回想⑦ ~図書館での交流~





 それからしばらく、夏休み中や休日に図書館で宝条さんとの交流が始まった。最初は敬語だったけど、一緒の時間を過ごすうち砕けた口調になっていったのは嬉しかったなぁ。


 文音さんとも徐々に打ち解けていっていたよ。最初は彼女の独特な話し方に慣れない感じだったけど、これは宝条さんの適応力がすごいという他ないね。


 彼女の家はなんかとても厳しいみたいでさ、スマホも持ってないしサブカル的な類いな物は一切買って貰えないし自分で買ってもダメなんだって。

 だから、彼女に会うたびに僕が持参していた数冊の内のラノベを貸したりしてたんだ。


 彼女はとても頭が良くて、僕が説明するライトノベルのことなんてすぐに理解しちゃったんだ。読んだラノベの感想を言い合う時なんて、登場人物の心情や会話の中に含まれた言葉の本当の意味を上手に汲み取ったり、僕もなるほどと思う場面も何度かあった程だよ。


 本当ならすぐに下の名前を教えてくれても良い筈なのに彼女はとても律儀でね。『まだまだたくさんラノベのこと教えてよ』って、にこやかに笑いながらもう向上心がとにかくすごかった。


 その日も、宝条さんと恋愛ラノベの感想を言い合ったりしてたんだけど……。



『つまりはね、この主人公の生徒会長としての初スピーチが成功したのは義妹ちゃんとの模擬練習という一週間の絶え間ない努力があったからこそなんだよ……!』

『なるほどぉ……。両親の急な再婚で気持ちの整理がつかず兄妹としては希薄な関係だったけど、この一週間という二人だけの空間の中で主人公の家族への想いを知り義妹の冷たい態度が軟化。この彼女の口元を覆う仕草は好意の裏返しなんだ……』

『おぉ、宝条さんすごい……! そこまで登場人物の心情を汲み取っちゃう?』

『義妹をスピーチを聴く観衆に見立てて、さらに極度のあがり症の主人公が緊張しないよう観衆を彼が好きなモンブランにリンクさせる練習も実に効果的ね』

『その努力……シミュレーションの成果が無事実ったってことだね!』

『うん、そのシユ……ッ、シュミュ……ッ!』

『あはは、確かに言い辛いよね』



 宝条さん、"シミュレーション"って言葉を言えなくて涙目になっていたのは可愛かったなぁ。どうやら彼女、はきはき話すようには意識しているみたいなんだけど元々滑舌が悪かったみたいでね。カノジョなりに努力はしてるらしいけど、横文字の言葉は苦手みたい。



『じゃあ、もう"シュミレーション"でいいんじゃない?』

『え……?』

『こっちの方が簡単だし、言い辛いんだったら無理に頑張らなくてもいいだろうしね』

『ぁ……。―――うんっ、じゃあ、シュミレーション・・・・・・・・っ!』

『ばっちり!』



 次第に宝条さんの自然な笑顔が増えるたび、すごく胸が暖かくなって嬉しくなったのを思い出すよ。ライトノベルという共通の話が出来る女の子だったっていうのも強いかな。


 僕はいつも通り宝条さんと文音さんを交えて談笑して、次に会う日を伝えて笑顔で別れた。


 ………………。



 ―――たぶん僕は浮かれていたんだ。グループで色んな思い出を作れて、ライトノベルという夢中になれる物に初めて出会って、宝条さんや文音さんというかけがえのない人に出逢えた。


 嬉しかった。楽しかった。一番充実していると思っていた。


 満足していた・・・・・・



 だから、僕は気が付けなかったんだ。



 カースト上位グループに関心が無くなりつつあった僕に、光輝たちが次第に黒い感情を向き始めていたことを。




ーーーーーーーーーーー

伏線回収ですー!


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