「明日、死ぬかもしれない。」

朝陽うさぎ

Ⅰ 裏入団


 魔導士の帝王でんせつになりたいと思った。


 それは、6歳の頃。

 僕は、都より遠く離れたラルファ村で育った捨て子。

 毎日、神父様とシスターと、育児放棄された子や両親が亡くなってしまった子と一緒に楽しく暮らしていた。


 ある時、敵襲がやってきた。

黒海の紅鳥こっかいのべにどり」と名乗るテロリスト集団。

 そのうちの一人が、この村に襲いに来た。


 でも、助けてくれた魔導士がいたんだ。

 水魔法の使い手で、精霊ウンディーネも一緒にいた。


 僕らの村ではあり得ないほどの魔力パシフを操っていた。

 逃げることも忘れ、ただ茫然と見つめていた。


 きっと皇族おうぞくなのだろうと確信していた。けれど、皇族は僕らを人として扱わない。

 この人は違った。

 この人も、僕らと同じ‘下民’だった。


 どうしたら、あんなに強くなれるんですか、と、僕は問うた。

 その人はちょっと考えてこう答えた。

「小さいころにたくさん練習して、たくさんご飯を食べて、強くなりたいって思うことかな。」


 その人は村を去る前に、こう言い残した。

「俺の名前はソルシェ。君がもし、魔法騎士団ナイツに入るのなら、皆を助けてあげられる、優しい魔導士になってくれ。

 そして、いつか追い掛けて来い。」


 =====================================


「これが、魔法騎士団ナイツに入る理由です。」


 僕は―カイル・リウィルスは、魔法騎士団ナイツ入団試験の最後の面接でこ

 う締めくくった。


 面接官はカルテを見て、「新入りにしては身体能力もまあまあ高い。魔力の蓄え量も多い。だが、入団する理由わけが他にないのならば、無理でしょう。」

「そうですか……。ありがとうございました。」


 面接会場となっていた城を重い足取りで出ていく。


「やったぜ、合格だ!」


「練習した甲斐があったな!」


 合格判子を押されたカルテを持った2人の青年が喜んでいる。

 あの青年たちはどんな理由を話したんだろう。

 きっと「国のために役立ちたいから」とか、「ナイツ団長の様になりたいから」というくだらない理由なのだろう。

 僕もおとぎ話みたいなものなんだけどな。



 今日も藁人形相手に特訓をする。

 もちろん人っ子一人いない、森の奥深くで。

 地元の人も迷い込んだら出られない、樹海だが、僕には「道標」があるから心配無用。

 毎日同じ動作を繰り返す。

 攻撃しては藁人形に当たり、また藁人形に攻撃する。

 5分ほど練習すると、何かが飛んできた。

 鳥でもなく、魔獣でもなく、れっきとした人。

 しかも、飛んでいるのではなく、瞬間移動している。

 時間クロック属性か……珍しいな。

 何処かに消えたかと思うと、僕の目の前にしなやかに着地した。


「わッ!

 」

「ああ、びっくりさせてすまなかったね。

 ねえ、君の魔法見てたんだけどさ、自然魔法だよね!すごいなあ!

 もう一回見たいんだけどいいかな?」


 なんだろ、この人……初対面なのにグイグイ押してくる…。


「あの、あなた誰ですか?」


「え?ああ、僕?グローバー・クロックス。」


「いや、名前だけ聞いてもわからないんですけど……。あれ、その紋章は…。まさか……国王陛下ぁ⁉

 大変失礼致しました!どうかお許しを!」


「あああ、そんなにかしこまらなくていいよ。いやね、都はなんか息苦しくて、こうやって毎日抜け出しているんだ。」


 国王陛下が目の前にいる……これは夢かと思うほど、頬を思いっきりつねる。

 感じるのは頬の痛み。

 そして、国王が目の前に立っていることの驚き。


「…夢じゃない。」


「やっと自覚したようだね。」


 国王は30代後半という雰囲気を持ち合わせていて、背もまあまあ高く、目つきは皇族とは違う。


「もしかしてだけど、今日、魔法騎士団ナイツの入団試験を受けに来たカイル・リウィルス君かい?」


「そうです。結局落ちてしまいまして…。」


「ふうん、……じゃあ、入団しよう!」


「え?どういうことでしょうか?」


「スカウトでも、ナイツには入団できる。僕が君をスカウトしたということにして、これで試験を受けなくても入団できるよ。」


「でも…、そんなことを陛下にやらせていただいてもよろしいのでしょうか。」


「大丈夫。僕が保証するから!」


 =====================================

 かくして裏入団することになった僕は、どんな仲間に会うんだろう……。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る