一週間経過

 魔剣を伯爵に渡してから一週間が経過した。その間に行った事と言えば、工房の設備を充実させる事と、リアとの交流及び伯爵から依頼されていたエンチャント済みペンダント作成ぐらいだろう。

 尚、俺の求めているような冒険者は居なかった。とはいえ、そちらの優先度は現状滅茶苦茶低めなので後回しで良いだろうと考えている。でも片手間に継続して一応探しておく、何故なら時間がもったいないから。


 後は……偶に鍛冶屋の店主が鉱石の話を聞きに来ていたぐらいか?あの職人肌の男とは妙に気が合うというか、無駄な事をお互い喋りたがらない性格が幸いして良い関係を築けていると思う。

 彼に未知の鉱石の話をすると、非常に興味深く聞いてくれたり鋭い質問も結構飛んだ。軽い講義のような感じになってしまったが、現場の職人と意見交換を行うのも気晴らしにもなるし、新たな発見にも繋がるのでバカにできないのである。


 して、本日は一週間ぶりに伯爵に会いに行く日だ。以前と違いしっかりリアにアポイントを取ってもらい、50のエンチャント済みペンダントを納品する日でもある。別に急かされていないので、しばらく時間がかかっても良いのだが、適度にお伺いして様子見ておくかなぁと。


 あとアレだ、前職は割と定期的に進捗報告しないと、後で「まとめて見る時に時間が掛かりすぎる」と王に小言を言われたのでその時のクセだ。自分も忙しかった為に一週間前に書いた報告書の内容とかあんまり覚えてなくて説明し辛かったのもある。


「そういえば、奥方に挨拶とかしてなかったけど大丈夫なのかな」


「言い忘れておりましたが、伯爵様は現在奥方とは別居中ですよ」


 おっと、いきなり竜の尾を踏んだが大丈夫か?


「聞いて良い奴かそれ」


「奥方が若い男と懇意にしている……というだけの話です」


 やや忌々し気に吐き捨てているあたり、結構根が深い奴なのかもしれない。


「あー……ちなみに伯爵のご子息は?」


「長女がお一人、しかし今は王都の学院に入学して領地を離れておりますね」


「んぁ?奥方が浮気で長男作ったらヤバくね?」


 そう言うと露骨に目を反らすリア。これは不味い奴だな。


「………しかし伯爵様は娘に爵位を継がせるつもりとの事で、既に話を王に通しております」


「やれやれ、政略結婚にしてももう少し……いや、当人たちの問題ではあるがな、俺も此方の貴族に対しての発言権を多少は得た方が良いのか?だが、それだと伯爵に変に思われる可能性もあるな……うーむ、なんらかの方法で協力者を立てるか」


「随分と伯爵様の肩を持たれるのですね」


「当然だ、このルベド・フレストニア、窮地の恩義には大いに報いる。其処に裏切りは無く、同時に自らの思う善を成すつもりだ」


「………家名をお持ちでしたか」


「あれ、詳しく話を聞かされてないのか?外の大陸では一応貴族だったからな、まぁこっちではただのルベドで良いさ」


 ガタゴトと揺れる馬車をけん引するのは俺の馬型ゴーレム2匹であり、馬車の本体には伯爵家の家紋が入っている。流石に襲ってくるような下手人は街中には居ないだろうが、仮に襲われても余程の事が無ければ対応は可能だろう。

 というかアレだ、馬ゴーレム走らせてても伯爵家の家紋あると売ってくれとか、厄介な事を何も言われない事に感動している。恐るべし伯爵パワー。


 そう思っていたが、不意に馬車が停止した。ゴーレムと視界をリンクさせて確認するが、なにやら伯爵家の屋敷の前でもめ事があるようだ。そういう方向の余程は予想してなかったな。


 あれは……何処かの貴族からの使者か?見慣れぬ家紋の馬車が数台と、随分立派な軍馬が見えた。


「リア、門の前で何やら揉めているようだ、何が起きているか確認してもらえるか?」


「はい、しばらくお待ちを」


 そう言って馬車から降りるリア、さてはて……あまり良い事ではない気がするが。しばらくトントンと座席を指で叩きながら呆けていると、リアが戻って来た。


「戻りました、どうやら戦争が起きるようです」


 いきなり大戦になるとは思えない、となると……。


「内乱か?」


「はい、このヴァリア共和国は諸外国からの脅威を弾く為に出来た国なのですが、日和見していたヴァリアに後程参加してきた国々が、自らの改善待遇とヴァリアの力や影響力を削ぐ為に時々戦争モドキを仕掛けてきます」


「まったく、馬鹿ばかりだな」


「はい、まったくもって。しかし、私に連絡が来ていないとなると相当な緊急事態のようですね」


「此方に気を遣って情報が流れてこなかった可能性もあるがな。それで、そのバカの処理に伯爵を出すのか?」


「はい、少々規模が大きいらしく、寄子であるブルーノ男爵家との連合になるかと」


「伯爵家に即座に動かせる将は」


「ジーノ軍団長や、騎士レイシア殿がおられます。軍団長は補佐として、騎士レイシアは前線指揮や純粋な戦力としてそれぞれ優秀です」


「なるほど、指揮官の数が少ない以外は問題なさそうだな」


「はい、兵数さえ整っていればしっかりと結果を出すと思われます」


 ふむ、これはチャンスか?


「俺も客将として付いて行って良いか伯爵に確認するか、これでも15万人規模までなら指揮した事がある」


「え?」


 キョトンとした目で此方を見てくるリア。彼女からすれば剣術が使える程度の子供モドキの錬金術師という認識なのだろうが、軍を率いた戦いと戦況に合わせた兵器作りが本業だったのだ。兵の指揮すらまともに出来ない者が、前線錬金術師を名乗ってどうするのかと言った所である。


「そう言えば伯爵から聞いていないのだったな

。これでも王宮仕えの前線錬金術師だったんだ、ホムンクルスとゴーレム混ぜていいなら25万まで指揮に関しては問題無い」


「に、25万……」


「大陸を制覇する為に頑張ったんだよ、結果国がちょーっと傾いて内乱に整えた25万使うハメになって、流石に国が諸外国に取られる恐れが出て来たから罪全部被って逃げたが、一応は全てに勝てた戦いだった」


「………伯爵が詳しく語らなかった理由が分かった気がします」


「とはいえ、俺が直接指揮を執るのも軋轢がある。念のために持ってきたゴーレムも100体程度はあった筈だから、そっちの指揮を行うとするか」


 そう言ってスクロールを一本取り出し、中身を確認する。どうやら150体分のゴーレムをスクロールの内部に入れてあるようだ。


「150か、あんまり大きい数の奴取ると後で弟子が大変だからと、少なめの奴盗んで来たのが仇になったな」


 やや呆れたように此方を見るリア。まったく、心外である。


◇◇◇


 門の入口で揉めていた為に定刻通りとはいかず、やや遅れて屋敷に入る俺達。ゴーレムを歩かせ馬車の停留所に置いて、屋敷へと向かうとやはりというか、忙しそうに使用人たちが走り回っていた。


「懐かしいな、ウチも戦争の時はこんな感じだった」


「食料や資材を集める必要がありますからね、大事です」


「戦争は兵站命だ、補給が滞ればそれだけ被害も増えるし死人も増える」


「兵站ですか……私は突っ込んで叩き切るのが楽で良いですね」


 騎士相当であればその程度認識で良いのだろうが、伯爵はそれ以上が求められるだろう。頭を抱えてそうならば、計算の手助けぐらいはするべきか。


「おお、ルベド様、それにリア、見ての通り大変な事になってしまいました」


 そう言って出迎えてくれたのは、渋い見た目のおじいさんだ。確か名前は―――。


「ジャルグ様、お疲れ様です」


 リアが呼ぶ、そう、執事のジャルグだ。俺は人の名前を覚えるのが苦手なので、こういう時の為にも従者が必要だ。


「ジャルグ殿、ジスタニア伯爵は何処に?」


「男爵家を交えての軍議中で御座います」


「ふむ、前に渡したゴーレムを此度で使うなら私も流石に口出ししなければならない。また、伯爵に客将として参加させてもらう事は出来るか否か確認を取りたい」


 その言葉に目を丸めるジャルグ。


「よろしいのですか!?前線錬金術師、風の噂には聞き及んでおります。その手を借りれるとなれば、伯爵様もおおいにお喜びになるかと」


「とはいえ、指揮系統の問題もある。今回は手勢で参加する事になるだろう」


「おお……!高名なるホムンクルス連隊ですか!?」


 どうやら俺の活躍に関して、ジャルグ殿は多少知っているらしい。そういや先代から仕えてるなら、話を聞いていてもおかしくはないか。


「いいや、ゴーレムだ。流石にホムンクルスは維持できる設備が無いからな、それにアレの本領は専守防衛、攻勢なら魔獣とゴーレムと人の混成部隊が最もバランスが良い」


「なるほど、勉強になります」


「それで……今回は可能ならばゴーレムを150体程使い独立部隊として動きたい旨を伝えてほしい、それとペンダントを追加で50納品できるとも」


「真に心強い、ジスタニア様にそのように様に伝えて参ります。少々お待ちくださいませ」


 一礼を行い、そのまま早歩きで会議室に向かうジャルグ。さて、ここ等で俺の本来の有用性を見せておきたい所なので、少しばかり頑張る予定である。

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