第28話 猛禽と龍と包丁

「そこのフラー君とは懇意でね」

正確無比の一撃を放った張本人、ジェム・エイムは平然とそういった。

「せ、先生この人と知り合いなんですか・・・・?」

「ああ。・・・これ、話していいのかな・・・」

「・・・できれば、どこか個室で話したいけど」

「あ!それなら少し待っててください!」



「あ、ナギさん!今山頂っていけます?」

『キバくんか~!山頂なら今、ツルギが陥没させたけどいけるよ~』

「師匠何をやらかしたんですか・・・!?」

『熱魔法が暴発しちゃってね~。地面が少し蒸発した』

「・・・規格外だなあの人も」

『ま~「部屋」作れるからいいよ~』

「すんません、お願いします」


「ちょっと移動しますよー」

「おう」

「案内よろしくね、キバくん」

「は、はぁ・・・?」

警戒が解けないキバ。空を駆ける訳にもいかないのでそのまま走ることに。

「二時間くらいかかりますよ」

「ま、いいだろそんぐらい」

「別に走れるしねー」


「ナギさん、お待たせ」

「いやいいよ、遠いもん」

「すいません・・・じゃあ、お願いします」

「あーうん、てか今ここも陥没地帯の一端なんだよね」

「え・・・」

「ほら、所々湯気が」

「・・・うそーん」

「嘘言ったことないでしょ」

「つまり・・・?」

「はっきり言うとここも崩落するかもね」

「誰か今すぐ直してくれぇぇぇぇぇ!!!」

「大丈夫、私の空間維持能力の精度、舐めてるでしょー」

「空間維持能力、確かに強力ですけどねぇ・・・」

「まあ任せなさい、空中浮遊でもすればいいのよ」

「それが出来れば苦労しないんですよ」

「ま、いいじゃない。〔ここに部屋を作る〕、<空間生成メイクスペース防音ノイズシャット>」

ナギの膨大な魔力によって生み出された空間、その部屋の中は防音、衝撃吸収などといった嬉しい能力がてんこ盛りなのだ。

「じゃあ部屋入ってね」

「了解です、維持お願いしますよ」

「任せなさい」


部屋に入った三人、ここなら話せる。

「じゃあ改めて。僕はジェム・エイム。帝国軍秘匿部隊<諜報せし猛禽インテリジェンス・エージェンツ>のリーダーをしている」

「・・・ひ、秘匿部隊!?」

「ああ、俺は昔軍隊に入ってたから知ってたが」

「まあ同期だし。ところでキバ君、その呪いちからにはいつから気づいていた?」

「えーと、確か学校に剣を奪いに来た奴と戦ったときくらいです。その後ここに住む師匠と特訓して、強くなりました」

「ふーん・・・君が今どういう状況におかれているか、少し説明しよう」

「・・・どうなんですか」

「君は今、<時と傾国の輩オールデリーターズ>に襲撃され、さらには僕達の同僚である秘匿組織、<呪いを狩りし番人カースハント・ガーダー>も君の討伐に全力を注ごうとしている」

「え・・・」

「そこで僕達<諜報せし猛禽インテリジェンス・エージェンツ>とスレイン率いる<帝国魔道士・剣士部隊エンパイア・オーダー>は君の保護に徹することを決めた」

「・・・な、なんで」

「驚くのも無理はない。しかしキバ君、ここで一つ了承をとりたいんだ」

「・・・何ですか」

「僕の部隊は諜報や尾行、隠密行動を主とした部隊。そこで君に必ず僕の部下、もしくは私がついて行動することを了承してほしい」

「・・・え」

「もちろん、嫌なら断ってくれ。プライバシーの保護なんてそっちのけの作戦だ、断られても当然だ。それでもいいなら」

「それで、俺の友人は守れますか」

「・・・は?」

「俺は、絶対に友人をこんな事件に巻き込みたくない。でも俺が狙われるのなら、クラスメイトや友達は巻き込まれる可能性がある。それを防げるんですか?」

「・・・無論、可能だ」

「じゃあお願いします」

「任せなさい、僕達の戦闘能力を舐めたらいけないよ」

了承を得たことで、雰囲気は次第に弛緩していった。最近の愚痴や昔話、大人は酒が入ってすこしテンションがおかしくなっていた。

「そういえば、ジェムさんの【武器】ってなんですか?」

「僕は魔術師だよ。属性は――――だよ」

「そういやこいつ、それで自己肯定感が低かったんだよ」

「・・これ、概念系魔術ですよね」

「まあそうだね、この属性は無意識下でもかなり効くから私生活にも影響がでかねないんだ」

曰く、概念系の魔術というのは基本の四属性である炎、水、風、雷の四つを合わせて、さらにそれを派生させたものなんだそうだ。そこに精神魔術や基本から派生した属性を合わせることで独自の概念系になる。

故に概念系の魔術師は基本の四属性を極めれるのだ。

「でもこの属性戦闘だと凄い使い勝手悪いから、僕は基本こういった銃を使ってる」

取り出したのは片手に収まる程度の銃。リボルバー式ではない銃だ。

「この銃、こうやって銃身の上のあたりを引くと弾丸を装填できる。そして装填後にできたこの穴に・・・」

そう言って懐から片手杖スタッフを取り出す。

「この穴に差し込む!そうすると、弾丸に魔力を纏わせたり魔力を弾丸にして発射できるんだ!」

この片手杖スタッフには四属の魔力が込められていて、十発分程度の魔力が込められているそうだ。

「いざとなれば秘密兵器もあるし、君を絶対に守り抜くよ!」

「期待してます」

こうして夜は更けていった。


翌朝、寝不足と二日酔いでボロボロ、寝癖や体臭が最悪の状態で出席したフラーは、生徒達から恐ろしいほどの不評を買ったのだった。



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