第8話

「おい轟、今回の件、牧原まきはらは絡んでるのか?」

「絡んではいませんが、綾乃が連絡すればすぐに調べてくれるでしょう。なんせ康介こうすけは昔っからのゲテモノ好きですから」


 牧原さんは先生の数少ないもう一人の友人で、職業は警察官。いわゆるキャリア組でエリートコースをまっしぐらな人です。今は警視正だとか。

 どこに惚れたのか先生にぞっこんです。この性格を知っていてもなお惚れ続けているのは牧原さんだけじゃないでしょうか。顔もいいし性格も真面目だし先生にはもったいない人で……痛い!! いきなり頬をつねるのは止めてください!!


「私が電話をかけても無駄ですからね? 私が綾乃の事務所に入り浸ってるのを知っていて、ひがんでいるのですから。男の嫉妬は気持ち悪いですねぇ」

「……しょうがない。気が乗らないがかけてやるか。さすがにあいつも勤務中に求愛行動などしないだろう」


「ああ。牧原か? 私だ」

『綾乃さん!!? ど、どうしたんですか!?  まさか、とうとう私の愛に答えてくれる気になりましたか!!?』


 電話越しなのにここまで牧原さんの声が聞こえます。相変わらずと言いますか。先生の前以外では本当に素敵な男性なんですが。男の僕から見てもそう思うんですから相当ですよね。


「うるさい。黙れ。音量下げんと切るぞ。……そうだ。そうしろ。……違う。そうじゃない。誰がお前の愛を受けると言った。やっぱり黙れ。話が進まん」


 牧原さんが先生の言うことに逆らったところ見たことないですからね。先生に言われて声のトーンを普通にしたようです。


「そうだ。指紋だ。違う。そこじゃない。ああ。スイッチだ……ある? そうか。よくやった……何? お礼の食事? 美味いものが食えるならいいぞ」

『ほ、本当ですか!!? では! 早速にって……』ピッ


「うるさくしたら切ると言ったろうに。全くあんな鳥頭に日本の治安を任せて大丈夫か?」

「康介から必要な情報も得られたみたいですね。そろそろ真相を教えてください」


 轟さんナイスです! 僕も知りたいです。真相!


「よし。答えを言う前に宗次郎、お前がメモを取り忘れたヒントをやろう。車のガソリンが何故か減ってたことだ。これで分かったろ? 犯人は誰で、どうやって殺したか。動機はもちろんアレだ」


 ぐぬぬぬ。すごく意地悪な顔をしています。僕は必死でメモを見返して、これまで書き留めたことと、今先生が仰ったことを考えながら犯人を絞りますが……ダメです!さっぱり分かりません。


「すいません。先生、分からないです。事故じゃなくて殺人なのは間違いないんですね?」

「なんだ。まだそのレベルの質問しかできないのか。本当にお前は家柄と学校の成績と金とマメさと人の良さと若さ以外は全くだな?」


「綾乃……その年でそれだけあれば他にほとんどいらないのでは?」

「今は推理の時間だろうが。無駄に褒めるな。付け上がる。私は人に厳しいんだ」


 なんだか複雑な気分ですが、これだけは僕にも分かります。先生は人には厳しく、自分には砂糖の蜂蜜がけくらい甘いです。

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