第12話 英雄と平凡

ギルシュ帝国神話。かつてこの地であったという神々の戦争について書かれている。

しかし、神々の中に異常な二人がいた。それが英雄と悪鬼である。

英雄は闇の剣を、悪鬼は光の魔道書を手に入れた。

戦争は悪鬼によって引き起こされ、無実の罪を非難し、傷つけ合い、殺し合った。

それに気づいた英雄は剣と魔法を駆使し、悪鬼の討伐に成功、戦争は収束した。


はずだった。

悪鬼は不死身だった。復活した悪鬼は街を襲い、野は焦げ、海は干上がり、地は光に包まれ、民も僅かになってしまった。

そして英雄は諦めてしまった。こんな相手にどうやって戦えばいいんだ。あの時ちゃんと倒しておけば、自分がもっとしっかりしておけば、後悔は募るばかり。

だが、英雄は立ち上がった。今一度、決着をつけると誓った。

英雄は持てる全ての力と、得た翼で悪鬼の封印に成功、しかしその場で力尽きた。




「嘘だろ・・・!?俺の剣が、英雄の剣!?」

「うん。闇の剣、魔法と剣の両方が使えるという条件はぴったり当てはまってるしね」

「しかも、俺の呪いが、再生!?・・・こんな非凡だったっけ・・・?」

「うーん、平凡なのは君の才能かも・・・でも、再生だけじゃないよ、君の呪い」

「は・・・!?」

「君、最近<多重魔法マルチマジック>を無詠唱で使えるようになったでしょ」

「はい、まあ第二段階ですけど・・・」

「多分それで寿命削ってるよ」

「えぇ!?嘘!?」

「嘘ついてどうすんの・・・大体、あんな高等技どうやってリスク無しでやんのさ。大体そういった技には代償があって、それが難しければ難しい程代償は大きくなってくの。お前の場合は多分寿命。きっと80才くらいで死ぬよ」

「おいおい・・・あんま使えねえじゃん・・・」

現在の平均死亡年齢は120才くらい。約四分の三だ。

「寿命、平凡じゃねえのな・・・」

「まぁね・・・でも、君はもうそれ使いこなしてるから、まずは基礎の体力だったり、剣術の形だったりを覚えないと・・・」

「基本は全て押さえましたよ。非凡になりたくてずっと練習してましたから」

「・・・え?」

「じゃあまずは両手剣術、一の型」

剣を両手で握り、上へ振り上げる。大きく息を吐き、右足を踏み込み、まっすぐ振りおろす。その時両足を踏ん張り、体の軸をぶれさせない。そして振りおろした剣は、自分の膝のあたりで停止。一の型、完璧な成功。

「わ、完璧・・・・!?」

「すごい、こんなの、見たこと無いよ・・・」

「感覚でわかる、こいつ強者だ・・・」

ナギとカインも驚く程の一撃。カインはアイマスクをつけているので感覚だけだが。

「こ、ここまでとは・・・」

ツルギ、驚愕。

「じゃ、じゃあ持久走とか、何周!?」

「皆でやればど真ん中ですけど、一人だったら30キロは余裕かと」

「うん基礎体力たっぷりだし!予定早めるわ!」

かなり焦ったような、投げやり感も感じられる発言、いやむしろ叫び。

「今から少しだけ山降りて、今夜の晩飯おかずもっておいで。魚でも、獣肉でも、何でもいい。毒だけはやめてね」

「おう!」




「とは言っても、何が毒で何が旨いのか知らねえんだよ・・・」

山の中腹、少し頂上寄りの地点。先ほど近くの池にいた化物ウナギを狩った後、切り分けて鞄に詰めた。この鞄は、ナギが有り余る魔力を注いで作った空間ねじ曲げ鞄だ。旅行などに便利。

「・・・むむ!なんか近くに気配あり!」

北東方向、気配あり。

「お!しかも罠魔法トラップマジックに引っかかったっぽ・・・え、壊された!?」

刃が大量についた挟む系トラップ。普通の魔物なら痛みから動けない筈だが。

「ありえねえ・・・あれを壊すなんて」

トラップの地点に居たのは、一言で表せた。


異形。


白い仮面に、等間隔に並んだ穴からは得体の知れない液体が零れている。体は真っ黒、手足には鋭い爪が並び、口からは灰色の吐息。

『異形って認識できる魔獣が出たら、逃げなさい』

ナギから注意されていた。

(まずい!まずいまずいまずい!)

逃げようとしても、足がすくんで動けない。

異形はその爪をキバに向け、突進。

「〔黒き盾、我を護れ〕!<闇夜の盾>!」

手は突き出さず、口だけでの発動。爪を防げず砕け散ったものの、威力の減殺と回避時間の余裕が出た。少し右に顔を逸らし、頬に三本の切り傷。すぐに傷は消えたが、異形の戦意は消えない。

「くっそ、やるしかないか・・・」

逃げ切れそうにはない。ならば倒すまで。

摂理セオリーは使えない・・・なら、剣術と、黒魔術・・・」

考える間も異形は襲い来る。

「く・・・<片手剣術・七の型>!」

捻りを加えた突き。異形の肩をかすめ、致命傷には至らない。

一瞬の隙。その瞬間に異形は間合いを詰め、胸を爪で切り裂く。

「ぐぅ・・・ああ、危ねえ呪いが無ければ死んでたわ!」

自呪で癒やし、再び立ち上がる。

「もう怒った、絶対倒す。〔止まれ〕、<呪縛術・罪茨ざいし>」

逃げようとすればするほど痛みが増す呪縛。たとえ異形といえどこの痛みには抗えまい。食い込むから壊すのにも一苦労。

「〔薙げ、一条の黒風〕。<風横ふうおう>」

一撃で首を刎ねる。後に残ったのは、黒い肉と、仮面。

「なんだこれ・・・?持っとくか」




「ただいま~!」

「おかえり。今日の戦績は・・・お、ウナギじゃん!あと、・・・これ、異形?」

「はい。襲われたので、返り討ちにしました」

神速の平手打ち。

「バカ!戦うなって言っただろ!・・・あいつは、俺達の呪いの塊なんだぞ・・・」

「・・・え!?」



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