムラしてきて、起こしてもう一戦交えるか? ……と考え始めていた頃、幸福な朝は突然終わりを告げた。俺たちの小屋の扉が、外からドンドンと打ち鳴らされたのだ。
「
あ~、ったく何だよもう、朝っぱらからうるせえな。狸寝入りでやり過ごすか……。
「救世主さま、敵襲です! 物見の報告によれば、数千のゴーマ兵がこちらへ向かっているとのこと!」
「え! は!? 敵襲???」
敵襲。耳慣れない言葉に思わず声が裏返り、ヒトミも驚いて目を覚ます。
「この集落は速やかに撤収し、森に身を潜めながらゴーマの追手から逃れ、どこか他に移住先を探すとのことでございます! 我が軍は、民たちが安全に脱出できるように時間稼ぎを……」
おいおいおいおい、いきなり敵襲とか聞いてないんですけど?
俺とヒトミは大慌てで身支度を整え、外に出た。
集落は既に大騒ぎになっていた。荷車に荷物を積み込む者、武器を取って駆け出していく者。中央で全体の指揮を執っているのは、あのエリウという女剣士だった。革の防具を身に付け、昨日初めて遭遇したときと同じ出で立ちだ。
しかし、昨日と違って、今日は腰に二本の剣を提げていた。昨日俺の首にあてられた幅広の剣の他に、もう一本、柄の部分にいくつか宝石が埋め込まれた豪華な長剣を携えている。
「戦える者は武器をとって西に集合! そうでない者はドルイドと共に森に逃げよ! 森を抜けたところで集合し、再起を図るのだ!」
あのでかい荷車を引いて森を抜けるのか……そりゃあ大変だ、と思いながら眺めていると、俺達の姿を認めたエリウがこちらに駆け寄ってきて、
「巫女さまも、国王と共に急いで森へ逃げられよ。救世主さまは、私と一緒に来てください」
そう言いながら、俺の腕を掴んでぐいぐいと引っ張った。
「おいおい! なんだ突然! 聞いてねえぞ!」
「救世主さまはチャリオットに乗って頂きます」
「チャリオット? なんだそれ?」
「馬車です」
「うん? 馬車に乗って逃げろってことか?」
すると、エリウはこちらを振り返り、まるで汚物を見るような、某人気女性声優がプライベートで突然話しかけてきた自分のファンを見たときのような目で俺を見て、
「……とにかく、こちらへ!」
とだけ言った。
やっぱり救世主ともなると逃げるにも馬車を使うのか! 救世主生活最高だな!
いや、待てよ、タクシーがあるじゃないか。逃げるんだったら絶対タクシーの方がいい。森の中を走ることはできないが、スピードならタクシーの方が圧倒的に優れているのだ。森を避けてタクシーを走らせればこの程度の文明レベルの軍隊に追いつかれることはないだろうし、何だったら、そのままこいつらを見捨てて逃げてしまってもいい。
しかし、いずれにしても今度こそヒトミを回収してから逃げなければならないし、馬車といったら、我々タクシードライバーから見れば偉大なる先達である。せっかくの機会だから、ちょっとだけ乗ってみたくなった。
まあそんなわけで、俺はエリウに手を引かれるまま、そのチャリオットとやらのある場所へ向かったのだった。
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