貧乏魔術師4
ある程度話しの着地地点が見えた所で此方は暇を頂いた。ついでにフェミアの実力もそれなりと判断したので、雇う前提で工房に連れて来た訳だが……。
お互いに向かい合うようにして鉱石で出来たテーブルに座り、紅茶を飲み先程味わい損ねた茶菓子を楽しむ。思わずヒゲを撫でそうになるが、途中で気づき我慢した所フェミアに不審な目で見られた。
「で、フェミアさん」
「フェミアで良いですよ、貴方の方が立場が上なので」
「結構、フェミアは俺の実力がどの程度か分かるか?」
「………魔力量は私より遥かに格下、でも戦ったら多分負けます。経験の差ですかね」
「そこまで分かっているのなら十分、テイル殿も良い人材を貸してくれた物だ」
紅茶を傾けて軽く口を湿らせる。良い茶葉だ、リアがまた何処かから買い付けてきてくれたのだろう。彼女の献身には頭が下がるばかりであるが、すぐ剣を振りたがるのは悪い癖だ。
「ルベドさん、一つ聞いても?」
「ん、一つと言わず幾らでも」
「貴方、何歳なんですか?」
思ったより直球な質問だ、しかし年齢……まずいな、割と曖昧だ。
「あー……40……ぐらいなのか?俺の得意分野は錬金術における魂への干渉技術でな、魂を別の肉体に何度か移し替えて使っているから体感における年齢感覚がおかしくなっているんだ。作り物の肉体であれどその肉体で記憶を刻んだ精神が肉体側に引っ張られるってのもあって割と曖昧だな」
「魂を移し替え……禁忌ですよ、それ」
教会の教義とかでなんかあったなそういうの。他人の体の乗っ取りを危惧しての物だった筈だが、自分の場合はギリギリセーフだろう。
「他人の体を乗っ取るから禁忌なのであって、自己生成した肉体であれば問題ない。問題点を正確に理解し、解消すれば禁忌ではなく技術だ」
「詭弁にも聞こえますが、本質的にはそうかもしれませんね」
「うむ、理解が早くて助かる。……なんだ、茶菓子に手をつけてないじゃないか、美味しいから食べなさい」
「急に年上感出してきましたね、いえ、頂きますが」
二人揃ってしばらく茶菓子を楽しむ。どうやら彼女も甘味に飢えていたらしく、一度動き出した手は止まらず間食を続けた。
「良い食べっぷりだが、夕食もあるから程々にな」
「っ……す、すみません、つい」
「キモチは分かるさ、俺もよく美味しさのあまり食べ過ぎるからな。だが、魔術師や錬金術師というのは頭を使う。頭を使えばエネルギーを使う為こういった甘味類で脳を癒やすというのは合理的な行動だ」
「な、なるほど!」
「後はまぁ、夕食との兼ね合いだな。菓子で腹を膨らませすぎるのは、健康の面で良くないと研究結果が出ている」
「な、なるほど……」
そう話していると、待機していたリアがコホンと咳払いをして一言。
「何事も適度にという事です」
と、言った。まったくもってその通りである。
「それと、少女にあまり変な事を吹き込まないで下さい」
「変な事って……いや、それを言ったらレイシアもそうだろう」
「レイシアはああ見えて、非常にしっかりとしていますので」
「あー……確かに言動の割にしっかりしてる。フェミアと年も左程変わらんだろうに軍団指揮も見事なもんだった、天性の軍才だけじゃなく努力をしっかり重ねて兵に認められてるってのもあるんだろうな」
自らよりも立場も年も下の彼女を信頼しているレディア、ブルーノ、伯爵の3名はある意味稀有な存在とも言える。戦場において重要度の高い騎兵を任せるとなれば、ある種自らの首を預けているに近いのだ。
「はい、私も日々彼女の背中を見て学んでいます」
「大概の場合、年下に嫉妬するだけで終わる物だがリアも立派だな」
「嫉妬はありますが、努力しているのは皆が認める所ですので。私も負けぬようにと努力するだけです」
「結構、今度5人で騎馬・歩兵・魔術師の運用に関しての講義でもしようか」
「ジーンクラ―――コホン、ジーナ様の講義は気になりますね」
「別に隠さなくてもいいだろ?フェミア、我々にはかの英雄ジーンクラッドがついている。まぁ状況が状況故に肉体は別の物を使っているが、非常に協力的———うおっ!?」
俺の言葉に茶菓子を吹き出すフェミア。思わず魔術障壁で防いだが、何か変な事でも言っただろうか。
「じ、じじじじ……ジーンクラッド様が!?」
「まぁまぁ落ち着け、その通りだ。以前戦場で戦闘になってな、倒して魂引っこ抜いて肉体を別の物に変えているがジーンクラッド本人———二回目か!?」
再び、今度は唾液とか諸々を噴射した。お口が緩いぞこの魔術師。
「と、とんでもない事を……!?」
「落ち着けと言った、現状は双方同意の上だし肉体側は此方で修復済みだから、教会がらみの厄介事が終わったらちゃんと元に戻す予定ではある」
「え、ええ……?ちなみに肉体って……」
「ああ、一応持ち歩いている」
そう言って、スクロールを展開し中よりジーンクラッドの肉体を取り出し地面に置いた。魂の無い物であればスクロールでの運搬は可能だ。魔力情報体化されている為に、肉体側に劣化は訪れないのも便利な所だろう。
「は、裸……」
「結構派手にバラバラになったからな、治すのに継ぎ目とか残ってないか確認した後にそのまま入れた」
「……まぁ、これは」
リアが近づいてぺちぺちと軽く大胸筋を叩いた。かなり胸板が分厚い為にそうしたい気持ちも分かる。そのほかにも鍛え上げられた肉体を押したり曲げたりと、剣士として恵まれた体つきを堪能しているようだ。
一方フェミアは股間を指の間から凝視している。だが気持ちは分かる。ナニがすごく大きいのである、英雄は器だけでなくアレも大きいのだろう。かといって女性の影がある風でもないのが、結構遊んでいるのかどうなのか―――。
「ただい―――ま?」
カランカランと、小刻み良いベルの音と共に扉が開いた。タイミングが悪いな、ジーンクラッドが帰っ―――!?
「あだだだだだ!待て落ち着けジーナ!」
障壁すら間に合わせない、雷の如き動きで頭部を掴まれた。
「貴様は私の体で何をしている!?」
彼の片腕が俺の頭を締め付ける。不味い、このままでは割れて無残に飛び散ってしまう!自らの肉体を属性魔力化して一度霧散し、少し距離を置いて実体化する。やれやれ……マジで死ぬかと思った。
「痛てて、お前の体の修復が終わったから傷跡が無いか確認してもらっていただけだ」
「私に確認すれば良い話だろう!?」
「納品前に検品が必要なのは道理という物だ」
「検品は私がするから良いんだよ!しかも何をトチ狂って女性の前に私の裸を……ああ、マク・ファクに申し訳が立たないぞ……」
そう言って項垂れるジーンクラッド、なんか悪い事したのかもしれない。
「マク・ファクって?」
「故郷の幼馴染だ、騎馬民族の血を引いている。俺が立派になったら結婚しようと約束しているんだ」
「大層立派だと思うが」
股間をみながらそう言ったら、再び雷の如き速度で詰め寄られたが流石に二度目は貰わない。手が障壁に弾かれジーンクラッドが眉をひそめた。
「立場の話だ!」
「いや、理解しているぞ」
「なら何故股間を見た!?」
「いや……なんとなく」
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