回想⑬ ~涙を流して~
◇
『アイツ無視されてやんの。ざまぁないよな』
『今までキモオタ隠してた報いだろ、あのクソがり勉』
あれから約一カ月が経って、"無視"に続き陰湿な"イジメ"が始まったよ。
下駄箱の中に『死ね』とか『屑野郎』とか書かれてある紙が置いてあるのは日常茶飯事だったし、
廊下を歩くと冷たい視線と共に陰口を叩かれたし、学校から家に帰ってきたら髪に誰かが噛んだガムが絡みついていることもあった。
授業中に先生にばれないように消しゴムの消しカスがとんでくるときもあれば、学校に持って来ていたラノベが落書きと共に破られていたこともあった。
……他にも、たくさん。
そんな心を殺した生活が続いたある日。部屋でラノベを
お盆に二人分の氷の入ったコップとペットボトルのサイダーを載せながら。
『来人、テーブル出してそこに座れ』
『……いきなり、なにさ』
『今回のこと、最初から今起きてることまで全部私に話せ。話にまとまりが無くても時間が掛かっても良い。とにかく吐け』
『いいよ、もうどうでも……』
『良い訳ないでしょ……っ!!』
顔を上げると、ねーちゃんは身体を震わせながら目尻に涙を浮かべてた。何かに必死に耐えるようなその姿に僕は思わず言葉を失ったよ。
普段の冷静な様子と違って、語気を荒げながらねーちゃんは言葉を続けた。
『今自分がどんな顔をしてるのか分かってる!?』
『どんなって……』
『―――心がどんどん擦り減って、今にも死んじゃいそうな顔よ!』
『え……?』
『私はそんな
『…………!』
『ねぇ、お願いだから話してよぉ……! 何も出来ないまま、もう日に日に来人が傷付く姿なんて見たくないのよぉ……っ!!』
涙をぽろぽろと流して感情的に自分の想いを訴えかけるねーちゃんの姿を、僕は初めて見た。
あのときは感情が
ねーちゃんはそのときのことあまり思い出したくないだろうから言わないけど、すっごく感謝してるんだ。
僕はゆっくりとあのときのことを全部話した。上位グループとの関係や光輝達が教室で話していたこと、結衣さんと揉み合いになった経緯のこと、揉み合った際に僕が見た全てと、無視やイジメのことなど細かな詳細全部。
座りながら話を聞くねーちゃんは、説明を行なう僕の両眼をじっと離さずに
やがて全てを話し終えた僕は深呼吸してねーちゃんの方を見ると、こぶしを握りながら目を瞑っていた。その様子はまるで激しい感情を必死に心の中で押さえつけているみたいだった。
『―――つまり、"親友"ごっこをしていた自己満グループから来人は都合よく利用されたってことか……!』
『……信じて、くれるの?』
『何年一緒にいると思ってんだ。私はお前の姉だぞ? 来人がウソをついているかどうかなんてすぐに見抜ける。だが、そうか……、ようやく腑に落ちた』
『……?』
『ほら、逢沢さん家に伺った際にあの妹っぽい子が話していたろ? 最初はどういう事情なのかと思ったが、見守るつもりでいたんだ。だがお前がいたところがそんな面倒なグループだったとはな……』
しばらく無言が続いたあと、ねーちゃんは強い意思を込めて僕を見つめた。
『―――来人、逃げても良い。だけど好きな物だけは絶対に手放すな』
『え?』
『私はもう卒業したから中学での来人の現状を変えることは出来ない。でも、私は家でお前の話なら聞いてやれる』
『ねー、ちゃん……』
『もしそれがイヤだったら別の方法でもいい。来人が前を向けるまで、私がなんでも受け止めてやる』
『…………っ!』
あのときは涙をこらえるのに必死だったなぁ……。ねーちゃん、そのことに気付いていたろうに気付かない振りして僕を気遣って自分の通う白亜高校での話をしてくれた。
"高校生活は楽しいぞ"とか"今度生徒会選挙に立候補するつもりだ"とか。そしたら本当に生徒会に入って、副会長に選ばれてさ。そのときはすごい嬉しそうだった。
正直あのときねーちゃんと話した会話が無かったら、白亜高校にも行かずに引きこもってたんじゃないかな。
………………。
でもね、僕が好きな物を拒絶される怖さだけはどうしても離れなかった。
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