◇ある少女のおはなし。
・今回のお話は少しテイストが違います。敢えてですのでご了承ください。
ある女の子は、とても裕福な家庭に生まれました。
IT系の大きな会社を父親が経営しているおかげでお金には何一つ不自由していませんでした。
何不自由しないお金や恵まれた環境、他人を思いやる優しい心を持っていた女の子はすくすくと素直で愛想の良い子に育ちます。
笑顔の絶えない家庭として近所からはとても有名でした。
しかし、それは女の子が物心つくまでのおはなし。
―――父親と母親の教育方針の不一致。
母親は娘には自由に伸び伸びと育ってほしいと思っていましたが、父親は社長という立場があります。
幼少期から言葉遣いなどの躾けをして外に出しても恥をかかない様にするべきだとして教育面で真っ向から母親と対立しました。
結果、女の子には礼儀正しい娘に育つように厳しい躾けや教育を施し、幼い頃からピアノや茶道、お琴、芸術アートといった習い事をさせていました。
女の子も何一つ不満を言うことも無く続けます。
そして中学生に上がった頃には容姿端麗、頭脳明晰で周囲への礼儀も正しく、利発的で聡明さを持った女の子へと成長しました。
中学生活を円満に過ごそうと考えていた女の子。
自分の魅力を理解している女の子は、自らの立場や人心掌握する
―――しかし、女の子は自分自身や周りに嘘をついていました。
本当はこんな
本当はこんな
本当はこんな困っている人がいたら誰にでも手を差し伸べるような
本当は、本当は、本当は。
―――また、家族三人で笑い合いたかっただけなのに。
……だからこそ良い子であろうとしたのに。
夏休みのある日、父親の強制に耐えきれなかった女の子は途端に酷く窮屈感が芽生え、母親の制止を無視して家を飛び出しました。
前日、仕事で忙しい父親と一緒に久しぶりに三人で食事だというにもかかわらず、父親が話を出すのは外側の
幼い頃から積み重なった我慢に、
家を出たのは女の子が認知している自分自身と、父親にとって理想の自分が乖離している事を改めて自覚した故の行動だったのです。
かといって、今まで習い事ばかりで遊びたくとも外で友達と遊んだことが無い真面目で箱入りな女の子。バックを持って家を飛び出したは良いものの、遊び方を知らずに途方に暮れます。
それでいて季節は夏。肌をじりじりと焼くような暑さが女の子に襲い掛かりますが、あれだけ羨ましいと思っていた、クラスの子が楽しそうに話していたショッピングモールなどの娯楽施設に行く気力は今は到底ありませんでした。
しばらく
どうやら図書館のようです。
女の子はそこならばと、入り口の自動ドアへふらりと足を進めます。
推察通りやはり其処は図書館で、別フロアの二重の自動ドアを通った先には大量の本が収納された本棚がいくつも並べられていました。
外気温とは異なる、ひんやりとした冷たい冷気と本の匂いに女の子は少しだけ表情を緩めました。
しかし入ったは良いものの目的はありません。一度落ち着こうと近くの読書スペースにでも座ろうとぐるりと辺りを見渡すと、ふと入り口からでも見える机が並んだ勉強・読書スペースが目に入ります。
どうやらたった一人だけ座っている人がいるようでした。
そこに座った男の子はとても目を輝かせていました。
何をしているのかと女の子がゆっくりと近づいて様子を伺うと、なにやらイラストの女の子が描かれた挿絵が挟まれている小説を読んでいる事に気が付きます。
周囲の事などまるで気にしないかのように食い入るように見つめており、そのキラキラとした瞳はまるで、その小さな本に閉じられた幻想的な世界に魅入られているようでした。
女の子は思わず、その男の子の姿に
改めて突き付けられた事実にずきりと胸が苦しくなると同時に、不思議とその男の子のことが気になりました。
気が付いたら、無意識のうちに唇が動いていました。
「―――ねぇ、その本って面白い?」
「え………?」
これが、男の子―――中学時代の
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