第3話 ラブレターって響きだけでドキドキします

<西宮月(にしみや つき)視点>


 西宮月(にしみや つき)は一応、中三の女の子。自分で言うのもなんだがかなりかわいい方だと思う。両親のフランス逃亡によって兄貴と二人暮らしだ。


 月(ボク)には憧れのアイドルがいる。彼女の名前は佐々木瑞菜(ささき みずな)。国民的無敵美少女コンテストで優勝して、すい星のごとく登場した女神様だ。その歌声、その演技力、仕草までが月(ボク)の心をキュンキュンさせる。


 世の中に『完璧』と言う言葉が存在するのは、彼女のことを表すためだ。その名の通り『無敵美少女』なのだ。と言っても月(ボク)はレズではない。ただ、ただ美しい存在を求めているだけだ。佐々木瑞菜様が、テレビドラマやCM、映画やコンサートに出るのを月(ボク)は見逃さない。だってそうでしょ。無敵美少女なんだもの。


 お風呂上りにベッドでくつろぎながら、マイテレビでだれにも干渉されずに佐々木瑞菜様の出演番組をチェックする。月(ボク)の至福の時間だ。幸せ過ぎて液晶画面に抱き着いてしまいそうだ。


『本日のゲストは無敵美少女こと佐々木瑞菜さんです』


 今日も彼女はテレビの音楽番組に登場し、異次元の視聴率記録を更新し続けている。


 彼女が微笑むだけで世間の男子どもはもとより、女子だってCDや写真集を買いに走る。握手券なんて気安いものは絶対に配ったりしない。頭数だけの手の届く庶民アイドルなんて足元にも及ばない。雲の上の存在なのだ。今、テレビで彼女の横に並んでいる宝ジェンヌだってかすんでしまう。


『こんにちは。佐々木瑞菜です』


 かっ、可憐だ。今日も月(ボク)の女神さまは健在だ。


『瑞菜さんは歌だけでなく、映画やドラマの演技も素晴らしいと評論家たちから絶賛ですね。恋の物語とかはどうやって役作りしているのですか?』


『映画や舞台のDVDとか見て勉強してます』


『実際に恋をした経験を生かすとか』


 なっ、なんという無礼な問いかけ。てめぇ、司会者!吾妻(あずま)アナめ。貴様、絶対にコロス!近づきすぎなんだよ。月(ボク)の瑞菜様が困っているだろ。ってか困った瑞菜様の眉間のしわまで美しい。新しい発見だ。ビデオを編集して月(ボク)のライブラリーに加えないと。


『私、中学校1年でデビューしたので特定の男の人とお近づきになったことがなくて・・・』


『そうですか』


 そうですかじゃないだろ。このロリコン吾妻。なに、にやついてんだよ。


『はい。春は恋の季節ですよね。私も恋がしてみたいです』


 ・・・。瑞菜様が『恋』。やばい!ちびりそう。てか、ちょっとちびったかも!


『爆弾発言ですね。瑞菜さんならデビュー前でも、ラブレターとか山ほどもらったんじゃないですか』


 瑞菜様がほおを赤らめている。かわいい。またまた、マイライブラリーに追加だ。いいぞ吾妻。よくやった。もっと突っ込め。


『それが、ファンレターとかはいただくのですが。ラブレターは一度もいただいたことがないんですよ。いいですよね。ラブレターって響きだけでドキドキします』


 うっ、うぉー。思わず叫んでしまいそう。恐れ多くて普通は書けないでしょ。『無敵美少女』ですよ!想像するだけで精神崩壊してしまいそう。


『それじゃあ、番組で募集してみましょう。その中から一番を選んで、その男の子のご自宅を訪問するのはどうですか。直接、会って彼の告白を受けるとか』


『想像したら胸がキュンとしました。でも、私なんかにラブレターを書いてくれますかね』


 書きます。絶対に書きます。女神様ー!


『そりゃあもう、トラック一台分は間違いなく来ると思います。じぁあ、決まりですね。JNH放送で独占番組を組ませていただきます』


 どうしょう。信じられない展開。会いたい。絶対に会いたい。女の子でもラブレターを書いてもいいよね。


『と、言うことで突然ですが番組宛にラブレターを募集します。対象は15歳から25歳までの未婚の男性に限定させていただきます』


 終わった。男女差別だ。女の子も加えろ!女性蔑視だ。てめー。吾妻。絶対に殺す。二度、殺す。国連に訴えてやる。


 月(ボク)は熊のように自分の部屋の中を行ったり来たりするしかなかった。


 あっ、閃いた!兄貴に書かせよう!あれで、けっこうイケメンだ。字もきれいだし、文才もある。月(ボク)って天才!おっ。ナイスタイミング。兄貴が夕食の片付けを終えたようだ。色仕掛けで頼もう。

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