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 ジムカーナの大会で何度か優勝した俺は、とうとうJAF主催のLVS中部選手権にエントリーした。N(ナンバー付き中改造車)カテゴリーのクラス3(1,000cc以上の二輪駆動車)だ。


 場所は、ジムカーナで何度も足を運んだ富山のスキー場、イオックス・アローザに併設されているスポーツランド。競技フィールドは長辺80メートル、短辺50メートルのペーパークリップ・オーバルトラックと同じ形にクラッシュパッドを並べて作られる。競技中にこのクラッシュパッドに接触してしまったら、その時点で失格負けとなる。


 競技の直前に車検がある。この時点でレーザーガンとセンサーが取り付けられ、動作がチェックされる。車体がちゃんと規定に従っているかも当然チェックの対象だ。


 レーザーガンの発射トリガーは、革巻きステアリングの内側、ステッチの部分に沿って並んでおり、左右のどの指でも、どの角度にステアリングを切っていても引くことができるようになっている。よく素人はステア中に間違ってトリガーを引いてしまうのではないか、と考えるようだが、この位置は逆手ステアでも切らない限り触らない部分であり、モータースポーツの心得が少しでもある人間なら、競技中に逆手ステアを切ることはまずありえない。レーザーガンの発射可能秒数にはトータルで30秒という制限があるため、ミスによる無駄撃ちは極力避けなければならなかった。


 競技開始前、自分と相手は競技場の二つの円周部分の頂点にそれぞれ位置して向き合うことになる。レッドシグナルが消えると同時に戦闘開始ファイツ・オンだ。レーザーガンの射程距離は10メートル。それ以上の距離ではセンサーは感知しない。データリンクにより、互いに互いのセンサーにどれだけビームがヒットしているかを、コンソールのHUD(ヘッドアップディスプレイ)の中で見ることができる。そのダメージポイントが累計3秒……即ち100%になったら負けである。競技時間中に決着が付かなかった場合はダメージが多い方が負けとなる。ダメージも全く同じならレフェリーの判定による。


 競技時間は3分。短いようだが、戦闘機同士のドッグファイトを経験している身とすれば、これでも長い方だ。空中戦はいつも始まったと思ったらあっという間に終わってしまう。そして、地上のドッグファイトも似たようなものだった。それに、LVSの競技中、ドライバーは常に左右にステアリングをせわしなく切り続ける。ロック・トゥ・ロックまで切ることもしばしばだ。3分も戦えばへとへとになってしまう。


 LVSのルールは単純だが、それでも禁止事項はいくつかある。例えば、クラッシュパッドの手前でテールをそれに向けて静止した場合、相手はどうしてもヒットできなくなる。なので、この状態が3秒続いたら自動的に失格負けとなる。また、一カ所でアクセルターンし続けるのも禁止事項だ。これをやるとリアタイヤが上げる白煙にセンサーが隠れてしまい、ビームが届かなくなる。これも10秒以上やったらその時点で失格となる。

 それから物理的な攻撃も禁止である。故意を持って車体をぶつけた、とレフェリーに見なされた場合は失格負けだ。路面に油や撒菱を撒いたりするような妨害行為は反則になり、出場停止など重い処分になる。


 参加車両はやはり軽自動車が多かった。とにかく急加速、急減速、タイトターンの連続になるため、馬力があるよりも軽い車体が圧倒的に有利なのだ。中には軽トラで参戦しているようなドライバーもいたが、さすがに重心が高すぎて横転しそうになったりしていた。横転して走行不能になればその時点で失格負けだが、横転の一歩手前の片輪走行は、攻撃をかわすテクニックの一つとして認められている。


 大会はトーナメント方式であり、初戦で俺は順当に勝ち上がり、なんと……優勝してしまった。初出場のくせに。おかげで俺のファイトネーム"RYO"――下の名前の「遼」そのまんまだが――は一躍有名になり、「シルバー・イーグル」などという異名まで取るまでになった。元イーグルドライバー(F-15Jのパイロットのこと)の俺にとっては光栄なことだった。


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