第2話

 わがままを言う先生を無視して轟さんは話を始めました。ここら辺は先生とは長いんだなと感心させられるところです。


「死んだのは毛利もうりさとる、小さな運搬会社の社長です。毛利は多額の死亡保険がうちにかけられたが死因がおかしいのですよ。そこで保険金目当ての殺人事件じゃないかと社内で問題になっていまして」

「じゃあ、払わなきゃ良いだろう。はい。終わりだ。相談料をよこせ」


「死因は低体温症による死、つまり凍死です」

「この夏の季節に凍死だと? 冷凍庫にでも入っていたのか?」


 先生は轟さんの出したお茶菓子が入った容器からお茶菓子をガサッと掴んで自分の前に置きました。いつもダメだと言っているのに、また買いに行かなくてはいけませんね。

 僕は先生の隣でせっせとメモを取ります。先生絶対メモ取らないですから。でも先生にメモの内容を聞かれたこと一度もないんですよね。


「まさに冷凍庫、いえ、冷蔵車の中なのです。毛利の死体が見つかったのは。運送中に中継地点で別の運転手に交代する際、確認として冷蔵車の庫内を2人で見たところ、凍えて死んでしまった毛利が発見されました」

「そいつはなんでそんな中に居たんだ? 暑くて涼みたかったとかか?」


「今のところ毛利がなぜ庫内に居たのかは謎です。ちなみに毛利の血中からは睡眠薬の成分が検出されました。ただしこれは毛利が常飲していたものと一致しています」

「その冷蔵車が出発した時刻は何時だったんですか?」


 思わず僕は気になったことを口に出してしまいました。しかし轟さんは相変わらず笑顔をピクリとも変えず、答えてくれます。


「運転手の証言、会社の記録ではどちらも7月26日の夜11時頃となっています。なので毛利が睡眠薬をその前に飲んでいたとしてもおかしくはありません」

「そいつは何か悩み事でもあったのか?」


「毛利の妻、絵梨花えりかは、ああ、ちなみにこの妻が保険金の受け取り人です。その妻は実は以前から社員の一人と不倫関係にあります。毛利はその事を知っていたようです」

「なるほど。保険金がもらえる他にも夫が死んだら万々歳ってことか。黒だなそいつは」


「ええ。すごくきな臭いのは確かです。しかし残念ながら、死亡推定時刻、つまり冷蔵車が出発し発見された、7月26日の11時から翌27日の朝9時までの間に、妻絵梨花はアリバイがあります。ちなみに不倫相手の男性と旅行に行っていました。しかも海外なので誤魔化しようがありません」

「なるほどな。果てしなく黒に近いが証拠がないってか。久々に面白そうだ。現場を見てやろう。轟、もちろん車で来たんだろうな?」


 轟さんは笑顔でポケットから取り出した車のキーを見せてきました。先生は立ち上がると、まだ食べていない分のお菓子をポケットに入れ、玄関にずんずんと歩きだしました。

 僕も慌ててメモをしまい、学生鞄を取りに行ってあとを追いました。轟さんの車はいつもの様にうちの事務所の一個しかない駐車スペースに置かれていました。

 使用頻度だけ考えると、もうこれ轟さんのために借りてると言っても過言じゃないですよね。僕も先生も運転できないんですから。

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