回想③ ~旅行と恋バナ~







『あっちぃ……夏だから仕方ねぇけど、冷房付いてるのにこんなに暑いなんてありえねぇだろ……!』

『あははー、滑り込みでギリギリ旅館の予約が取れたけど、まさか冷房が壊れてるなんてね……』

『これも、試練だ。窓を、開けよう』



 彼らと一緒に学校を過ごすようになってから、時が流れて中学二年生になった。


 中学二年の夏休みには上位グループのみんなで一緒に海に行ってさ、テレビにも出るくらいの高級旅館に宿泊したりしたんだ。あ、もちろん男女別々だよ?

 光輝の家は家族経営の病院してるからお金持ちだし伝手つてもあったから、夏真っ盛りのシーズンでも基本料金よりも低い値段でなんとか泊まれたから良かったんだけど……。


 まさか、冷房が故障しているとは思わなかった。動いたり止まったりするし、風も微妙に生ぬるいし……ははっ、あの時の光輝の苦しむバカ面は傑作だったな。

 あ、因みに結衣さんたちの客室は快適だったらしいよ。


 でも僕らは浴衣姿でもまるで室内がサウナ状態だったから、端にある冷蔵庫とか置いてある小さいスペースのところの窓を開けて、冷蔵庫から飲み物をだして、眠れるまで椅子に座りながらテキトーな話をしたんだ。


 明日も海で何をするか、なんのお土産を買おうか、とかね。



『おっ、そうだ。お土産買っていかなきゃな? 家族とかクラスの奴らに。お前らも買ってくだろ?』

『ああ。祖母に、ご当地名産の、笹かまを、買わなくては……!』

『僕も笹かまと……饅頭と木刀かな?』

『いや修学旅行じゃねぇんだから!』



 僕がお土産として買いたい物なんて特に思い浮かばなかったけど、その空気というか、流れで言わなくちゃいけないと思って……すでに出た物を言ったり、ふざけて修学旅行の定番を言ったりもしたなぁ。

だって、そうすれば僕に何もないことが知られずに済むでしょ?


 ………………。


 一年もあのキャラを振る舞うと、もう深く身体に染みついたようで、僕は違和感なく上位グループ内の『頭が良い生徒』として光輝たちや他の生徒には認知・周知されつつあったんだ。


 光輝は運動神経が良かったからサッカー部のエースでイケメンということもあって女子にモテたし、誰にも分け隔てなく接する事から男子にもアイツのことを悪くいう奴なんていなかった。


 紅羽さんは僕らのグループの他にも女子のグループを作ったりして、いつの間にか中学の三大派閥のリーダー格になってた。

 ギャルな見た目だけど容姿的には整っていたから、同じ女子からは羨望の的だったし、派閥の女子同士が喧嘩や言い合いをしてると、全部紅羽さんが鶴の一声で黙らせていたよ。


 結衣さんは一年の頃よりもさらに魅力に磨きがかかったし、他の面々に何か用事があったときはなにかと二人だけで休み時間や放課後過ごしたなぁ。その分、結衣さんの色んな事を知ったよ。実は不登校気味の双子の妹さんがいるとか、髪にコンプレックスがあって、妹さんのような綺麗な黒髪が良かったって羨ましがっていることとか。


 あ、それと学年関係なく他の男子生徒からよく告白される回数が増えてたなぁ。何故かその全て断ってたから理由を聞くと『みんなで"親友"として一緒に過ごす時間が減るのが嫌だから』って言ってた。


 今思うと、彼女はみんなで一緒にいることをとても大事にしてたな。

 

 勲は特に変化らしい変化はなかったかな。その大柄な体格を活かして、柔道部としてメキメキ成果を出していたくらい? ……あ、そういえば彼女が出来たって喜んでいたっけ。



『それにしても今日は海で遊んで一日もあっという間に終わったな。部屋はクソ暑いけど、楽しかったよな!』

『スイカ割り、ボール遊び、遠泳……綺麗な貝殻も、落ちていた。みんなで遊ぶのも、楽しかったが、彼女とも、今度一緒に、来たい……!』

『あはは、確かに楽しかったけど三年生になったら遊ぶ機会は減っちゃうだろうね。部活や高校受験のこともあるだろうし』

『だよなー。俺なんて親が医者だから高校を卒業したら医学部に行けなんて言われてるけど、部活で疲れて全然勉強できねーし、不安しかねーわ』



 元々勉強やら部活やらで、なかなかみんなで遊べる時間を確保するのは難しかったけど、季節系のイベントは楽しみたいってことで、一年の頃からみんなで話し合ってなんとか予定を都合して上位グループの面々で遊んていたんだ。


 海、花火、夏祭り、ハロウィン、クリスマス、大晦日、初詣、バレンタイン……。


 ……え、風花さん羨ましい? んー……じゃあこ、今度、その、僕で良ければ一緒に出掛けたり……って喰い気味に反応した!? じゃ、じゃあ一緒にいこっか……! あははー……!

 あれ……? そういえば確か風花さんは三ツ橋さんと一緒の中学だったんだよね? 中学の頃、季節系のイベントは三ツ橋さんとは―――いやなんでもないですはい。


 えぇと何の話してたっけ? ……あ、そうそう、海の話だ。ごめんね風花さん、ド忘れして。


 それでさっきの続きだけど、進学の話をしたりいさおが"彼女"の話をしたから、好きな人の話になってね。


 ―――そこで僕は、なんで光輝がモテるにもかかわらず今まで女の子の告白を断り続けていたのかを知ったんだ。



『……なぁ来人。お前、結衣のことどう思ってる?』

『? どうって……友達、かな。いや、結衣さんの言葉で言えば、親友?』

『本当にそれだけか? それ以上の感情はないんだな?』

『そうだけど……こ、光輝……? なんでそんな必死に聞いてくるんだ?』

『いや、それは……っ、……まぁ、来人にならいいか。いい機会だし』

『?』

『…………実はオレ、小学校のときから結衣のことが好きなんだよ』

『……。え、えぇ!? そうだったの!?』

『俺は、知ってたぞ』



 思い当たる節はあったんだ。結衣さんと僕が話していると途中で割り込むようにさり気なく話題を変えたり、悩み相談を受けている彼女を遠目でじっと見つめていたりね。

 気にならない小さな違和感だったけど、光輝から結衣さんのことが好きだという告白を聞いて、その理由が判明した瞬間だったよ。


 僕って勉強は出来るのに、案外恋愛面では鈍感なんだよなぁ……。


 って、そんなに力強く頷かないで風花さん!! 泣くよ? 僕泣きじゃくっちゃうよ!?


 ふぅ……。そしたら、アイツは安心したかのような笑みで僕にこう言ったんだ。


 

『ホント良かったぁ……! お前と結衣の距離が近いからなんだか不安だったんだけど……そうか、結衣は親友か!』

『あ、あぁうん……』

『今は部活とか大事な時期だからまだ幼馴染……"親友"だけど、いずれオレは結衣に告白するつもりだ。そうだな……高校に入学する前、いや、中学校を卒業する辺りにするのが理想だな。……ふぅ、勲はこのこと元々知ってたけど、結衣はもちろん、紅羽にはまだこのことは言ってないんだ。正直来人は不確定要素で不安だったから今まで黙ってたんだが……ようやく肩の荷が下りた感じだぜ! それと疑ってすまん! それでなんだが……もちろん、応援してくれるよな? オレのこと』

『……あ、あぁもちろん! 応援するに決まってるじゃん! 頑張れ頑張れ!』

『ああ、ありがとう来人!』



 今でも覚えてる。あの嬉しそうな顔、弾んだ声。


 その後アイツが言った―――オレ達、ずっと"親友"だぜっ!! という言葉。



 それがずっと、耳にこべり付いて離れない。









 思えばあの日、あの些細な告白がきっかけで、僕らの歯車が軋んでいったんだと思う。






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