放課後の事件簿〜この美人探偵は凄腕なのにやる気がない〜

黄舞

第1話

「先生! 起きてください。先生ってば! お客さんですよ!!」

「んぁー。うるさいな宗次郎そうじろう。私は眠いんだ。客なんて待たせておけ……」


 仮眠用のソファで寝ている先生を起こそうと必死に声をかけます。だらしなく着崩した赤のスーツはシワだらけです。あぁ……またアイロンかけなくては。

 長い黒髪が印象的な、きちんとしていたら多くの男性の目を引きそうな顔はヨダレで濡れています。これが彼氏ができてもすぐ別れる原因の一つでしょうか……。


「ダメですってば! 起きてください! ほら、目を開けて!!」

「分かった分かった。そんなに大きな声を出すな。高校生のくせして声変わりしてないのか? キンキンうるさいんだよ」


 はぁ。やっと起きてくれました……でもここで安心する僕じゃないですよ。油断すると二度寝するって分かっているんですから。

 身体を起こした瞬間に冷たい目覚めの水が入ったコップをすかさず渡します。これで目が覚めてくれるといいんですが……。


「ぷはぁっ。相変わらず宗次郎は気が利くな。それで? 飯の話か? もう夕飯か?」

「違いますよ。仕事の依頼です。いつものとどろきさんです」


 先ほど挨拶した笑顔が張り付いた轟さんの顔が思い浮かびます。あの人何を考えているのか分からないので実はちょっと苦手です。

 まぁ、先生ほど分かりやすい人間も珍しいですが。


「帰らせろ。私は寝るからな。飯になったら起こせ」

「ダメですよ。もう中入れちゃいましたから。それに先生そろそろ月末ですからね。僕のバイト代はいいとして……先月の家賃とか光熱費とか僕が立て替えているの忘れてないですよね?」


「ああ? ああ……まぁ、そのなんだ。分かった。話だけなら聞こう」

「そう言ってくれると思っていました。隣の部屋で待っていますので」


 先生と僕は隣で待っている轟さんの所に向かいます。轟さんは勝手に来客用のお茶とお茶菓子を出して食べていました。

 轟さんは保険の審査員で、保険の範囲を決めるのに良く先生に依頼を持ってくるんです。先生とは旧知の仲らしいです。

 折り目正しいスーツをピシッと着こなす轟さんとよれよれシワシワのスーツを着ている先生はすごく対照的です。


「あぁ。今日は随分と起きるのが早いんですね。綾乃あやの。これは宗次郎さんの日々の努力の賜物たまものですかね」

「うっさいぞ。轟。勝手に茶と菓子を飲むな食うな。客用のだ」


「えぇ。だからお手をわずらわさないよう自ら自分でやりましたよ。客ですからね? 私」

「毎回くそみたいな以来ばっか持ってきて何が客だ。そういうなら殺人事件みたいなおっきな事件でも持ってこい」


 そこで轟さんの眉毛がピクリと動いたのを僕は見ました。珍しいことですよ。これは。


「おやおや。さすが綾乃。今回は殺人事件かどうか確認することが依頼内容だとよく分かりましたね」

「なに? 殺人事件だと? そんなもんは警察の仕事だろう。そんなもんうちに持ってくんな!」


 ああ……相変わらず先生は気まぐれでわがままです。

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