第31話 腹黒天使は嫉妬する
「りっちゃんりっちゃんりっちゃん!! それでねぇ、今日計画通りお昼休憩に来人くんをお弁当に誘ったんだぁ! しかも場所は屋上だよぉ? ラノベでは二人の仲を深めるにはそこが最適だっていうからさぁ!」
「へー」
「二人で並んで地べたに座るときも私が汚れない様に自分からブレザーを敷いたりとかもう来人くんホント紳士でぇ……!」
「ふーん」
「気持ちを込めて作ってきた弁当もすっごくべた褒めしてくれたんだぁ。あーんも出来たしぃ、本格的に気合いを入れて作った甲斐があったよぉ……!」
「ほーん」
「……真面目に聞いてるぅ?」
「聞いてる聞いてる」
……ホントにぃ? さっきから投げやりな返事ばっかりじゃぁん。ほらぁ、目の前に鎮座するチョコレートパフェを睨め付けながら頼まなきゃ良かったみたいな表情しないでよぉ。
もう、ドリンクバーのコーヒーばっかり飲んでると胃が気持ち悪くなっちゃうよぉ?
今日は料理部は休みなので、放課後に私とりっちゃんはファミレスにいた。理由は言わずもがな、本日の成果をりっちゃんに訊いて貰う為。
いつもお昼休憩に昼食を一緒に食べているりっちゃんには申し訳なかったけど、昨日の段階でSNSで連絡済み。こうしてファミレスで何かを驕るという約束で手を打っていた。
現在りっちゃんはドリンクバーとチョコレートパフェ、そして私は同じくドリンクバーと皿に乗ったキャラメルクレープを注文して食べていた。
甘くて美味しぃ……! もぐもぐ。
それからも今日の彼との出来事を私の嬉しい気持ちと一緒に、
「それでぇ、なんだか来人くん女の子に触るの元々抵抗があったみたいだから、私で触る練習に付き合ってあげるって提案したんだよねぇ。……まぁ、シミュレーションに付き合って貰っているお礼っていう名目だけどぉ、本当は単純にどさくさに紛れて頭とか頬とか肩とか腕とかお腹とか触って欲しいからだったりぃ。うん、来人くんにならどこ触られても平気だしねぇ……♡」
「うっわ腹黒ぉ……!」
「乙女的戦略って言って欲しいなぁ?」
そんな引き攣ったような表情しないでよぉ(にっこり)。好きな相手に意識して貰う為には自然な形で自分へ有利に動くようにしないとぉ。
来人くんにとっては私が善意で提案しているように見えたかなぁ? 正解だけどぉ、すこーしだけ私欲が混ざったのはごめんねぇ?
―――念の為、暗に私だけに触れるように釘は刺しておいたからひとまず大丈夫かなぁ。
彼が土下座までしたことはりっちゃんには言わない。親友であるりっちゃんに対しても下手に彼の印象を
まぁ気になっている人へ手を出されたくなかったら、その人の格好悪い無様な部分を話すのが一番なんだろうけどぉ……彼のあの姿は、彼の中身の誠実さを表す証明以外のどれでもないから。
来人くんらしい素直さに思わず笑みが零れる。
「はぁ、それで? 風花のことだから、また次も弁当を作ってくるような話はしたんでしょ?」
「せいかいっ、さすがりっちゃんだねぇ。……でもそのときお昼休憩があと少しで終わりそうでさぁ、さらっと急いで話したからぁ、それに対して返事は貰ってないんだよぉ」
「もう、しゅんとしないでよ―――ほら」
「んむぅ……! もぐもぐ…………ありがとりっちゃん」
思い出すと、今まで内心盛り上がっていたテンションが嘘だったかのように沈む。小さい事だけれどもどうしても気にしてしまう。
りっちゃんは多めの生クリームとチョコソースの掛かったチョコブラウニーをスプーンに乗せると強引に私の口の中に押し入れた。咀嚼するとホイップとほろ苦いチョコのあまさが押し寄せて来る。
あまい、おいしぃ……!
うん、すこーしだけ元気出たよぉ……、ありがとぉ……。
本音を言うと、今回お弁当を来人くんに作ってきたのだってぇ、ただ単純に私が作ったお料理の味を彼に食べて貰いたかっただけだしねぇ。
なんていうかこぅ……先に胃袋を掴んじゃおう的なぁ? ……はぁ、来人くんはシミュレーションだと思ってる感じだったから私もそう振る舞ったけどさぁ。本当は『来人くんの胃袋ゲッツ大作戦!』だったんだけどぉ。
はぁ、何の捻りも無い題名ぃ……。
あぁ、あーんしたのは嬉しかったなぁ。あの餌をねだるような表情が堪らないよぉ……。
口の中の物をごっくんと飲み込むと、りっちゃんが話しかけてくる。
「元気出しなさいよ。たぶん彼、嬉しくないとか、無視した訳じゃないだろうから、そう落ち込むことないわ」
「なんでそう言えるのさぁ……」
「確かに私はこれまで一度も阿久津君と話したことは無いけど、これまでの風花の話を聞いていると自然と阿久津君の人間像は浮かび上がってくるわ。引っ込み思案だけど優しくて素直で、約束したことは最後までやり通す。きっとそんな誠実さを持ってる男子なんでしょ? きっと昼休憩の後だってその返事を話題に出す事が出来ずに、モヤモヤしてしていたに違いないわ。もしかしたら今だって家に帰ってベッドでごろごろ悶えながら後悔しているかもしれない」
「なにそれ可愛いぃ……! でもその妙に具体的な内容にすこーしだけジェラシー……」
「え、笑顔で睨まないでよ……可愛いから無駄に迫力あるし……。言っとくけど風花から聞いた彼の性格であればの話だから! 全部想像だからね!」
じぃーっ。
テーブルに両肘をついた私はオレンジジュースをストローで飲みながら目の前の慌てた表情のりっちゃんを見つめた。
なんだか来人くんの性格とか人柄とか、実際に直接話したことない割にほぼ合っていることにすこーし、すこーしだけぇ! ……
うん、このまま少し意地悪しちゃおう。じぃーっ。
「まぁ話を戻すと! とにかく、阿久津君とそういう取引……ごほん。触る練習に付き合う約束を交わしたんだったら、風花からはむやみに彼にボディタッチとかはしない方が良いわね」
「なんでぇ?」
「むやみやたらに異性に触る"痴女"だと思われたいの?」
「思われたくないでぇす!」
今日はもう意地悪しないからもっと助言してくれると嬉しいでぇす(素早く挙手しながら)!
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