救済弁護士

@oshizu0609

第1話 依頼人

〈朝霞市本町のアパートで火事〉

『今日未明、朝霞市本町にあるアパートで火災が発生。アパートは全焼し、焼け跡から一人の身元不明の遺体が発見された。火元は1階の103号室からで、遺体はこの部屋で発見された。現在、この部屋の住人と連絡がつかず、警察では遺体の身元の確認を急ぐと共に、この部屋の住人との連絡に努めている』‐令和元年11月9日付サンケイ新聞埼玉版‐


〈朝霞市の本町のアパート火災、殺人か〉

『11月9日午前零時頃、朝霞市本町で発生したアパート火災で火元である1階の103号室で発見された遺体について司法解剖の結果、気道に煤(すす)の吸引の痕がないことから火災発生時にはすでに死亡していることが判明。警察ではこれを受けて自他殺、あるいは病死の可能性もにらみつつ、引き続き遺体の身元の特定を急ぐと同時に放火の疑いで捜査を始めた』‐令和元年11月10日付サンケイ新聞埼玉版‐


〈朝霞市本町のアパート火災、殺人と断定〉

『11月9日午前零時頃、朝霞市本町で発生したアパート火災で火元とみられる部屋から発見された遺体についてその後の詳しい司法解剖の結果、胸に刺し傷があることが判明。傷は心臓にまで達しており、致命傷とみられる。埼玉県警察本部ではこれを受けて朝霞警察署に特別捜査本部を設置し、殺人と放火の疑いで捜査を開始した』‐令和元年11月11日付サンケイ新聞全国版‐


〈朝霞市本町のアパート殺人放火、遺体の身元判明〉

『11月9日午前零時頃、朝霞市本町で発生したアパート殺人放火事件で火元である1階の103号室で発見された遺体の身元が判明した。DNA型や歯型の鑑定から遺体はこの部屋に住むOLの坂口慶子さん(29)と判明。捜査本部では物盗りと怨恨の両面から捜査をすすめている』‐令和元年11月29日付サンケイ新聞埼玉版‐


〈朝霞市本町にアパート放火殺人、被疑者逮捕〉

『先月9日に発生した朝霞市本町のアパート殺人放火事件で捜査本部では無職・山田純容疑者(31)を放火と殺人の疑いで昨日逮捕した。捜査本部の発表によると山田容疑者は殺害された坂口慶子さん(29)と交際していたが、坂口さんから別れ話を切り出され、山田容疑者は坂口さんと口論となり、カッとなった山田容疑者が手元にあった果物ナイフで坂口さんの胸部を刺して殺害し、証拠隠滅を図るべくアパートに放火したものと思われる。なお山田容疑者は容疑を否認している』‐令和元年12月3日付サンケイ新聞全国版‐


浅井俊宏法律事務所‐朝霞市仲町にある法律事務所である。専門は刑事、その法律事務所に一人の年配の女性が訪れた。


「私、山田純の母の山田美和と申します…」


 この法律事務所の主・浅井俊宏とソファで向かい合った山田美和はそう自己紹介した。既に電話でアポイントメントを取っていたので、浅井もその年配の女性の身元については把握していた。何ゆえに己を頼ってきたのか、その理由についてもだ。


「浅井俊宏と申します…、一昨日、逮捕された山田純さんの…」


 浅井は確かめるように尋ねた。それに対して美和は「ええ…」と伏し目がちに答えた。


「それで…、私の元を頼って来られたのは…」


 浅井はやはり確かめるように尋ねた。これが一番重要な質問と言えたからだ。


「先生がその…、救済弁護士だからです…」


「救済の意味はお分かりですね?」


 浅井は声を低くして尋ねた。それに対して美和はコクリと頷いた。


「息子を救ってやって下さい…、それがあの子のためなんですから…」


 美和は搾り出すようにしてそう言うと、それから嗚咽した。

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